緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§167.効率的に逃げ隠れ

エディがロビーに来て、カールと交代した。

カールが怒りで取り乱していることが、無線機越しの応酬から伝わってくる。

トニーはカールの実妹だったらしい。そんなに似ていなかったが。

 

アンには、カールが半狂乱になり暴走しかけている姿を想像することができない。ミス・ステイシーはいつでも冷静沈着だった。でも一緒にエージェントやってる妹を殺されて、あんなに下品な挑発までされたんじゃあ、彼女でも我を忘れたりするか。意外と人間らしいところもあったんだな。

 

ハンスは、トニーの無線機を手に入れた殺人者がこちら側の交信を傍受できることをすぐに察知し、全員に警告を発した。

ターミナル棟の外にいるチームには無線機を通してしか指示できないため、チャンネル変更は行わない。コードネームもそのまま。

敵に筒抜けだと承知しながら、むしろ敵にも聞かせてやってると意識しながら追い詰めろとカールに始末を命じたようだ。

有能な指揮官だこと。絶対、敵に回したくないな。

 

監視カメラの映像さえ消せばミッションコンプリートのはずだったのだが、状況が変わってきた。

殺人者を身柄確保し、MP5も無線機も回収する必要がある。

テロリスト側の交信は再び早口で符丁だらけになり、アルはパッシヴに専念して懸命についていこうとした。

徐々に、何を伝えあっているのかがわかるようになってくる。

 

殺人者はIDキーを複数所有しており、最もセキュリティの厳しい区画まで入っていけるようだ。

テオが警備室でハッキングしており、ログを辿っているのだが、タイムスタンプから判断しておそろしく効率的に逃げ隠れしている模様。

建物全体の内部構造を熟知している。背広組とは思えない。労働者階級で、古株の設備保安要員じゃあないのか。そんな推測が交わされる。

しかもテオの推理が進むにつれて奴はIDキーを使用して通過する経路に痕跡をのこさなくなっていった。

つまり背面設備や天井裏、広めのダクト内を移動しながら脱出路を開拓、もしくは次のターゲットを殺そうと狙っているということになる。

厄介だなあ。

テオの見ている画面では、設備棟のエリア名が文字でしか表示されないため、照明が一瞬ついたこの区画が怪しい!と判断できてもカールにどちらへ向かえばいいかを適確にナビゲートできない。

クリストフの戦闘力は半人前らしく、彼女はテオが作業している背後を守る役に就いているため、殺人者を追っているのはカールひとりだ。

カールだって、下町の路地裏よりもずっとゴチャゴチャして歩きにくい設備棟を保安要員より器用に立ち回るなんて無理だろうから、下手に踏みこめばMP5の餌食にされる。

 

ここまで理解したアルは、行動する決断をした。

マダム・クラリスのアシスタントをしてきた経験から、設備棟の構造には心得がある。作業員が通る専用路をキャットウォークと呼ぶのだけれど、首や頭の高さにパイプが横切ってばかりいるからヘルメット無しで歩けば何度もぶつけて血まみれになるという注意事項も知っている。

行ってきますと宣言するのは、野暮だろうな。

そこでカールの動きを先読みして、今いるこの会議室からIDキーを使わずに行ける地点で合流するタイミングを計算した。

よし、そこへ向かう。

 

カールの目の前に現れたアル、無言で図面を見せながらメモとジェスチャーで作戦を伝える。

設備棟の、めざす出入口までついてきてもらい、そこで別れる。

アル、暗がりの中へ、ひとりで潜入。

設備棟は薄暗く、湿気が籠もっていて、音もうるさい。案内されながらでも、なるべく入りたくない場所だ。

アルは焦らず、隠れながら、直前まで殺人者がいたはずのポイントまで向かった。

 

突如、頬に銃口を突きつけられる。

硬直したまま、おそるおそる両手を上げてみせると、男が驚いた声を発した。

「……子供?」

その男は銃を引き寄せた。

少女、涙をボロボロこぼしつつ、床にへたりこむ。

男を怨むような目で見つめながら、呻く。

「撃たないでください、どうか殺さないでください。

おじさんもテロリストなの?

やっと、やっと逃げてきたのに、どうしてこんなところにまで。

私って、私って、どこまで運が悪いのかしら……」

 

男「おちついて。おちつくんだ。

おじさんはテロリストじゃない。空港の職員で、もと警官だった。テロリストと戦っているところなんだ。

いいかね、必ず君を助ける。だから、ここでじっとしていなさい。

いいね?必ず、君は助かるから」

 

少女「おじさん、お名前は?」

 

男「リーランド。ジョー・リーランド。……しっ。静かにしてくれ」

 

ジョーは無線機を耳に押し当て、集中力を研ぎ澄まさせている。

カールが全員撤収だと偽の指示を伝えているところのはずだ。

滑走路へ出る手前のフロアを集合場所にしてある。

「殺人者がやってくる前にずらかるぞ、急げ!」

 

ジョー、少女に再度「じっとしていなさい」と言い含め、駆け出す。

こんな暗くて狭いところを、ヘルメットも被らないでよくもそんな敏捷に動けるな。

少女は感心しつつ、ゆっくりと後を尾ける。

 

先の方で、壁が少し光った。ジョーが事務棟へ通じるドアを開けたのだ。

一瞬後、掃射音。

殺人者は始末された。

 

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