アンは言いつけどおり、マリラとマシュウにニュースを伝え、ひとまず自室へ戻った。
ほどなく窓の外に合図を認め、こっそり抜け出す。
白樺の林へ入る。
ゼブラスーツに身を包んだジェイムズ・シェパードが近寄ってきた。
アン「ついさっき、黒衣の男が捕まったってよ。
だから今日は、そんなカッコ?」
ゼブラ「僕がここを脱出したあと、逃がしに行く。どのみち拾った浮浪者だから痛くも痒くもないが、敵がますます混乱してくれるなら、それに越したことはない」
アン「牧師夫妻は、ジョセフ・ベルに注目している。
あのおっさんが何者なのか、知ってる?」
ゼブラ「知らないな。調べておこう」
アン「それから先週末、州都で大会でもあったのかな?村の大人たちが、大勢出かけた。
クリスマスを楽しみにしてろってさ。
こっちは、なにかわかる?」
ゼブラ「つきとめてある。その件について、君は、どんな風に知らされている?」
アン「マリラが、おれを推薦したって言ってたのが、ひっかかるんだよな。
表彰されるとか?まったく身に覚えがないんだが」
ゼブラ「たしかに君の名前も挙がった。去年まで参加経験の無い子供には新人だけの特別枠があるんだ。
その中で目立てば最優秀新人賞をもらえるだろう」
アン「目立つ気はねえ。
なにかい、演劇とか、朗読のコンテストでもやんのかい。クリスマスだからな……あれ?」
ゼブラ「君にしては、気付くのが遅いじゃないか」
アン「新教徒はクリスマスを祝わないんじゃなかったっけ。
そうだ、すっかり忘れてた。ええと……でも、クリスマスだって言ってたぞ、たしかに」
ゼブラ「一から十まで教えてやることはできるんだが、さすがの君でも、当日が訪れたときの驚きが弱まるだろう。
芝居できるか?
僕はそれを危惧している」
アン「驚くようなことなんだな?
ダイアナもマリラも、もしかするとマシュウだって、おれがどれだけ驚くやらと、そのリアクションをたのしみにしてやがんだな?
……わかったよ。知らないほうがいい。当日、驚いてやらあ」
ゼブラ「賢明な判断だ。
まあ安心しろ。悲しむ人をつくるためのイヴェントじゃあない。村民の結束を深めるための祭典なんだ。
少なくとも、やる側にとっては」
アン「一般的な背景だけ確認させてくれ。
クリスマスは聖書に載っていない記念日で、紀元後何世紀だかの聖職者が始めさせたお祭りだ。新教は聖書の記述のみに従う原理主義者であり、かれらの軽蔑する旧教に由来する一切合切を無視あるいは撲滅すべきだと考えている。……で、よかったっけ」
ゼブラ「そうだね。随分スラスラと出てくるようになったじゃないか」
アン「質問。アルバリーの信徒たちは州都へ行って会議かなにかした。たぶん教団本部でだろう。
これって、そこまでの範囲で終わる話?
それとも、それこそ全世界規模でクリスマスに何かをやらかしちゃうとか、そんなレヴェルの計画?」
ゼブラ「なるほど。他地区のプレスビテリアン教団も連携しているかどうかか。
君なら、ちょっと考えれば自力で気付けると思うんだがな」
アン「田舎暮らし半年もしてりゃ勘なんて鈍っちまうんだよ!
でも……今のニュアンスだと、どうやらアビグウェイトだけで、っぽいな」
ゼブラ「去年の今頃、君はハリファクスに住んでいた。
そこではクリスマスにテロルをぶつけるなんて、あたりまえのようにやってたかい?
クリスマスは全市民で祝うべきイヴェントだったはずだ。あるいは、皆が平和に過ごせる一日だからこそ、盗みに精を出していたんだろう。
僕だってアビグウェイト州では違うんだなってことを知らなかったくらいだよ。
安心したまえ。この地域ローカルだ。
もっと言えば、アルバリーなど閉鎖的な村に住む、こじらせた狂信者たちによるテロルが、かれらの力及ぶ範囲でささやかに聖夜の一部をほんのわずか、穢す。
それだけのことさ。
そこまで身構えていなくても、すぐ終わるよ」
アン「ほっ。なあんだ。言われてみりゃそうだね。
でも……そっか。今年からのクリスマスは、おれにとって稼ぎ時じゃあ、なくなるんだ。ちょっと淋しくなるね」
ゼブラ「ノヴァスコシアじゃいたるところでツリーやイルミネーションが飾られている。ここへ来る途中、シャーロットへ寄ったが、小規模ながら賑やかに彩られていた。
いいんじゃないか、せいぜい楽しくやれ。
来年、それぞれの視点から感想を語り合うとしよう」
アン「おう。あれ、今年はもう来ないの?」
ゼブラ「年末だぞ。とても忙しいんだから、勘弁してくれ。
1月はまだ、いつ来られるか予定が立たない。
また合図する。それじゃ」
この日夕刻、アルバリー村内に武装勢力が突如侵入。銃を乱射し、捕らえられた仲間を奪還し逃走した。
幸い死傷者は出なかった。めでたし。