緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§23.頼りにならないね

大騒ぎ、にはなった。

子供たちが元気よく下校したあとも、ミスター・フィリップスの姿が見えなかったのだ。

 

夕刻、大人たちは捜索を開始。ミス・トランチブルが裏の林でゴミのような黒い塊を見つけた。まさかなあ、と木の枝でつついたりしてみたが反応なく、暗くなってきたので一旦解散。

深夜、ホワイトサンズの道路付近で血まみれの男が救助を請うていた。トラックの運転手が警察に通報し、その後、病院へ搬送される。

うわごとを言っており、事情聴取もままならないが、アルバリー小学校の教師らしいとの推測が立つ。

パトカーが村へやってきた頃には夜が明けかけていた。朝が早い人はもう起きている。

 

まず学校の近辺から捜査が始まった。

どうやら被害者はミスター・フィリップスであると断定される。

では、犯人は誰か。

大人たちは口々に、このところ頻発する不審人物の仕業では……と証言を寄せるが、刑事たちはそれらの情報も集めつつ、被害者の元気な姿を最後に見ているはずの生徒たちへ漏れの無い聴き取りをすることにした。

対象は、高学年クラスで昨日欠席していない、10歳から14歳までの子供たち約100人。登校してきた順に、ひとりずつ、話をきかせてもらう。

 

昨日の授業は最後まで滞りなく行われたようだ。

よって暴行事件は子供たちが帰ったあと発生したということになる。

刑事たちは、子供たちからも、フィリップス先生がどんな人だったのかディテールを集めた。出るわ出るわのコンプライアンス侵害。いくら相手が子供とはいえ、否、子供だからこそ、いまどきこんな体罰や淫行がまかり通っているなんてと、目頭が熱くなった。

午後、会議で報告が交わされる。

同僚である大人たちの証言があまりにも綺麗事すぎて「これは絶対秘密を隠してますね」と捜査方針が一方向に固まる。

 

教職員たちは、自分たちがターゲットにされたことを敏感に察知した。

警察は納税者のために粉骨砕身して捜査に全力を尽くすべきであり、我々は情報をすべて与えた。だからとっとと犯人を捕まえに行ってほしい。それなのに朝よりも人数を増やし、あからさまな疑いを善良な一般市民へ向けて、挑発までしてくるのだ。ゆるしがたい蛮行である。

ただちに州都シャーロットへ伝令が遣わされた。

教会本部から州政府へ圧力をかけてほしい、それから新しい教師を大至急派遣してほしい。切実な要求だ。

 

高学年クラスの先生はミスター・ドビンズが代行した。

余計な仕事をしょいこまされて機嫌がすこぶる悪い。彼は警察にというより人間と話すことにそもそも慣れてないので、対話がスムーズに運ばないとすぐ癇癪を起こして無駄に嫌疑を増やす。その憂さを鞭で発散できないことも苦痛の種で、イライラする。

 

子供たちは、かっこいい警察官が敷地内に張りついて監視してくれていることに非常な興奮を示しており、休憩時間になると大人たちの目を盗んでいろんな情報を伝えにいく。

おまわりさんが、せんせいたちにむけるまなざしは、ひをおうごとにきびしくなった。

 

だが、それも数日間限りの祝祭だった。

議員たちが激昂したらしい。捜査は打ち切られ、パトカーはいなくなってしまう。

村には日常が戻った。

州警察にくらべたらずっと無力で善良な、多くの人々に教訓をもたらす不審人物の脅威だけはのこるけれども、その程度のスパイスは、むしろあってくれていい。

 

生徒たちは悲しんだか?

そうでもない。これまで、つらく、耐えるしかないと思いこまされていた世界に聳え立っていた壁のひとつが崩れたのだ。力を合わせれば穴は開く。その手応えを、皆が理解した。

だからドビンズが以前の本性に立ち返るとしても、さほど怖いとは思わなかった。

しかも、わたしたちのリーダーが、こう言うのだ。

 

アン「ドビンズの弱点は握ってる。最大の恥辱にまみれさせて追放することは、いつでも可能だ。

血まみれの鞭をあいつの部屋に返しておいたから、それを見つけてもらえるかなと州警には期待してたんだが、あいつらも頼りにならないねえ。

ま、急ぐ必要はないよ。楽しくやろうじゃないか。

それより聖書はやっぱり偉大だね。まさに人類の宝ってやつだ」

 

静かに語りながら、アンは背後からの視線を気にしていた。

あの日以来、低学年クラスの中でも最年少かと思われる女の子が、おれのことをじっと見つめている。

何者なんだ、あいつは。

スペシャリストの匂いがする。おれよりも……強そうだ。

 

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