緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§19.夏の恒例行事

今日は、日曜学校保護者会主催によるピクニック。

夏の恒例行事であるらしい。

 

不審者増殖中で、気軽にお外で遊ぶことも許されない子供たちを思う存分たのしませてあげようと、スーリス牧師が強行採決してくれた。

目的地は海岸。片道行程2マイル弱。

ほどほどに手頃なレクリエーションだ。大人たちがしっかり見守っていてくれることだしと、参加率は高かった。

 

あいかわらずアンに手伝いはさせなかったが、マリラはお弁当づくりに腕を奮った。「持てるだけ持っていって、できるかぎりみんなと分け合いなさい。それが共存共栄を導く最適解なのですよ」とか言っていた。

聖書のどこらへんですか?とアンはいちいち尋ねたくなるのだったが、載っていようがいまいが挑発は対人関係を悪くさせることを知っているので、呑みこんだ。

アンは賢い子供なのだ。わざわざ立場を悪くさせるような行為など、しない。

 

用心棒がついてきた。

トーマス・ソーヤーと、その手下ふたり。

スーリスが招いたらしい。にこやかに談笑してやがる。

アンは視線を合わせないよう観察した。

 

以前はガラの悪い男どもを大勢引き連れてきていたが、この日同じだけ集めてこなかったのには理由がある。

ひとつは、仲間に自宅付近を見張らせ、家族や財産を守らせておく必要があること。

もうひとつは、保護者たちに監視されながらでは不埒な行為をはたらけないからつまらないぜ、ということ。

手下の底辺層はオツムの弱い奴だらけだから、万一の手違いでも起こしたくないのだろう。ほんと、悪党のカシラってのは知恵が回るんだねえ。ヤダヤダ。

 

ダイアナもついてきた。

誰とでも快活に語らっている。誰と、でもだ。トーマスとは特に屈託なく、はちきれんばかりの笑顔を返してやがる。知らずに見れば、たまに会う親戚とか、気心知れた幼馴染かと思うだろう。しかし男はヤリチンで、女は……

ダイアナは、まだ初潮を迎えてないと言っていた。でも、あの雰囲気だといつでも受け入れちゃうんだろうな。むしろ慣れてる人の方が安心だよとか言いそうだしな。

ちっ忌々しい。

 

アビグウェイト島は、セント・ローレンス湾に面している。

内海なので波穏やかだし、北を向いているので精神衛生上ヒーリング効果ももたらす。

ハリファクスとは真逆だ。あっちはヤンキーとの激戦地だった傷跡を今も至るところに遺しているし、そんな相手にずっと商売で押され気味だから、ギスギスした空気がつきまとう。

麗しき哉、田舎よ。

一生ここに住めって言われたら憂鬱にしかならんと思うが、そうだな。誠実なお婿さんでもつかまえて、そこそこ青春を謳歌するくらいまでは、のんびり暮らすのも悪くないって気になるね。

そのための環境づくりを今、してるとこなんだけどさ。

 

大騒ぎのランチタイムが終わって、子供たちは砂浜を駆け回っている。牧師とママパパ勢は木陰でくつろぎ、午睡中。

アンはずっとトーマスを注視していた。

大人グループの中でも若くてグラマラスなミセスのひとりとすっかり意気投合したらしい。手下ふたりに何かを命じ、さりげなく輪を離れる。

男と女の合流先は、入江の突端で苔むす廃灯台。

立入禁止のロープを慣れた手つきでくぐり、ドアを開け、入っていく。普段からモーテル代わりにしてんじゃないかね。

 

アンは、消えた2人を遠目に見つめている人影にも気付いていた。

その男とは完全に初対面だが、スペシャリスト同士だけがわかる一種のテレパシーを感じる。アンは「この中にあんたの獲物がいるよ、あとは任せな」と視線だけで合図を送った。

催眠術師は、了解した。

 

3人を閉じこめたあと、唯一の出入口をロープでガチガチに固める。あとは、そ知らぬ顔で浜辺へ戻るだけだ。

屈託なく、子供たちと戯れた。頭から波をかぶり、ぐちょぐちょのへろへろになった。たのしかった。

 

その明後日、トーマス・ソーヤーの葬儀がしめやかに執り行われた。

アンもさすがに出ないのは不自然かと考えて参列した。ダイアナも喪服で来ており、放心の体だったので、優しく支えてあげた。スーリス牧師は意外に弔辞の朗読がうまくて、アンは見直した。

 

付記しておくと、ピクニックから帰る前にアンはロープをほどいておいた。

発見時の死体はひとつだけ。

室内には、記憶を失くした女がぽつんと座っていたそうだ。

めでたしめでたし。

 

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