ダイアナは、年内をもってギズの仕事を辞めた。
半年休学していたけれど、その遅れを取り戻して、きっちり2年で卒業してみせます。そのための勉強に専念しますので。というのが表向きの理由だった。
事務所は快く承諾し、送り出してくれた。
表向きでない理由は様々ある。
芸能界そのものに魅力をまったく感じなくなった。
パブで大人たちの世界に触れることにも、もはや新鮮味を感じなくなっている。
サリーもジュディも辞めたので、カフェ通いのルーティーンが単調になりすぎてしまい、遊ぶならもっと違うところへも行ってみたいよねという機運に衝き動かされているところだ。
とはいえ勉強に専念は正解か。
ダイアナは取れる限りの講義を選択し、教授たちとの交流も積極的に行った。ゼミナールを通して学内の先輩後輩たちとも親しくなった。
それでもパブを辞めなくてはならないほど詰めこんでいるつもりはなかったのだが、辞めればもっといろんなことができると思った。これが理由である。正しい。
男女問わず誰からでもよく訊かれる恋愛事情についても、先回りして答えておこう。
ダイアナは「遠距離交際している相手がいます」とだけ答えるのを常としている。
実際は誰ともつきあっていない。一年前までは手あたりしだいに誘惑して弄んだり、一晩から一週間程度お試しをしてみるといったつまみ食いもよくしたが、あの頃対象にしていた男たちが、今では幼稚に思えるのだ。
男は稼げる仕事に誇りを持っていることが最低条件だよなあと思っているのだけれど、社会人で女子学生を相手にしたがるヤツなんて問答無用で避けるべき。
なので本気の恋は卒業してからだと割り切ることにした。
おしまい。
同い齢で、すっかり社会人らしさを身につけたアンを、ダイアナは強く意識している。
クリスマスも、実家へは遅めに帰ってきて、毎日忙しく駆け回ってて、気付いたらシャーロットへ戻っていた。彼女は走り出すと見境つかなくなる傾向が烈しいから、大変そうだ。
かつてアイドル・ワイルドというチームで香水をつくっていたときのように、背後で適切にブレーキをかけてくれる誰かはいるのだろうか。
マダム・クラリスは間違いなく、しない。
自分にならできると思うし、むしろ最強だろという自信がある。
だからあと半年待て、アン。
そんな風に考えながら今は学業に集中する、ダイアナ。
冬休み、ジュディ・アボットはペンドルトン邸で過ごしていた。
クリスマス・イヴにはアビグウェイトの名士が集うパーティーにも一緒に参加したとかで、いずれ家族となる下地づくりも着々と進んでいるようだ。
サリー・マクブライドは実家で過ごした。
出発の翌日に空港でテロが起きたので、戻ってこられるやらと気を揉んでいたという。
年明けには運航も再開して、ロビーで銃撃跡が修繕中だったりは新たな観光スポットにもなっていたりして、たくましく感じたとか。
それにしてもエイジャ島の地下組織がなんでアビグウェイトくんだりまで来て騒ぐのか、と憤懣やるかたない。
ジュディ「ミスター・ゴードンも驚いてらしたわ。
ほんの数時間前まで、空港にいらしたらしいの。議員をお見送りしていたんですって」
サリー「ああ、そのへんはうっすら聞いてる。
パーティーでは、サリーのルームメイトですって自己紹介しなかったの?」
ジュディ「そこまでは、まだ。というより、私だと気付かれもしなかったみたい。
ゴードンも、以前紹介されたときのランニングウェアとは全く印象が違ってて。タキシード姿、格好よかったわよ」
サリー「筋肉質だから映えるだろうね。見たかったなあ」
ダイアナ「写真は撮ってないの?」
ジュディ「パーティーでは撮影御遠慮くださいって念を押されたわ。上流階級の方々は、プレス向けに承認を経た写真以外が出回ることにとても神経質なんですって」
ダイアナ「もうひとつ質問。
ミスター・ゴードン・ハーロックは、議員秘書なんでしょ?議員さんについていかなくてよかったの?」
サリー「秘書って一人じゃないんだよ。ゴードンは最年少だから、事務所番。
ジョウナス・ブレイク議員には、首席秘書のフィリッパが随行したんじゃないかな」
ダイアナ「なるほど。それにしてもよかったわね。飛行機ごと狙われたりしなくて」
サリー「犯人グループにはまんまと逃げられちゃったし。今度の事件でテロ対策法案と規制・罰則強化を早急に推し進めなくてはならないって、議会で白熱してるみたいだよ。
このところ富裕層を狙った暗殺も増えてきてるじゃん。
テロといえば年末だけの風物詩、なんてもう通用しない時代なのかもね」
ダイアナ「アルバリーでも、昨年のが最後になるかもって噂にはなってる。次の12月にどうなっているかは、わかんないけどね」
ジュディ「パーティー会場も警戒厳重だったけど、空港のニュースが届いてからは、窓際に近寄らないように、まで言われて。帰りも時間差で随分引き止められたのよ。
テロって怖いわ。ほんと、絶滅してほしい」