緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§190.ジョイス最後を締めくくる (Towards Zero)

読者のみなさん。おつかれさま。

母の少女時代をお届けしました。著作者代表、ジョイス・カスバート・ブライスです。

 

出発点では、ラグナロクについて書くつもりでした。

第三惑星の地軸と時間軸を根底から捻じ曲げてしまった、あの大戦争を。

もちろん今も存命の方々が各地でおびただしい量の回想録や研究書を発信しています。うんざりされている方も多いでしょう。

 

しかし我々アビグウェイト・ウィッチズの活躍は当事者にしか描けないことだし、今書かずしていつ書くのだと、一途に想っているのです。

それから、読んでいただいた方にはおわかりでしょう。僕たちは、本というハードウェアにこだわりたかった。

紙でつくられた本というのは奇妙な物体です。未成年なら触ったことのある人の方が少数派ではありませんか。僕でさえ、母たちが読んでいた時代の感覚にどれだけ迫れたものか、やっぱり自信を持てません。

試行錯誤は続きます。ただ、この作品が大きなワンステップとなったことは間違いない。協力してくれたすべての友に感謝を捧げ、そして、すぐ次のステップへ進むことを約束します。

 

戦争についての証言を採録していく過程で、母の存在はきわめて大きいものだったのだと思い知らされました。

ウィッチズ誕生のはるか以前より、彼女は舞台裏で大活躍していたのです。

聞けば聞くほど転がり出てくる仰天エピソードの数々。しかも母の記憶は精緻を極めます。時系列表がどんどん濃くなっていき、しかも矛盾が無い。

戦前、師匠から学んだテクニックだよと教わりました。

もちろん、メアリ・クラリス・ミラー初代大統領のことです。

 

普段きわめて口数の少ない母ですが、徐々に、ずっと昔のことも語ってくれるようになりました。

僕は戦前の風景に魅せられました。

よほどの田舎でもなければ、いつでもどこでも電気がふんだんに使えていた世界なんて、今も想像が及びません。

皆が不自由なく幸福に暮らすことのできた時代だ、と得意げに語る老人は多いです。

ありえないだろと思います。

 

ここでも母の記憶は解像度が異様に高くて、タイムトラヴェルを容易にさせてくれるのでした。

次第に僕は、自分たちの栄光よりも先に、母について書きたい、書くべきだと考えるようになります。

最初は頑なに拒絶されました。

ところが、父が味方についてくれます。

そのうち、昔から母を知る、世界中のおばさまたちが加勢してくれるようになりました。

皆、母がアン・シャーリーだった時代を一緒に懐かしみたいと猛烈に情報を送ってくれるので、材料がどんどんヴォリュームアップ。

母には不名誉なエピソードだって載せたし、ナレーションも様々な方が語ったままを、盛りこみました。新たな戦争が勃発してもよくないので個別の執筆者は秘密にしますが、連絡のとれる方全員に了承はとっています。

母も、しまいには折れてくれました。

あらためて、皆様に感謝を捧げます。

 

この第一部はラグナロクが開始された、あの夕焼けを背景に幕を閉じます。

もちろん大人たちはこれよりずっと前から、何年もかけて全世界征服計画を準備していました。返すがえすも、ゆるせません。

第二部は、そんな大人たちの側から描いていく予定です。

アビグウェイトの少女たちは徐々に脇役として登場し、いずれ大河へと合流していきます。僕の弟や妹たちだって次々と生まれていき、世界各地へ散らばり、戦います。多大なる犠牲を払いますが、勝利を掴みとり、新しい秩序をつくりました。

それが、次の目的地です。

 

ヘンリー・ウォレンの亡霊。

レインボー・ヴァレイの笛吹きたち。

不吉なるジャックフロスト。

多重人格ゴールディの華麗なる変身。

ハーバー・ヘッドの大竜巻。

ローブリッジから帰ってきた男。

冷笑家ガートルードとその夫。

群れをなす、キッチナー元帥のクローンども。

ああ、そうです。僕には描かねばならない人々とエピソードが、まだまだ、たくさんある。立ち止まってなんかいられないのだ。

 

前進あるのみ。

そう、ただちに。

 

 

 

 

 

 

 

(おしまい)

 

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