土曜日。
ハンターリヴァー駅跡地のカフェは賑わっていた。
アビグウェイト島にはかつて約60の鉄道駅が存在した。だが何十年も前に廃業して、州は駅舎を案内所・兼・休憩施設として整備したのだ。
往時より発展した地域もあったが、ハンターリヴァーはますますさびれた。
ところが近頃は週末になると観光客が訪れて、サイクリングやドライヴを楽しんでいる。
ふしぎな現象である。
だって客のほとんどは、8マイル先のアルバリーが本命なのだから。
でも村へは踏みこまず、すぐ近くまで行ってきたぜ、という土産品と写真を手に入れたら満足してしまうらしい。
なぜだ。それでいいのか、おまえたち。
そんな弱虫で審判の日を無事に過ごせると思っているのか。
ミスター・ドビンズは、このカフェへ呼び出された。
せいいっぱいの、おめかしをして来た。
招いた側は物陰から失笑する。
打ち合わせ通り、女の方だけがそのテーブルへ歩いていく。
彼女の夫は、ここまで乗ってきた車で、ひと足先に教会へと向かう。
ドビンズ「あ、あなたがミセス・コーデリア・マクドナルド?
はじめまして、ドビンズです。
いやあ、なんと美しい御婦人だろう。これからの学校生活が、とても楽しくなりますね」
ミセス・コーデリアは第一印象で彼に落第点をつけていたが、この挨拶で更にマイナスを加えた。豚の餌にもなりゃしない。なったとしても、そんな豚は自分たちの口に合わない。
しかし仕事は別口だ。村へ入る前に、この醜男からアルバリー小学校の実態を可能な限り聞き出しておく必要がある。情報提供できる資質もおそらくミミズの視力レヴェルだろうが、釣り師はどんな餌でも美しく悶えさせて獲物を針にかけるのだ。
コーデリア「ミスター・ドビンズ。あなたの思っているままを話してください。犯人はいったい誰だとお考えですか?」
その夫ユーアン・マクドナルド牧師は教会へ到着後、すでに一般人となった前任者と簡単な挨拶を交わしたのち、ただちに追い払った。
「恋人を連れて、とっととどこへでも行ってしまえ。あとのことは私がすべて取り仕切るから心配するな」と吐き捨てて。
アルバリーは、州都シャーロットと同じクイーンズ郡に属する。
夫婦はその住宅地図を都庁で手に入れてきていたが、実情とあまりにかけ離れていることは軽くひとっ走りしただけで察せられた。スーリスは把握していただろうが、他人に伝えるための資料は作成していなかったようだ。
あいつはどのみち三流だったと査定するしかないではないか。
ユーアンはただちに郵便局を訪れ、局長一家が敵と結託していないことを自分なりに得心した上で、信用するに足る住民簿と地図を複写してもらい、牧師館へ戻る。
日曜日は礼拝と指導を司式して、月曜日からさっそく一軒ずつ家庭訪問の開始だ。これは教区へ新しく赴任してきた牧師が必ずせねばならぬ役割であり、住民が拒絶でもしようものなら即異端として摘発ができる。
もっとも、そんな簡単に尻尾はつかませてくれないだろうがな。
同時刻、ミセス・コーデリアはドビンズとドライヴをしていた。
女におだてられるとたちまち舞い上がる男だ。まさか恋愛経験ゼロとか?この齢で。キモッ!
そんな本音はおくびにも出さず、村の名所を案内してもらう。
たとえば、歓喜の白路と呼ばれる美しい並木道を走り抜けた。5月から6月にかけては、見渡す限り白い花びらが咲き誇り、この上なく見事なのだそうだ。
「来年のその頃また、ご案内しますよ!」とニヤける微笑みデブの横顔はこの下なくおぞましいものであったが、心を乱されることなく恥じらう素振りを返すコーデリアのかっこよさったらないねえ。
並木を抜けると、大きな池がある。輝く湖水と呼ばれている。
よく手入れされていて、なかなか見事だ。私有地で、この邸の娘も小学校へ通っており、けっこうな人気者なのだとドビンズは講釈を垂れる。
その口もとのニタつき具合から、こいつがヤリたがるほどの美少女みたいだな、とコーデリアは分析をくゆらす。女の勘というやつか。
コーデリアはその少女を守ってやらねばならぬと決めた。異端でなければ、という条件付きでだけど。
街道は林の中を左へカーヴし、森の中をしばらく走ると小さな町だがスタンレーブリッジへ行き着く。
アルバリー村民にとって手頃な買い出し先といったら、ここになる。
春から夏にかけて、この付近でも何人か弔われた。いやはや、ひどい殺人鬼ですよとドビンズはことさら正義感を顕わにしてみせる。
ドビンズ「コーデリア、僕はきみのナイトをつとめることができるよ。朝夕の通勤を、僕が送り迎えするのはどうだろう。なにしろ物騒だからね」
コーデリアは、はにかみながら答える。
「うれしいわ。でも、それは夫がしてくれると思うから。ありがとう」