緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§184.再会

さまようラム・ダスを見つけた。

なにかの罠か。囮役でも演じているのか。

そう察して無視していたら、声をかけられる。

おまえもエージェントの端くれだろうに。と舌打ちしながら、アンは相手をしてやる。浮浪者に呼びとめられてしまった地元の娘という体裁で。

 

ラム・ダス「最近会いに来てくれないじゃないか。どこかで殺されたのかと思ってたよ」

 

アン「おまえは長生きするだろうよ。忙しいんだ、こっちは」

 

ラム・ダス「ヒドゥンのシーズン1が終わったね。アンクル・サムが権利を買収したから、この先はダラダラと続くばかりのシリーズになっちゃうと思うけど」

 

アン「そうなの。おれは追っかけるのやめちゃったんだけど、君の方が見るようになったのかい」

 

ラム・ダス「君が感想を話してくれてた間は興味なかったよ。

無粋な宣伝屋がいなくなってからさ、ドラマが面白くなるのは。

おかげで楽しめた」

 

アン「そういうもんかね。

ところで、こんなところで何してたんだ。仕事じゃなさそうだな」

 

ラム・ダス「あの店のパンを買いに来たんだよ。なんて名前だっけ」

 

アン「信じられねえ。まさか方向音痴か、おまえ」

 

ラム・ダス「自慢じゃあないが、尾行は苦手科目だった」

 

アン「あたりまえだ。道行く女どもを次々振り向かせるような顔をつけてたら、囮役しかつとまらない。

鍛えなおしてやるから、黙ってついてこい」

 

アンは、他の追跡者がいないことを周到に確かめながら、ラム・ダスをハナのパナデリアまで誘導した。

自分は店に入らず建物の外側を点検。異常が無いことを確認する。いつものルーティーンだ。

戻ると、トレイにパンを積み上げて会計しているラム・ダスがいた。

無数の小銭が鳴る音に、トモリルと奥からの笑い声が被さる。

彼は両手に袋を抱え出てくる。

段差があるから気をつけろよとアンは注意を促す。

 

ラム・ダス「君は買わなくていいの?」

 

アン「帰りに寄るよ。それよりタコ部屋までちゃんと戻れるのか?」

 

ラム・ダス「自信ないなあ。大通りまでついて来てもらっていいだろうか」

 

アン「今日中にそれ全部食う気かい」

 

ラム・ダス「モンモランシーは全員、食べ盛りだからね」

 

アン「それにしたって……あ、サラだ」

 

ラム・ダス「サラ?」

 

アンは思わず振り向いた。ラム・ダスが急に足を止めたのだ。

ついさっきまでとは別人のような表情で前方を見つめている。その視線の先に、サラ・クルー。

サラも同じように当惑して立ち止まっていた。まるで、この世にいてはならぬものを見てしまったかのように。

 

アン「……おまえたち、知り合いか?」

 

サラ「ディコン?」

 

ラム・ダス「ミッシー・サーヒブ!」

 

駆け寄るサラ。

跪くラム・ダス。

ふたりは互いの顔を近付け、まじまじと見つめながら異国語でささやき始めた。

 

アンはただ、立ち尽くす。

ラム・ダスの手からパンの包みを引き取ってやり、ともかく周囲を警戒。

あのさ、ひとまず身を隠さないか。路上で目立つ行為はやめようぜ。

そんな忠告を何度かつぶやいてみた。

 

5分ほどして漸く、再会したばかりの二人は落ち着きを取り戻す。

 

ラム・ダス「残念なことですが、クルー大尉は亡くなられました。鉱山事業の損失はなんとか回復の目途が立っていたのですが、無理を重ねられすぎて。病魔に打ち克てなかったのです。最期まで、お嬢様のことを気にかけておられました」

 

サラ「そうですか。せめて、お墓を弔いたいです。埋葬はされましたか?」

 

ラム・ダス「邸宅は人手に渡ってしまい、財産もあちこちに毟り取られてしまいましたが、お嬢様、あの古い庭園を覚えておられますか?

あの一角だけはミスター・クレイヴンが所有して、今もそのまま管理されております。大尉と奥様の棺はその庭へ移されました」

 

サラ「まさか!あの花園がのこっているの?

そこにお父様も、お母様も眠っているの?

コマドリたちも、遊びに来てくれているのでしょうね」

 

ラム・ダス「庭の手入れは、メアリとコリンがしてくれていますよ。だから毎日、小鳥たちの囀りに包まれているはずです」

 

サラ「あの子たちは無事なのね?

もう、すっかり大きくなっていることでしょうね。

会いたい。今すぐにでも、飛んで行きたいくらいよ、バーラトへ」

 

アン「行けよ。

ためらう理由がひとつでもあるか。ラム・ダスに連れてってもらえ。こいつに道案内がつとまるかどうかは保証できないが」

 

ラム・ダス「ひどいな。尾行じゃなければ大丈夫だ。

モンモランシーが総力を挙げてプリンセスをお守りする。

ただ、準備に半日はもらいたいな。それまでお嬢様を匿っていてもらえないか、アン」

 

アン「急にここからかよ、無茶抜かすな」

 

サラ「あたし、いったんミンチンへ戻るわ。お父様にいただいた人形のエミリーだけは連れていきたいの。わがままは、これ限りにするから」

 

アン「どこがわがままだよ。形見なら大切にしろ。

いいか、今夜決行だ。

おれがミンチン・スクールの外で騒ぎを起こす。生徒たちを一斉避難させるドサクサにまぎれてサラも飛び出せ。

あとはラム・ダス、うまくやれよ。

じゃあ、解散だ!」

 

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