第二次大戦中、アビグウェイトには3つの飛行場がつくられた。
うち2つは戦後ほどなく閉鎖され、連邦軍によって射撃訓練場や救護施設などに転用され、やがて民間へ払い下げられる。残るひとつがこの州唯一の空港として存続し、一日10便程度の国内線発着場として営業中。
今年のクリスマスは、ここが襲撃されることに決まる。
9月、イーヴリン枢機卿が連邦内を巡察した。カトリックのえらい人だ。
軽妙なトークが得意技で「アビグウェイトではクリスマスのたびにスカンクたちが踊り戯れるんだってねえ」と御当地ネタで聴衆を沸かせた。
プレスビテリアン教団としては報復せずにおれなかったが、州都の中心部にあるダンスタンス大聖堂は4年前に選ばれたばかりだ。そこで、イーヴリンが即興でスピーチを行いそのときの写真がロビーに飾られているシャーロット空港をターゲットとする。
ノミネートから投票まで、ほぼ一直線だったそうだ。
昨年が地味すぎたので今年は派手に、という機運も大きかったのだろう。発表はいつになく挑発的に行われ、カトリック側も過剰に反応してみせる。
宗教的情熱を伴うエスカレーションは、天高く舞い上がるものだ。メディアも煽るものだから全州民が注目し、経済効果を期待するイヴェントとなりそうである。
ニュースで話題になっているといえば、こんな事件も起きた。
まず郊外のホープタウンで労働者向け安アパートに住む4人の男が毒殺されていた。カードに興じながら飲んでいた酒にテトロドトキシンが混ぜられていたそうだ。
警察の捜査で全員の身元が判明する。リーダー格と目される白人はジョナサン・スモールというイングランド人。若い頃東洋へ渡り、奔放な生活を送ってきたようだ。
他3名は外地生まれでスモールの仲間。ただパスポートやヴィザの記録から、単純労働者ではなくもっと高度な技術を持つフリーエージェントだったと察せられる。
とはいえ死亡時点では困窮していたようで、所持品も口座の残高も僅かであった。
状況から他殺であることは疑いなさそうだが、犯人の目星はつかない。なにか盗まれたものがあるかも特定できない。
ここで終わっていれば、大した話題にもならなかったと思われる。
2日後、バロウ・アンド・スキップワース法律事務所に籍を置くジョン・ショルト弁護士が自宅で銃殺された。
後頭部から一撃。プロの仕業だ。
金庫が開けられ、何かが盗まれた跡があった。
警察は捜査の過程で法律事務所へ関連資料の照会を求める。経営者は揉み消しておきたかったようだが、間に合わなかった。
殺されたショルト氏はスモール一味と結託して、かれらがバーラト共和国で行ってきたダイヤモンド鉱山事業投資詐欺の法的バックアップを手懸けていたのだ。
バーラト国内には警察よりもずっと怖い連中がいる。そいつらから追われるハメになって、預金も引き出せずに逃げてきたスモールたち。
顧客を騙すために見せ歩いていたダイヤモンドだけは手元にあったので、これを担保にショルト弁護士と交渉した。そんな流れだ。
ショルトは宝石を自宅の金庫に預かり、そのまま奪うことに決めたみたいである。
報道によれば4人を殺したのはショルトで、ショルトを殺したのは別の盗賊。アビグウェイト州警察の見解は以上だ。ここまでくると大事件だね。
銃殺にエクセルシア石鹸が使用されていることは伏せられている。これを公表してしまうと、興味本位で手に入れたがる一般人が現れて捜査を撹乱させられてしまうからだろう。
もちろんその商品を取り扱っている業者やエンドユーザーへも聴き込みを重ねているが、一連の殺人事件との関連は匂わせない。
このふたつを結びつける発想を示した者が出てきたら、ダウトだ。
ハラハラしてきますね。
アンの視点では、もう一つの捜査線を加えることができる。
盗賊たち同士の関係性だ。
実をいうとアンの出撃はあの1回きり。それをルーシー・アイルズバロウが絶讃しつつ拡散するものだから、「私も石鹸使ってみたい」というエージェントが次々現れちゃうのだ。
アンはルーシーに加工品を卸すが、そこから先の価格は知らない。どんどん作ってと依頼されててありがたいとはいえ、どんだけマージンで稼いでいるのやらと虚しい気分にもなりかける。
一番の成功者になりたければ、どのポジションをめざすべきなのだろう。まだちょっとアンにはわからない世界だ。
なにを学べばいいのやら。
そんなことを今日も考えながら過ごす。