緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§176.もしかしたら、いつか

トモリルに呼び出されるアン。

石鹸を全部持っていってくれというので、小型トラックで出かけた。

詳細は少し込み入っていた。

 

トモリル「最近、変な客がうろついている。

婆さんなんだが鼻が利くようだ。裏口から来てクンクン匂いを嗅ぐんだよ。石鹸の置き場を変えてみたら、そっちの方へ寄りつきだした。

悶着は御免だぜ。サラとは、別な場所を使って受け渡しをしてくれ」

 

アン「客、なんだな?」

 

トモリル「店の中へも入ってくる。何かを探ってるんだ。商品は、買ったり買わなかったり。薄気味悪いんだよ」

 

アン「何曜日のいつ頃来るとか、法則はあるか?」

 

トモリル「夕方が多いかな。パンの香りが濃厚なうちは、現れない」

 

アン「サラは午前か、遅くなっても14時頃までだよな。そのババアが石鹸目当ての犬だとすると、サラにも注目を向けないわけがないはずだが」

 

トモリル「とっとと片付けてくれ。ただし、店の周辺以外でな」

 

アン「次、ババアを見かけたらすぐにコールしてくれ。おれ、石鹸持ってきてそいつを惹きつける。

預けてるぶんは持っていくが、敵をおびき出すまでは協力してくれよ。退治しないと、いつまでも脅え続けてなくちゃならないだろ?」

 

アンは少し離れた駐車場にトラックを置き、向かいの街区からそれを監視した。

トモリルの観察が確かなら、罠を仕掛けておけばいい。とっととケリをつけましょう。

 

やがてミンチンの方角から、サラ・クルーが歩いてきた。

アンは近付いて顔を見せる。

ファージングと呼んでいた頃に比べたらずっと明るい娘になっていた。スクール内では奴隷だろうけど、カースト上位の生徒たちは外を出歩く体力すらも削られてんだぜ。皮肉なものだね。

 

サラ「ずいぶん久しぶりだけど、忙しいの?

この石鹸で儲けてもらってるならいいけど、それでなかなか会えないっていうのも複雑なのよね」

 

アン「感謝してるよ。実際すごく儲けさせてもらってるし、だから忙しくて寝る暇も無くて、おれ自身を呪ってたりもする。

なかなか、器用に生きていくっていうのも難しい」

 

サラ「そばかすは、お友達を捜してたんじゃなかったっけ。その後、どうなってるの?」

 

アン「ああ。その子は見つかったよ。いま離れたところで療養中なんだが、ま、元気にしてる。

……そうか。考えたらおれ、もうミンチンに用は無いんだ。

サラ。

逃げたいなら手伝ってやってもいいぞ」

 

サラ「え?」

 

アン「ミンチン・スクールから逃げ出す気なら、連れ去ってやるって言ってるんだ。

金も持たせてやる。西海岸あたりで名前を変えて暮らせ。なんなら良心的な里親斡旋業者も紹介してやる」

 

サラ「……脱走かあ。そんなこと、考えてたことも……あったな」

 

アン「今はその気が無いってことか?」

 

サラ「話したことあったかしら。あたしのパパ、事業に失敗して死んだって言われてるんだけど、実はそれ、定かでないの。

もしかしたら、いつかあたしを迎えに来てくれるかもしれない。

そのときあたしの消息がわからなくなってたら困るでしょう?」

 

アン「だから奴隷でいつづけますって?

おまえが新天地で力を磨いて、自分から父親を捜して助けに行ってやるってストーリーだってあるんじゃないのか」

 

サラ「パパを、助けに……あたしが?」

 

アン「いつまでも助けてもらおうなんて甘えてんじゃねえよ。

地上には助けてほしいやつらばかりがひしめいてるんだ。力さえつければ、助けたいやつを、こっちが選べるんだぞ。

そんな発想をしろよ」

 

サラ「……ありがとう。

やっぱり、そばかすって、すごいな。今日、いままででいちばんの勇気をもらった」

 

アン「どうする?おれの気が変わらないうちに決めてくれ」

 

サラ「少し時間をもらっていいかしら。スクールには、ほおっておけない小さな子たちもいるの。せめてお別れを言っておきたい。

とくに伝えておきたいの。強く生きなさい、って」

 

アン「わかった。じゃあ、またそのうち来るから、いつでも発てる準備だけしておいてくれ」

 

パナデリアへ着く前に別れ、アンは元来た方角へ引き返す。

途中で、またゴミを漁っているゴミを見た。やりすごす。

 

……おお。来てる来てる。

鼻をひくつかせているおばさんがひとり。そこまで年寄りじゃないが。さて、何者だ。

 

アン「なにか用かい?その車、おれのなんだけど」

 

その女性は、奴隷を品定めしているかのような目つきで、じっとアンを見下ろした。

手には小振りだが頑丈そうなビジネスバッグ。

年季の入った、鉄芯でも仕込んでいそうなブーツ。

真冬にしては薄着。運動し慣れているのがわかる肉付き。

厚手のグローブ。丸縁眼鏡。

髪は短く、その頭に上品そうな帽子。

アンはプロファイリングを終えた。

話しかけてきたのは、相手の方だった。

 

女性「所属と番号を述べなさい」

 

アン「ダブルオー・セクションの7号」

 

女性「こんなに、どこへ運ぶ気?」

 

アン「とりあえず、うちへ」

 

女性「正規のルートじゃないわよね。どこから仕入れたの?」

 

アン「あなた何者?せめて名乗ってよ」

 

女性「ドレイク。パメラ・ドレイク。

監査人よ。規約を逸脱した不届き者を追っているの。

さあ答えなさい。こんなに、どこから入手したの?」

 

アン「犯人から押収したんだよ。だからもう、これを使った殺人は起きないと思うよ」

 

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