緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§32.不思議きわまりない人だ

コーズィー・ヌック。

居心地の良い団欒。

マチルダ・ウォームウッドが住む家の屋号。

 

パパは経営者。中古車販売業。

自宅と本店はホワイトサンズにあり、マチルダが生まれた頃スタンレーブリッジに巨大な2号店をつくって荒稼ぎに拍車をかけた。

総走行距離計を細工するなどは朝飯前で、仕入れ価格の10倍で売るのが最低ライン。試乗すると快適なのだが、半年も経つとあちこちトラブルを起こす。もちろんすべて客の乗り方が悪いせいにして、修理代に調整費にと、相手の懐具合に応じて懇切丁寧に対応してあげる。

一度でも店を訪れて本名や電話番号を記入した人間の情報は徹底的に追跡し、しばらく来店してないなと思って調べにいったら新車に買い替えていたりした場合、ほどなくそのオーナーは事故を起こしたりすることもあるという。

しかし警察が調べて問題となったことはない。

家長ハリー・ウォームウッドは子供の前でよく語る。毎年どれほどの税金を納めてやってると思っているんだ。政治献金だって莫大な額だぞ。いいか、これが商売だ。

 

マチルダには5歳上の兄がいる。家族曰く、今よりずっと気性の荒かった時代の父から英才教育を受けて育ち、父の跡を継ぐ3代目社長として従順に躾けられてきた。

夕食後、父はテレビの話題に反応して、よく子供たちにクイズを出す。揚げパン2個とソーセージ3本を足したらいくつだ、といった算術が多い。

マチルダはたいてい兄より早く解答を出せるが、決して口にしない。男にはプライドがあり、女がそれを傷つけることは道徳的に間違った行為だと教えられて育ったからだ。

娘は、兄と父を褒めちぎるために生み出され、そこにいる。衣食住を保障されているありがたみを、しっかりとわきまえるべし。

ママからも、いつもそう教えられる。

マチルダは賢い子だから、決して逆らわない。

でも息苦しいから、なるべく早くは帰宅しない。大音量で夜中までつけっぱなしのテレビもあんまり好きじゃないので、ディナーを食べたらすぐおやすみする。

家族はそんなマチルダを、あんな知恵おくれで嫁に行けるのかと、なまぬるく心配する。

 

マチルダのおばあちゃんは、孫娘が物心ついた頃に亡くなった。ウォームウッド・モーターズ創業者の妻だ。

その頃は堅実な商売をしていたらしい。

店の会計簿はずっと、このおばあちゃんがつけていた。ぶ厚いノートにびっしり、手書きで。毎日毎日。

マチルダは這い這いしながら、いつもこのノートに触りたがったそうだ。

文字の羅列。それはマチルダにとって、物心つく前からずっと不思議きわまりないものだった。

 

おばあちゃんがいなくなったときのことはぼんやり覚えているが、その頃すでにマチルダは目にする文字をなんでも読むことができた。看板でも、チラシでも、もちろんテレビに表示される記号も、すべて。

その頃は、なんておりこうなんでしょうと、母からも父からも喜ばれていたような気さえする。今ではありえないので、願望が生み出した幻想かもしれないのだが。

 

おばあちゃんのノートを一冊もらって、たからものにしていた。

同じものがたくさんしまわれている箱から、ある日ごっそりなくなっていたので、本能的に物置へかくして、さびしいときだけ、こっそり見にいっていた。

あるとき父親がそれを見つけて、大さわぎになる。

すぐ庭で焼きすてられた。税金対策上、この世にあってはならないものだったのだろうと思われる。

おばあちゃんの形見は、きっと、おばあちゃんの手元にもどったんだ。賢いマチルダはそう考えたので、かなしくはならなかった。

 

小学校へ行くようになってから、はじめての味方ができた。

ひとり目はミセス・フェルプス。バスから図書館の看板を見つけたとたん、入ってみたくてたまらなくなり、本棚を見上げていたら、声をかけられたのだ。

ふたり目は、先生のミス・トランチブル。入学後何日かしてマチルダの才能に気付き、同僚に報告したり、はてはコーズィー・ヌックへ直談判しに押しかけたりなど、めちゃくちゃ余計なことをやらかした。

今では事情をよく理解してくれ、そっと見守るだけにしてくれてる。

 

さんにん目の味方は、マチルダのほうから声をかけたので、初めて自力でゲットした、にんげんのともだちといえよう。

アン・シャーリー。

兄と同い齢だが、メーターが役に立たないほど、あらゆる能力が桁外れであるように思われる。

フィリップス先生が困ったオトナだということは知っていたが、わずか数週間で計画的に追い払ってしまった。彼女はマチルダにとって不思議きわまりない人だ。お弁当を一緒に食べるくらい、してみたいじゃないの。せめてその程度のわがまま叶えさせてよ、神様。

 

新たなコンビとなったマチルダ&アンにとって、ミセス・コーデリア・マクドナルドは敵じゃなかった。

気分次第な大人たちとは一線を画し、規律に厳格で、整合性を完璧にしたくて七転八倒している。見ていて面白いにんげんだ。

おともだちには、しなくていいけど。

 

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