人はなぜ学校へ行くのか。行かせるのか。
そもそも学校とは何なのだ。なんのために存在する施設なのだ。
考えてみれば、ふしぎだ。
アルバリー村の子供たちにとっては、ともだちとあそぶ場所だった。
きっかけがなければ知り合わなかったであろう同世代の村民とも触れ合うことで、社会性とか公共心といったものを学ぶことが、人によってはできた。
鞭打たれる痛みや、反省文を通じて身につける表現技法も、家庭でよりはハイレヴェルに修得することができた。
親たちにとっては、一人前の作業をさせるには未熟であるばかりでなく、いたずらしたり質問攻撃したりして稼ぎ仕事の邪魔をするめんどくさい家族を、ある程度預かってくれ、ついでに躾もしてくれる公共機関があるなんて大助かり。
さすが私たちが税金を払ってやってるおかげだよと自分たちを讃え合う。そして教師が怠けていたら、集団で怒鳴りこんでいって締めあげる。
学校というものは、そんな風に地域から愛され必要とされる存在だったみたいである。
なるほど、そんなにふしぎでもなくなった。
高学年クラスの生徒たちは、何年もこの学校に通っているから、授業とはこんなものだよという心得が、ひとりひとりにある。
いつも叩かれている子は絆創膏を持参するし、寝ていても怒られない子は「どんな夢を見ようかしら」とお気に入りのブロマイドを前の晩からポケットにしのばせておく。
その日常が、このところ少し変化してきた。
新しくきた先生のせいだ。
いままでの法則が通用せず、あたりまえのことをしていて怒られ、考えたこともない義務を課せられたりする。全員がひとりひとり、それぞれに、戸惑う。
彼女は、歴代の先生たちとは、そもそもからの考え方が違っていた。
勉強しないと将来きっと困るぞと脅す。
うちの両親だって、こんな勉強したことないと言ってますけど、なんて反論は許可されない。
例文を暗記させられる。
毎週末に試験がある。間違えたら減点され、順位表で下位にいつづけると落第させられる。
ラクダイって何ですかと、誰かがやっと訊いてくれた。低学年クラスからやり直させられるらしい。
やったぁ、ジェニファー先生なら優しいから私そっちの方がいいな、と何人かが安堵の表情を浮かべた瞬間、コーデリア先生の態度は豹変し、落第はさせないことになった。
代わりに、膨大な宿題を課せられる。
こんなむごたらしい罰より鞭をください、と誰もが尻をさしだすが、先生は汚い尻など見せにくるなと怒るだけ。
鞭さばきの腕はたしかなはずだが、生徒に体罰を与えることは恥だとでも考えているようだ。
いったいどういうおつもりであるのか、さっぱりわからない。
生徒たちの顔つきは、徐々に、徐々に、暗鬱となっていくのだった。
5年生のダイアナ・バーリーは、常に成績上位メンバーだった。
先生の前では決して気を抜かず、その発言の背後にひそむ真意を掴みとることを心掛けた。
必然的に、中位から下位の生徒たちより次々と相談を受ける立場になり、教室全体をひとつのチームとして結束させる中心的人物というポジションが確立していく。顔つきは、もはや大人だった。
ミセス・コーデリアは面倒くさくなってくるとダイアナに指示を与えて落ちこぼれたちの世話をまかせるようになり、余裕をつくって他の分野への調査を進めていく。
たとえばドビンズの持つ鍵束をこっそり拝借して複製をつくり、彼の出入りできるすべてのフィールドを痕跡のこさず探索した。
世界最悪級のオナニールームだと判明した化学室には、カムフラージュ用と思われる試験管やプレパラート、簡易顕微鏡などの箱が積まれていたが、埃の付きかたから推理して中身が最近抜き取られたらしいことに少し違和感を抱く。
ドビンズ自身に使う才能が備わっているとは考えにくく、だから自分が血液分析用などの目的でもらっていきたかったのだが。などと考えているうちに気分が悪くなってきて退散。
殺人鬼が村内に拠点を持っているならば、それなりの研究室・武器庫・飼育部屋などが必要となるはずだ。ドビンズ・ルームよりおぞましいものを見ることは、さすがになかろうけれど。
ユーアンも村の隅々まで調べて回っているけれど、面積はそれなりに広いから、学校周辺はコーデリアの担当だ。
ほか、教団から派遣される審問官や偽観光客なども徘徊している。
村民たちから寄せられる不審者目撃情報は連日すさまじい量となるが、一件ずつ本部が送ってくる巡回日報と照合して、それは教団関係者だよと思われる証言は間引く。つらい、地道な作業である。
基本は二人だけでやっているため、マクドナルド夫妻のストレスはとてつもなく重い。早く片付けてパアッと豪遊したいわよね。そんな夢が、夜な夜な交わされる。
早く片付けたいのはダイアナも同じだった。
グリン・ゲイブルズでアンに愚痴をこぼす。
「そろそろあの先生、追い出してくれないかしら?」
アン「都会の小学生は、みんなこのくらいの勉強してるもんなんだってさ。
いい先生だと思うよ、おれは。
お友達にゃなれなさそうだけどな」