アン、マダム・クラリスに呼びつけられる。
書斎へ行く。
お客様がいた。かっこいい美女だ。フライトジャケットで完全武装。
あからさまに、ただものではない。
クラリス「アン。以前、サイレンサーに使えそうな石鹸の話をしていたわよね。
あるだけ持ってきてくれない?」
アン「倉庫にあるのも全部だと、200ポンドくらい溜めこんでますけど」
クラリス「じゃあ両手で抱えてこれる程度でいいわ。お願い」
アン、持っていく。
美女、匂いと手触りをたしかめたあと、指をめりこませてみる。マダムに微笑みを向ける。
その後、3人で移動。つまりアンもつきあわされる。
コッパー・ビーチズには隠し部屋がいくつかあり、マスターIDを持っていても更に暗証番号を知らなければ出入りできない仕組みになっている。
アンも初めて入る部屋だった。
イヤーマフを手渡され、アンだけが装着する。
美女、どこからともなく拳銃を取り出し、作業台に載っている、人体模型に見えなくもない物体の表面に石鹸を押し当て、銃口をくっつけて、発射。
硝煙が漂う。
角度を変えたり、間に空隙をつくったりして、更に何発か試す。いくつもの石鹸が砕け散る。
時々、メモをとる。
納得したらしい。
エアシャワーを浴びて、3人で書斎へ戻る。
仄かに硝煙臭と石鹸の香りが残っているけれど、喫煙者にくらべたらずっと爽やか。
ここでやっと美女から自己紹介される。ルーシー・アイルズバロウ。
「現場で使いやすいように、こんな形に加工してもらうことは可能かしら」とメモを渡される。
アン「やってみます」と回答。
この日は、それでおしまい。
数日後、ルーシー再来。
前回と同じ部屋へ。
粘性と強度を少しずつ変えてみたサンプルも用意しておいた。全種類試してもらい、ベストを決める。
褒められ、発注もいただく。
さっそく明日、使うという。
クラリス「アンもアシスタントに連れて行ったらどう?役に立つと思うわ」
逆らえない。従う。
翌日。笑いに満ちた夕食後、21:30にルーシーの車でコッパー・ビーチズを出発。
ドライヴしながら、今夜の作戦について説明される。
ターゲットは、チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン。郊外のハムステッドに大邸宅を構える。
恐喝王として名を轟かせ、何十人もの女性が幸福を踏みにじられてきた。
このたびいよいよ鉄槌をくだすこととなり、邸の間取りやセキュリティ、家主が毎晩22:30には就寝し大鼾をかくなどの調査を入念に行った。
侵入から撤収までの目標タイムは15分。
「そんなに緊張しないで」とくすぐられる。うひゃひゃ。
車の中で、覆面をかぶる。
ジャケットを脱いで、準備してきた戦闘スーツだけになる。
装備を仕込んだベルトをしっかりとホールド。
出撃。
6フィートの塀を乗り越える。
菜園に沿い、温室を抜け、壁をよじ登ってヴェランダから潜入。2分で家主の寝室前まで到達した。
ここまでは順調だったのだが、扉の向こうに鼾が聞こえない。
そして隣の書斎から、何やら気配がする。
ルーシー、アンにジェスチャーでトラブルを伝えつつ扉に耳を押し当てる。
アンもそれに倣う。
ミルヴァートンが喋っている。コソ泥を捕まえ、身動きをとれなくさせて説教しているようだ。
ブッキングというやつだね。
ルーシー、アンに小声で囁く。
次の瞬間、扉を開いて同時に飛びこんだ。
アンは声の方向から見当をつけておいたミルヴァートンの頭に飛びつき、その口を塞ぐ。ルーシー、石鹸と拳銃で後頭部から一撃。
初コンビとは思えない息の合いようだった。
男2人が床に横たわり、もがいている。目の前に広がってゆく血溜まりに脅えきっているようだ。素人か。
アン「あとでたすけてやるからしずかにしてろ」とジェスチャーで伝えてやる。
ルーシーは金庫の開錠を始めていた。15分も見越していたのはこれに時間がかかるためだが、4分50秒で無事成功。
アンはすでにカーテンをひっぺがし、その上に、机の引出しから洗いざらいの書類を敷きつめている。
金庫内の資料類もその上に積み重ねた。
PCやデータ端末は物理的に破壊。
現金と証券類は、コソ泥たちの前へ投げてやる。
では、撤収だ。
男たちを後ろ手に縛っていたロープを切ってやり、油まみれにした書類に火をつけて、走り去る。
夜半すぎ、コッパー・ビーチズへ帰投。
アンはまた褒められた。うひゃひゃ。
しばらく報道に注目していたが、コソ泥2人も無事に逃げおおせたようだ。意外とやるじゃないか。
証券類に手をつけてくれれば捜査を撹乱させる効果を期待できるんだが、そこまで間抜けでもなかったみたいだ。
クラリス「こんな派手な仕置も年に何度かやっておくとね、いい見せしめになるの。
それにしてもアン、ルーシーがあなたのことを絶讃しているわ。
次の仕事でもコンビをお願いしたいって。
石鹸も、まだまだ作っておいて。全部買い取ってくれるそうよ」