ダイアナとジュディが揃って出勤の日。
今日も、ミスター・ジャーヴィス・ペンドルトンがやって来た。
ニコニコしながらジュディを指名し、個室料金を払う。
しばらくするとダイアナも呼ばれた。
入ると、朱ら顔のジュディに手招きされる。腰掛ける。
へえ、この方が、お噂の。
ジャーヴィス「ミス・ダイアナ。ジュディのルームメイトだそうですね。
寮へ帰ったら、今日のことも、たっぷりと語らい合うのでしょう?」
ダイアナ、さりげなく顔をひきつらせる。
どんなリアクションをしたらいいものだろう。
ジャーヴィス「そんな緊張しないで。当然ですよ。
むしろ包み隠すことなく愚痴り合い毒を吐ける間柄であってほしい。
私は、あなた方から決して本気で嫌われることのない客でありたいと思っています。同時に、楽しく笑い転げられる話題も提供したい。
だからお呼びしたんです。構っていただけますか?」
ジュディはおかしくてたまらないようだ。
ああ、こんな紳士なんだなとダイアナは納得する。警戒レヴェルを一段階下げた。
カクテルをいただきながら、ふたりの会話に少しずつ混ざっていき、まずは店にもお客にもコストに見合うだけの貢献をしてみせるところからスタートする。
ジャーヴィス「私は実業家、くだけた呼び方をするなら商売人です。
商売人は職人と違って、頑固一徹であってはよくない。もう少し柔軟でなくては勤まりません。
政治家はもっとこだわりを捨て、より溌剌と動き回る必要がある。
スポーツやゲームでいえば前衛・中衛・後衛、あるいは陸軍における歩兵・機甲部隊・砲兵のような違いですね。それぞれの役割が明確にあって、連携をとれることが勝利の秘訣となります」
ダイアナ「組織力が大切だ、ということですね。それは、どこで、なにを学べば身につけられるのでしょう」
ジャーヴィス「学校という牧場へ預けておけば、ある程度の職人あるいは歩兵を養成することができます。
数が必要だし、頑固あるいは愚直であってくれればいいので、最前線で戦うことを尊しとするイデオロギーを与えておけば量産しておけます。
ひとまず、国内で生まれたすべての児童を学校へ通わせることを義務化する。これは政治家の役割ですが、合理的な考え方なので世界中の多くの国で採用されているのですね」
ジュディ「商売人や政治家は、その工程ではつくることができないのよねえ」
ジャーヴィス「直接はね。
ただ、学校教育では必ず落ちこぼれが生まれます。単に頭が脆弱なだけの個体も含まれていますが、力があって規格外という逸材も稀に見つかる。
これをうまく育てれば、機甲部隊を誕生させられます。
私もその一人でした。
だから今、こうして実業家を名乗っていられるんです」
ダイアナ「政治家はどこから?」
ジャーヴィス「職人は、自分たちを指揮する立場にいる商売人が何を考えているのか、どこから現れたのか、わかりません。頑固で視野が狭いから見えないんです。
私も同じで、政治家とは雲の上の存在です。
ただ類推を働かせるなら、職人たちの下から商売人が生まれるのと同様、われわれ商売人グループの落ちこぼれから政治家が生まれるのかなと考えることは可能です。
私は自身が機甲部隊の一員であることに誇りを抱いていますが、たぶんそう感じている限り、政治家にはなれないし、政治家の考え方に共鳴することも難しいのでしょう」
ダイアナ「なるほど……ユニークですが合理的な社会構造論ですね」
ジャーヴィス「それぞれが適材適所におさまって安定しているのなら、それでいいはずですよ。職人が職人気質のまま商売人グループへ上がりこんできたら迷惑だし、私だって政治家たちの前で政治に口を出せば同じように扱われます。
それぞれが受け持ちをしっかり守りつつ連携を保ち、陣形を崩さなければいいんです」
ジュディ「ジャーヴィーは今でこそアビグウェイトの名士ですけど、落ちこぼれだった頃のエピソードをもっと聞きたいわ。どんな子供時代だったのか。ダイアナも、きっとそちらにより強い共感を示すはずよ」
ジャーヴィス「ははは。私がニキビだらけで妄想しか取り柄のなかった時代のことか。ダイアナに話せるのは、もうちょっと親しくなってからだね。
でも今だって家へ帰れば肩身の狭い境遇ではあるんだよ。
36歳で独身というだけで変人扱いだ。母親からも、ネチネチ責められてます」
ダイアナ「まあ。その……結婚されないのは、なにか理由がおありで?」
ジャーヴィス「女性恐怖症なんですよ。話すどころか、目を合わせるのすら怖い」
ダイアナ「え?……どこが?」
ジュディ「ほら不思議がられてる」
ジャーヴィス「君がここにいるからだよ。わかっているくせに」
この後しばらく続いた二人のじゃれ合いをまとめると。ジャーヴィスにとってジュディは、やっと出会えた、あまり緊張せずに話のできるミステリアス・ガールなのだという。
過去に優しくしてくれた女性と似ているからとか、ではないらしい。
同居している実母は毒親なので、彼女とも類似点は無い。
しかし何故か波長が合うのだと。
ジュディはジャーヴィスに対してシンパシーなど感じなかったが、オクテの紳士からここまで讃美されて嬉しくないわけがない。
この調子だと、遠からずジャーヴィスは求婚するな。とダイアナは思った。
ミスター・ジョン・スミスが怒り出さなければいいけど。