緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§186.天使たちはささやく

クリフトンの教会から、修道女がひとり出てきた。

籠を提げている。買い物か。

人通りの少ないポイントで、アンは車に乗ったまま声をかけて、道を尋ねる。

修道女の向かう先と、同じ方角のようだ。途中までお送りしますよと誘ってみるが、応じてくれない。

仕方ないな。アンは降りて素早く女を眠らせ、後部座席へ放りこむ。

準備していた廃屋で縛りあげ、地下室に転がしておく。

 

もう一度、教会へ。

次は2人出てきた。行方不明になった仲間を捜している風である。

強そうな方に狙いを定め、ふた手に別れるまで静観。

期待どおり慢心がみられた。

難なく気絶させ、さきほどの廃屋へと連れこむ。

 

地下室でふたりを並んで座らせ、猿轡を解いてやる。目隠しは取らない。

自己紹介させる。

ローズマリーとエレン。

隣に座っているのは同僚だと、双方が了解した。

 

アン「これから一人ずつ尋問する。

証言が食い違っていたら、それだけ長引く。より悪質な嘘をついていた方を、相応にかわいがってやるから覚悟しておけ。

では。先に楽になりたいのはどっちだ」

 

わずかに早かった方を、上の階へ連れていき、教会の間取りや日々のスケジュール、指揮系統に財産の隠し場所など、質問攻め。

2人目も同じようにする。

少し休憩を設けて、最初の女へ再尋問。ここからが本番だ。

 

アン「修道女の数が合わないんだよな。

もう一度チャンスをやる。一人ずつ、正確に名前と特徴を述べろ」

 

院長のトランチブル牧師は昔ハンマー投げでオリンピックに出場したことがある、などどうでもいいトリビアまで聞くハメになったが、アンは辛抱する。

それでも、マチルダらしき少女の存在を、ローズマリーもエレンも口にしなかった。

アンは、もう一人の口からその名前を聞いたことにして、カマをかける。

 

アン「盲目の少女は、いるのかいないのか。どっちだ」

 

女「ひっ。マ、マチルダのことですか?

彼女は……いません。

1月に来てすぐ、死にました」

 

アン「なんだ、そういうことか。じゃあおまえたちを除けばあと9人が正解、と」

 

また交代。

次はもっと念入りに聞き出した。

マチルダは。瀕死の猫みたいにおとなしく。与えられたミルクを静かに飲み。決して騒がず逆らわず。手間のかからない娘だった。

しかし半人前の仕事すらできないため、院内ではお荷物扱い。

修道女の中で一番ノロマなヘイゼル・マーという下っ端が面倒見を押しつけられる。

ヘイゼルは先輩たちからいつも虐められていて、やり場のない怒りをマチルダにぶつけていたようだ、と二人は証言する。賢い者ほどそれをする現場は見ないようにしている、とも。

 

修道女たちには、日替わりで鐘楼に昇り定時に鐘を衝くという当番制のつとめがあった。

マチルダが来た次の週、ヘイゼルは早朝、彼女を連れて階段を昇る。

ヘイゼルが仕事をしていた隙に、マチルダは飛び降りた。

首の骨を折り、即死。

敷地内の墓地にすぐ埋められたが、とにかくトランチブル院長が怒った。父親が成金で、生かしておきさえすれば毎月収入が転がりこんできたものをと。

もちろん正直に報告はせず、しばらくは生きていることにしておくべしとの厳命が発せられ、修道女たちには箝口令が敷かれる。

なるほど。二人揃って、おくびにも出さなかったのは当然だ。

 

アンは二人からヘイゼルの寝所を聞き出し、拉致した。

砲撃一発で教会は騒然となり、トランチブル院長を守る鉄壁の布陣が敷かれたけれど、当てにされていないヘイゼルはノコノコ窓際に顔を覗かせたので、楽な仕事だった。

アンはこの娘を殺す必要は無いと考えていたので、離れた町の、それほど朽ちていない廃屋へ連れていって、話を聞いた。

 

ヘイゼル「マチルダは教会へ連れてこられたときから死ぬ覚悟を決めていたんだと思います。

初日の夕方には声だけで全員を区別できて、その後も一度も間違えなかった。それほど頭がいいのに、何も訊いてこないんです。すべてに心を閉ざしているみたいでした。

誰に対しても、何をされても、ありがとう。としか返事しなかったな。

あたしも正直なところ、彼女が薄気味悪いというか、怖かったんです。

あの日、起きて、着替えてたら、声かけてきて。鐘を鳴らすんだっていうと、連れていってほしいと。断る理由、なかったしね。

風がつめたくて、気持ちがいいって言ったんですよ。

そのすぐあとで、なにか叫んだので振り向くと、そこにいなくて……」

 

アン「なんて叫んでたんだ?」

 

ヘイゼル「シスター、離れなさい、……とか」

 

アン「Hark! they whisper; angels say, Sister Sprit, come away! ……かな」

 

ヘイゼル「ひいいっ!そ、そ、それは、いったい、なんの呪文です?」

 

アン「アレキサンダー・ポープの詩だよ。意味は考えるな。忘れろ」

 

最後にアンは、ヘイゼルに進路を示唆する。

 

アン「シャーロットのギズ・エージェンシーを訪ねな。

おまえみたいに寄る辺のない子ネズミが大勢かくまわれている。そこで仕事にくらいつけ。

宗教屋よりは希望があるはずだぜ」

 

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