パメラ・ドレイクは眉をひそめ、警戒心を引き上げた。
それを察したアンは、目の前の女が公的機関所属ではないことを確信する。
次の仕分けは、アウトロー同士でお友達になれそうかどうか。会いたくてドキドキするような予感は今のところ皆無。
その次は金になるか否か。
どうかな。それ次第で、生かすか殺すかも決まる。
パメラ「あなたとは、味方になれるかもしれないわね。
我社の製品を悪用して社会に害をなす輩がいる。そいつらに鉄槌を下してくれたということ?」
アン「へえ?てっきりエクセルシアが元締めなんだと思ってたよ。
警察は関連性アリとみて捜査しているようだけどね」
パメラ「ナンセンス!
わざわざ犯罪に自社製品を使わせたがる企業があると思う?
現場に、これみよがしに特徴的な手懸りを遺しておくのはライヴァルのしわざよ。捜査を撹乱させるために置かれていると考えるのが常識。
だからエクセルシアが絡んでないことだけは確実なの」
アン「そんな常識をおまわりさんは持っちゃいなかろう。あいつらは忙しすぎてミステリを読むほどの知恵すらも磨けないんだ。
メディアが、こいつが怪しそうだと誘導すれば、一般視聴者よりもコロッとひっかかって標的に銃を向けるさ」
パメラ「あなた、おもしろいことを言うわね。そういえばお名前をうかがってなかったわ。教えて」
アン「ボンド。
ジェイムズ・ボンド」
パメラ「ふざけないで」
アン「やれやれ。親が愛情こめて付けてくれた名前だっていうのに。
えーと、ミス・パメラ?
単刀直入に訊くけど、エクセルシアはこの界隈での凶悪殺人に、まったく関わっていないのかな?」
パメラ「あたりまえじゃない。迷惑千万よ。
それでも警察があまりに無能なものだから、私たちでこうして独自に調査して、潔白を証明しようとしているわけ。
ねえ、ジェイムズ?
あなたの力を借りたいわ。こんな大量の石鹸をどこから手に入れてきたのか教えてくれないかしら」
アン「見返りが欲しいね。おれはエクセルシアの販売員じゃないんだ。あなたたちの同志ではない。
だから、ビジネスライクに交渉してもらいたい」
パメラ「どこからそんな自信が出てくるのかしら。
ジェイムズ?あなたに今どれほどの収入があるのか知らないけど、エクセルシアへ入ってみなさい。
才能ある者が正しく評価される、実力本位の世界よ。
あなたならすぐにレジェンドの称号を手に入れそう。そうすれば支部を持つ国にいつでも行けて、好きなだけそこで暮らすことができる。あなたの成功体験を聞きたがる人が、どこにだって大勢いるんですもの。
もちろん人気がそのまま収益にも直結するから、お金もますます貯まる。
なんだって買えるのよ。
どう、興味を持ってくれた?」
アン「へえ。そんな興味は持っちゃいなかったな。
エクセルシアの販売員て、小汚くて単純労働しかできない、情弱の群れとしか思ってなかった」
パメラ「豊かな国でだって末端はそんなものでしょう。
頂点に立つ、最高に輝いている人たちに目を向けてごらんなさい。
かれらには才能があるの。そしてそれを、どんな国や企業よりも正当に見つけ育み爆速で成長させられるのが、エクセルシアの強みよ」
アン「末端の奴隷たちをいかに気持ちよく働かせ続けられるか。そのノウハウを磨くには、やりやすくて面白そうな環境だろうな」
パメラ「鋭いところを突くわね。でも確かにその通り。ビジネスの極意よ。
やはりあなたには才能があるわ、ジェイムズ」
アン「ついでに訊いていいかな。
芸能事務所のスカウトも今のとだいたい同じような口車に乗せてくると思うんだが、エクセルシアは、やつらとどこが違うんだい」
パメラ「芸能界?あそこは浮き沈みが激しすぎるじゃない。
成功するために欠かせないのが運なのだもの。才能なんか持ってたら、妬まれて潰されるだけの世界ね」
アン「なるほど。全然違うんだな」
パメラ「もちろんよ」
アン「じゃあなぜそんなにソックリなんだ」
パメラ「え?」
次の瞬間、パメラは意識を失っていた。
アンは手早くその体をトラックの荷台へと担ぎ上げ、縛りあげる。
アン「能弁に語りたがるのは無能の証だ。そんな安っぽい芸でひっかかるレヴェルしか相手にしてこなかったんだろう。バカめ」
荷台から降り、幌で蓋をする。
横を向くと、さっきのゴミがこちらを見ていた。
アン、ひとにらみする。それは全身を震わせてへたりこみ、十字架を手に祈り始めた。
足元から湯気がたちのぼり、雪が黄色く染まっていく。
アンは構わず発進した。
アン「エクセルシアの監査人だって。探偵みたいなものか。
絞りあげれば面白い話がいっぱい聞けそうだ。
おしゃべり好きみたいだから、本人もきっと楽しんでくれるだろう」
途中で、パメラのバッグを検めた。
百科事典のサンプルが入っていた。エクセルシアはこんな商品も扱っているらしい。
アン「ビジネスごっこで成功気取るのもいいけど、こいつの中身さえ読んでりゃ、あんなスカスカの演説、しやしないのに。
ほんとバカだ」