ダイアナと共同制作中のフィールドマップを眺めながら、アンは最も防御陣地に適したポイントを計算する。
アタリをつけて視察に出かけた。
水場に近く、雨風をしのげ、ランタンを灯しても周囲から気付かれにくいほど遮蔽物に囲まれている。
ここに秘密基地をつくろう。
あくまで、ごっこ遊びだから。という建前を最大限に免罪符として掲げながら、壊れた食器類や期限切れの缶詰など持ちこんで、サヴァイヴァル・キャンプを構築した。
実際にやってみることで、いろんな見落としを発見できる。
この経験は、きたるべき世界大戦で我々の生存可能性を大幅に向上させること間違い無しだ。
二人の少女は、こんな空想を心ゆくまで愉しんだ。
労働ならば程々にだが、創作だからどこまでも真剣に取り組む。
次は周囲に各種の罠を設置しよう。と盛り上がっていたところで、ある事件が起きた。
グリン・ゲイブルズで、マリラの大切にしていたブローチが失くなったのだ。
鶏卵ほどの大きさで、形もちょうど楕円形。紫水晶を散りばめてあり、蓋を開けると、亡き母の小画像と遺髪が納められている。
最後に取り出したのは、先週の婦人会。マリラの部屋にある、箪笥の上の小皿に戻しておいたはずが、忽然と消えてしまった。マリラはそれ以降着た衣服のすべてを隅々まであらため、マシュウに手伝わせて箪笥を動かし、壁との隙間も探ってみるが、見つからない。
アンにも尋ねる。
マリラの部屋には入ったことなどないという。
全員が途方に暮れた。
マリラは、隣家の素人探偵に相談してみた。
ジョセフ・ベル氏は眠そうな目をこすりながら、コーンパイプをふかしてグリン・ゲイブルズへ上がりこむ。
近親者の証言は参考にせず、とことん実証主義で推理するタイプらしい。
置いた場所が確かなら、水晶のきらめきが窓の外から観測できたはず。桟には手形跡らしき汚れがついており、骨太な男性のものと推定。マシュウとは一致しない。たぶんこいつが犯人でしょう。
マリラは落胆のあまり、寝込んでしまった。食事をアンがつくらなくてはならなくなり、助けを求められたダイアナが腕を奮ってくれたので、いつもより豪勢な夕食となった。
警察へ届けを出すべきか。
この会議にはダイアナも参加した。
州警察は頼りにならない。この不信感はアルバリー全体に沁みわたっている。しかし、住民同士の揉め事ならば牧師でもアリだが、窃盗事件なのだからやはり警察ではないですか。ひとまずマリラの体調がよくなれば明日スタンレーブリッジまで行きましょう。
という方向で話がまとまる。
ところで、ダイアナはこんなニュースも持ってきた。
州都シャーロットで、殺人事件の公判が行われている。
スタンレーブリッジ郊外の墓地でロビンソン医師が殺された。当夜から朝にかけて血まみれの姿で歩いていたマフ・ポッターという老人が逮捕されるが、まったく記憶が無いと言って犯行を否認する。
決定的な証拠を押さえるため捜査は続けられ、目撃証人捜しも継続されていたが、なんとトーマス・ソーヤーが名乗り出た。
当日夜、ひっかけた女とドライヴを楽しみ、墓地の付近で青姦した。ひと気がなくて最高だった。車の中でぐったりしていると、3人の男が歩いていった。口論の末ひとりがナイフで殺された。犯人ふたりのうち、AがBに催眠術をかけ、Bを血まみれのまま町まで歩かせ、Aは反対側へ去っていった。
B=マフ・ポッターも実行犯ではありますが、より凶悪な首謀者Aは……
この男です!
と傍聴席から逃げ出そうとしていた男を指差す。Aだとされた男は警備員を振り切って逃走するが、法廷は熱狂に包まれた。
トーマス・ソーヤーを見つけ出し出廷を承諾させた弁護士は喝采を浴び、トーマスもまた素人探偵として華々しいデビューを飾ったのである。
アルバリーでは新聞を購読している家がきわめて少なく、また重要視されてもいないため、ニュースはこうして何日間かかけて、人から人へと伝わっていく。
それにしても面白くない話題だなとアンは内心毒づいたが、ひとまずダイアナには礼を述べた。
翌日、マリラの気分はよくないままだったので、警察への届けは様子見することにした。
アンもまた塞ぎの虫にとりつかれており、ダイアナを誘わずに朝の散歩へと出かける。
おれたちって男を見る目は正反対だよな、とかブツブツつぶやきながら。
さて、秘密基地までやってきた。
誰かが踏み入った跡がある。凹みの中にバッグが隠してあった。
ひと気が無いことを確認しながら開けてみる。
なんと、マリラのブローチを、見つけた。