緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§178.早く一緒に遊びたい

天国は、あるかもしれない。

地獄は、まちがいなくある。

ともかくここはアビグウェイト。島の周りは水だらけ。なのに俺たちゃドライと言われる。

昨今、テロが大流行。

君たちの若い力をわけてくれ。

警察官、大募集!

 

議会が大型予算案を可決し、州警察は過去にない規模で新規・中途の採用枠を拡大した。

老朽化した施設や装備の更新も申請が承認されたものから発注され、住民すべてがというわけでもないけれど、産業界は色めき立っている。

 

警察官は尊い職業であるが、公務員なので、創造的な人材にとって居心地はよくない。

型にぴったり嵌まった生き方が最も正しいという価値観に凝り固まってしまうのだ。

管轄地域の住民にも同じイデオロギーを押しつけてしまいがちになるので、一定数から常に反発もくらう。がんばっているのに、つらいことだ。

 

警察官を相手にする商売はいろいろあるけれど、最高峰はテロリストだろうか。

誰を標的にする場合でも必ずお世話になる官庁だから、お互いを強く意識する関係となる。

テロリストは一般市民への擬態が得意なので、事件を起こした張本人であっても、警察官から犠牲者扱いされて手厚い保護を受けることがよくある。

集団戦の場合、統率が必要なのは組織の種類に関係なくだが、常に大掛かりなマニュアルを用意しておかねばならない警察に比べ、テロリストは最小限で編制すればすむ。承認をとったりする必要もなく、普及させなくちゃなんて義理もない。

分け前だって、大勢雇えばそれだけ減るよ。

さあ、がんばり甲斐があるのは、どちらかな。

 

意外かもしれないが、テロリストは警察官が大好きだ。

愚直に市民を守る熱血漢ほど、とくに愛される。かれらが後始末を引き受けてくれるからこそ、破壊の限りを尽くしたのち悠々と去っていけるのだ。

感謝しているのです、ほんとに。

だから今回の警察力強化を、テロリストたちは大歓迎している。まだ集め始めたばかりとはいえ、何年か先には、たくさんの雛が現場へ羽ばたいていることだろう。

早く一緒に遊びたいわね。

そんな胸算用が止まらない。

 

アン「おまわりに、なろうだなんて考えるやつの思考回路がさっぱり理解できません。

できることも、したいことも見つけられない人間のための受け皿なんですかね」

 

チャット仲間A「ドラマの影響は大きいと思うなあ。

映画だと破壊する側を描く作品も多いけど、テレビ向けは低予算だから、警官を主人公にするものが増えるんだよ。かれらの仕事は地味だからね。

でも毎回見ているうちに、視聴者はそんな生活に共感を抱くようになっちゃったりするものさ」

 

アン「ドラマかあ。

友達が出るからってんで少しは見るようになったけど、つまんないのばっかで飽きちゃったよ」

 

通りすがりのB「警官をかっこよく描こうとすれば、そんなやつらでも頑張れば捕まえられるレヴェルの犯罪者を大勢、毎回、つくりだす必要があるよね。

だらしがなくて、貧乏で、知恵も回らず、衝動的に暴力を奮う底辺層。

実際、テレビを見て、そんなクズよりはうまくやってみせるぜ!と挑発したくなる素人も湧くようになるから、おまわりさんにだって、そこそこの仕事は生まれる理屈だ。

一定の循環型社会は成立している」

 

アン「こちらの世界とは接点が無いなあ。やっぱり、わざわざ見なくてもよさそうだ」

 

名無しのC「昔から、警官や刑事が容疑者を直接殺したり、自殺に追いこむとかして締めくくるドラマは多いけど、警察はそんなデタラメを撒き散らしている連中にこそ憎悪を向けるべきだろう。

むしろリアルな犯罪者は君たちに飯の種を与えてやってるんだぞ。

感謝を捧ぐべき相手を履き違えていないか」

 

アン「警察は容疑者を逮捕して、検察へ引き渡すまでが仕事だものね。その先は司法の領域だ。

犯人じゃあなかった!とか、捜査中に逸脱行為をやらかした!とか判明すれば、警察側だって罰をくらう。

凶悪犯と戦いたくて警官になったのに、批難されないための指導と説教ばかり押しつけられて過ごしてたらストレスで頭おかしくなっちゃうよね。

マシンガンでも撃ちまくって、スカッとしなきゃおさまらない」

 

闇に紛れてこっちを見つめているD「でもねえ。一度でも警察と関わりになれば、指紋やマグショットを採取されるのはもちろん、家族親族の犯罪歴や財政事情まで提出させられ調べ上げられ、しっかり身元を押さえられちゃうから。

逃げられないんだよ。

あとからテロリストに転向しようなんて、無理だ。あたしたちだって仲間にはしない。

所詮、ポリスはやられ役にしかならないのさ」

 

アン「議員たちも早まったことしたよね。警察に予算を与えるなんて。

国益に反する行為じゃないの?」

 

あなたのとなりにいるかもしれないE「いや。政治家は公務員をアゴで使い、従僕として養ってあげる立場だよ。奴隷を増やす政策なんだから、寧ろもっと早くやりたかったことだろう。

国益に反してなんかいないはずだし、元から辿れば私たちが活動しているおかげで、こうして社会が活性化して、民衆たちがする仕事も増えて、経済が発展しているってことなんだよ。

安心して、誇りを持てばいい」

 

アン「そうか。そうだよね。

おれたちゃドライだ。

ここは楽園かもしれない」

 

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