緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§26.秘境にロマンを求めがち

図書館前のバス停から、ホワイトサンズを一周してくる。

ウォームウッド・モーターズはド派手な看板をあちこちに掲げていた。

 

午後5時前、図書館ひとつ手前の停車場で降り、ゆっくり歩いて入館する。マチルダはちょうど帰ったあとだった。

本をお薦めしてもらいながら、ミセス・フェルプスと言葉を交わす。

 

フェルプス「マチルダをこわがらせちゃったのね。それで謎が解けたわ。

今日はやけにソワソワ、キョロキョロしていて、おちつきがなかったもの。

あの子はいろんなものにおびえているの。だから、しばらく、そっとしておくのが正解ね。あなたが無害だと思えるようになったら、きっと彼女の方から手を振ってくれるようになるはずよ」

 

アンにもそんな時代があった。小動物特有の、過剰な警戒心。

ミセス・フェルプスがマチルダと仲良くなるまでも、それなりの時間がかかったのだろうか。

 

ところでアンはせっかくだから本を借りていきたかったのだが、身分証明書がないと貸出カードを申請できないようなので、いったんあきらめる。

身分証ねえ。どうやったらつくれるんだ?そんなもの。

ミス・ジェニファーは今日も夕暮れ近くに駆けこんだ。学校の雑務に追われ、事務員よりも遅くまで働いているらしい。安息日だって自分のために使っちゃいないのではないか。まったくけしからん。新しい先生もなかなか来ないしな。教育省でも教団でもいいが、いったい何をやってるんだ。アンは憤った。

 

教育省は事態を把握すらしていなかったのだが、教団は動いていた。

学校付の牧師が半殺しの目に遭ったのだから、大騒ぎだ。しかも格別に信仰厚いとされる村で。

フィリップスの入院先へは審問官が派遣され、警察が手を引いてからは面会謝絶を徹底して、尋問が繰り返された。

犠牲者に詩篇を聴かせると、異常な興奮を示すことがわかる。悪魔のしわざにしては妙だ。敵は同じキリスト教の、異端派かもしれない。

カトリックか。エイジャの武装グループか。

監視を強化せよ。信徒を告発する裏切者をのさばらせてなるものか。

そんな議論が白熱していた。

そのため、後任の教師も、悪に決して屈しない力強き光の戦士でなければならぬと叫ばれ、選考に時間がかかっていたのだ。決して遊んでいるわけではなかった。

 

黒衣の男「なにをやらかしたんだ?

州都では、アルバリーに殺人鬼が住みついたと評判になっているよ。あまり目立ったことはしないでくれ」

 

アン「なんのことやらですが。

おれは健やかに、のびのびと過ごしてますよ。

都会モンは秘境にロマンを求めがちなんだ。ビーバーの尻尾を首長竜に見間違えたとか、そんなところが噂の発端じゃあないんですか?」

 

黒衣の男「教団を甘く見ないほうがいい。あいつらは、しつこいぞ。

ところで身分証が欲しいって?

偽造なんてしなくても、カスバート家に籍を入れさせりゃ済む話じゃないか。うまくいってないのか?」

 

アン「よくしてもらってますよ。ありがたいことです。

でもねえ、保証人になってもらえるかってえと、そんなにホイホイってわけには。

あっさりなられると却っておそろしいから逃げ出しちゃうけど」

 

黒衣の男「僕の見る限り、あの兄妹に邪心は無いよ。時間をかけて、かわいがられて、絆を深めろ。そうして手に入れたプロフィールで、君は今よりずっと大きな幸福をつかむことができるはずだ」

 

アン「そうですか。じゃ、じっくり気に入られるよう努めます。

ほとぼり冷ますにゃいい環境だし。電気がきてない生活にも慣れました。

盗もうにも、盗んでやりたいほどの金持ちがいないんですよ。あっという間に10年くらいここで過ごしちゃってたらどうしよう」

 

黒衣の男「君の腕が鈍ってしまうことを心配すべきかもしれないな。

しかし、それよりも前に君は、かけがえのない親友や、恋人をつくるだろう。今まで、他人とそんな関係になったことは、なかったんじゃないか?

そのうちの何人かとは、ひどい別れ方や裏切りも経験するはずだ。とても心が痛むだろう。

その痛みは癖になる。

しっかり味わっておくといい」

 

アン「大人の味というやつですか。

こわいこわい。この先何十年生きても、おれ、あんたほどこじらせたりできないと思うよ。これでも平凡人のつもりなんでね」

 

黒衣の男「そんなにこじらせてるかな。

別になろうとしてなるものじゃない。気付いたら、なってるものだ。

さてそろそろ帰るとしよう。またな。ほどほどにしとけよ」

 

直後、黒衣の男は、視線に気付いた。

繁みの陰から、村の牧師がこちらを見ている。

 

……しくじったな。アンと一緒にいるところまで見られたか。

悪いが、その口、塞がせてもらうぞ。

 

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