ヒドゥン11話で、ハイドは窮地に立たされる。
舞台は1970年代。
「原子力技術やら宇宙開発やらが今のペースで進んでいけば21世紀はますますとんでもない時代になるぞ」と世界中の子供たちへ向けて玩具業界が夢を煽り立てていた。
マッド・サイエンティストもイカれているほど持て囃された。
電子頭脳はまだバカ高くて、パーソナライズされたコンピュータが出現するにはもう少し待たなくてはならなかった。
それが人類をどれほど不幸に突き落とすかなんて、誰もわかっちゃいなかった。
犯罪シンジケートの首領であるハイドは国際警察機構から集中砲火を浴び、部下を次々と失ってゆく。
組織を大きくしすぎたことが敗因だと冷静に分析した彼は、側近たちに華々しい死に場所を与える。自身も、昔から一番のお気に入りにしているフロックコートでバッチリと決め、死地へと赴く。
……かと思わせといて、まんまと単独エスケープ。
新天地にふさわしい場所を見つけたら若者の身体へ乗り移って甘酸っぱい青春からリスタートするさと鼻歌を奏でながら、あてどない逃避行。
そんな開放感あふれる異色回だった。
ロードムーヴィー風の一場面に、シャーロットの風景が映る。
なるほど、20世紀後半の街並みだと言って言えなくもない雰囲気の田舎道だ。
アンはコマ送りして確かめた。店の看板などはいちいちデジタル処理で消したり描き変えたりしている。おそらく通行人の装束なども、入念にいじって違和感を塗りつぶしていることだろう。
あたりまえだがパレアナを撥ねるエピソードは挿入されない。
あれは純然たる事故だった。
だが俳優や撮影班は仕事を続け、納品を遅らせないことを選択した。
あっぱれと褒めるべきか。
アン「芸能人の、決してバラされたくないであろう秘密を手に入れた場合、どう行動するのが正解かな」
ラム・ダス「曖昧すぎて答えられないね。もう少し条件を絞ってくれ」
アン「撮影中に役者が一般人を轢いた。そのまま逃げおおせてオンエアもされた。
強請れば、いい稼ぎになるかなと思ってさ」
ラム・ダス「証拠はどんなもの?映像じゃいくらでも加工がきくから、なにも立証できないよ」
アン「刑事罰に問うのは難しかろうね。しかし現場にいた関係者は全員が共犯だ。バラすぞと脅せば足並みを崩れさせられるんじゃないかしら」
ラム・ダス「つかみどころの無い妄想だね。やりたければ、やりなよ」
アン「この程度のネタじゃあ、スクープにすらならないのか」
ラム・ダス「君が最底辺の現場アシスタントだったとする。
事故を揉み消す手伝いもさせられるだろう。
そのとき顔を覚えられて、何週間か後に見知らぬヤツから脅迫される。
さて、素直に金なんか払うかね」
アン「払っちゃうような奴はほんとのザコだろうね。普段から借金まみれの生活してそうだ」
ラム・ダス「もっと上級のスタッフになれば、芸能界の外側に味方なんかいないって原則も弁えている。
一般人は常にゴシップを知りたがるものなんだ。だから決して交わらない。
あいつ怪しいぜ、と噂が立つだけでそいつは芸能界の中で揉み消されるよ」
アン「厳しい世界だね。そりゃ結束も固くなるわけだ」
ラム・ダス「人間は、共通の敵を持つときに最も強く結合する。軍隊・政党・宗教組織がその条件を整えやすいことは知られているけど、芸能界は最高峰なんじゃないかな。
なぜならば……わかるかい?」
アン「え……狂信者集団の頂点に君臨するのは芸能界だってこと?
そう……なの?」
ラム・ダス「考えてもごらんよ。
軍隊で兵士を育てあげるのには時間がかかる。
政党は権力を手に入れるとたちまち内ゲバを始めるからナンバーツーが最も結束力を高める。
宗教組織ではトップがなかなか交替しない。
これらの弱点を、芸能界だけは持たずにいられるのさ」
アン「速さか。トレンドがめまぐるしく変化するから、波に合わせて軌道修正していく速度が決定的に優れているんだ。
じゃあ共通の敵ってのも、小刻みにターゲットを更新させていってるってことなんだろうね」
ラム・ダス「正確にいえば、トレンドを変化させる力を持っているから、芸能界は。
流行も、波も、すべて狙って創り出すんだよ。
政権はプロパガンダを指揮するけど、実務を担っているのはマスメディアで、その主たる階層が芸能界だ。生半可に敵に回すなんてやめた方がいいと思うよ」
アン「撮影中に人を殺したくらいでうろたえる連中じゃなかったんだね、最初から」
ラム・ダス「帰ったらニュースでも見てごらん。
自分たちの不祥事は話題にしない。それ以外は徹底的に吊し上げ断罪し、最終的にはスポンサーの商品を買わせるような印象へと誘導。アンカーは時間通りに話題を切り換えるし、一切余韻を引き摺らないからプロでいられるんだってわかるだろう。
カメラの背後にはもっと手強い連中が控えてる。視聴者の動向を分析しながら、次のリンチに供するターゲットを選ぶことに夢中さ。
かれらの秘密を手に入れたくらいで喜んでちゃあ、一瞬でひねり潰されて、おしまいだよ」