緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§166.あなたの名前を教えて

アンはルーシー・アイルズバロウに電話した。すぐ出てくれた。

シャーロット空港の監視カメラに撮られた映像を消したい、と相談する。

 

ルーシー「19:00までにそちらへ行くわ。着替えに使えそうな部屋をひとつ確保しといて。

それから、手描きでいいので構内見取図をつくっておいてもらえると、ありがたいわね」

 

ただちに行動。

電子ロック式ではない、小さな会議室を見つけた。鍵を壊しておく。

備品から大判の白紙も手に入れ、記憶しているままにどんどん描きこんでいった。

警備室が奥のどこかにあるはずだがIDキーを持っていないと侵入できない。職員ひとり倒せば奪えるが、ひとりでそこまでするこたないよな。味方が来てから着実にやろう。

 

ロビーでは見物客が増えてきて、ABCの取材班もカメラを据えて、賑やかになってきた。

遠巻きに眺めていると、ちくちく視線を感じる。

ひとり、ふたり……女性ばかりだ。

エージェントと思われる。ルーシーの仲間が徐々に集まってきてくれているのかなと想像。そうであれば頼もしい。

 

18:47、ルーシー到着。

アイコンタクト後、会議室へ誘導する。

さきほどの女性たちもゆっくりとついてきた。

無言のまま、室内へ入ると直ちに着替え。アンとルーシー含めて総勢7名。

お揃いのゴム製マスクを装着すると、もはや誰が誰だかわからない。

 

アンが描いたばかりの図面を囲み、暗号めいた早口でルーシーがメンバーたちに指示していく。

このとき全員に男性名のコードネームが付けられていることを理解した。

テオ、クリストフ、エディが先行して出ていく。

マルコが携帯無線機に応答し、ルーシーに手渡す。

アレクサンダーやジェームズと話している。外にも仲間がいるということか。

室内のハインリヒは武器を並べているところ。

MP5……だったかな、これ。短機関銃だ。ずいぶん本格的だよ。頼もしいこと、この上ない。

アンはハインリヒから無線機を手渡された。皆の交信を聴くことができる。いまのところは何を言っているのかさっぱりだが。

そのうちルーシーの指示が一段落し、待機時間が生まれた。

 

ルーシー「あなたの名前を教えて」

 

アン「……アル」

 

ルーシー「アル、オーケイ。

私はハンス。

あなたはここで荷物を見張っていてちょうだい。離脱を指示されたら、このボタンを押して5秒以内に部屋から出ること。ここ、火だるまになるからね」

 

アン「オーケイ」

 

数分後、規則性のあるノックの音がして新たに2人入ってきた。

アンはぎょっとする。知っている顔だったからだ。

相手は気にもしていない。

素早く着替え、お揃いのマスクも被り、自分のMP5を点検しはじめる。

エージェントだったのか、道理でなあ。とアンは思う。

彼女の名はカールで、もうひとりがトニー。

トニーだけ出ていった。

 

しばしの沈黙後、ロビーからけたたましい喧騒。

アルバリーからのバスが到着したようだ。

子供たちが入場すると怒声がますます大きくなる。かつてないアウェイ戦じゃないだろうか。

ああ、これを間近で見たくて空港まで来ていたのに、それどころじゃなくなっちゃったな。

 

ハンスが無線機に応答。室内のメンバーに合図を送る。すなわちマルコ、ハインリヒ、カールだ。

4人とも弾倉ベルトを肩に掛け、お互いの姿をチェックする。準備が整ったようですね。

「それじゃアル、まかせたわよ」そう言い置いて、ハンスを先頭に出ていった。

 

部屋にひとりきりとなるアル。

椅子を寄せてきて、腰を下ろす。

渾身の力作・空港解剖図を睨みつつ、こちらはこちらなりのスタンバイ。

銃声が轟いて、悲鳴が谺する。

ロビーにテロリストが闖入したようだ。えらいこっちゃですな。

誰かが無線機のスイッチを入れてくれており、ハンスの穏やかな声が聞こえる。

拝聴いたしましょう。

 

ハンス「お静かに。おとなしくしていれば諸君に危害は加えない。

我々は北部エイジャ解放戦線の闘士だ。歴史・民族・法の精神、そして就中、宗教について、なにが正義とされるべきか片時も忘れることなく考え、行動してきた。

ここにおられる方々は、カトリックとプロテスタント、それぞれの威信を懸けて対峙しているものと私は解釈している。大いに争うがよかろう。しかし、なまぬるいとも感じるのだ。ひとつお手本を示してあげたい。

秩序の構築に必要なのは、破壊力である。

今日はこれだけ覚えて帰っていただければよい。家へか、土へかはともかくとして」

 

名演説かもしれないな。

深遠すぎて、意味はちょっとわからないが。

 

ロビーの民間人は整列させられ、スマートフォンや撮影機器の類を拠出させられた。テレビ局のカメラは真っ先に破壊されたが、証拠をのこさせないためだ。一貫している。

類推すると、先に出撃したテオ、クリストフ、エディそしてトニーのグループは空港職員たちを襲って同じように武装解除させているのだろう。

警備室のデータも、とっくに滅却済みかもね。

なんて頼れる同志かしらん。

 

ここで、テオのチームから通信が入る。

「ハンス、トラブルが発生した。トニーが殺されている。

機関銃はいただいた、ホ、ホ、ホ。だとよ。

遺体袋を準備して、カールに持ってこさせてもらえないか」

 

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