緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

45 / 190
§45.道の曲がり角

どこの町や村でもだけど、所有権のはっきりしない物件なんて、あちらこちらに転がっている。

 

経営者は、業績が好調だと銀行などから借金をして、事業を拡大する。具体的には畑を広げて作業小屋をつくったり、倉庫を増やしたり、ボンクラ息子にも適当な役職を与えて取締役会に参加させたりする。

権力をプレゼントされた無能者はさりげなく予算を計上して、あちこちにコレクションルームや逢い引き部屋をつくり始める。

そしてバブルがはじけると債権者が転売しやすいものから奪ってゆく。

外聞の悪い不動産の購買記録は最優先で処分しておかれるのが普通だし、汚部屋と化していて誰も欲しがらなければ書類が揃っていたとしても未処理扱いのまま放置される。

建築物が老朽化すると解体費用も発生するから、ますます誰も触らなくなる。

都会ではそんな物件でも放っておかれにくいけれど、さびれた町や村であれば、廃屋がありふれすぎてて目立たない。アルバリーでも、こんな物件があちらこちらに転がっていた。

 

参考までに、威勢のよい政治家が出現するとこういったゴミを処分しやすくなる。

役人が計画案をつくり、議会が承認すれば、たいていの厄介事を合法的に片付けられる理屈だが、そんな雰囲気をつくり一点集中させることこそ政治家の使命だ。もともと期間限定の商売だし、票さえ集められるなら地元の出身者でなくてもよいので、テレビでクリーンなイメージをまとわせることに成功したタレントなんかがよく田舎へ引っ越して選挙に立候補する。

落ち目が落ち目とほどよくマッチングしさえすれば数年間の蜜月をつくりだせるメカニズム。

すばらしいと思うだろう、世界中のみなさん。

ゴミをためこみすぎた地方都市は、どこもかしこも白馬の王子様を待っている。いつかはあなたの住む町へ行くかもしれません。期待しよう。

この道の、次の角を曲がれば、そこに立っているかもしれない。

あせらないあせらない。道半ばで転ばないよう、一歩一歩進んでいこうね。

 

メアリ・ヴァンスは村のあちこちに隠れ家をつくった。

空き家のほとんどは鍵がかけられ、柵や鉄条網で立入禁止にされていたりなど、子供たちや浮浪者を近寄らせないための対策が施されている。処置が厳重であればあるほど追跡者も入ってこないから、侵入者も安全でいられる。

彼女は百戦錬磨だからコツを熟知していたし、素人をひっかける罠づくりにも長けていた。

ただ人間嫌いではまったくなく、むしろ気をゆるせる友達や恋人も普通に欲しいと考える娘だったから、アンのように保護者を見つけて定住先も確保する生き方にだって強いあこがれを抱くのだ。しかし束縛されるのが大嫌いで、愛より自由がずっと大事という信念も堅いので、この放浪癖だってやめられない。

考えれば考えるほど、あれもこれもなんだって欲しくなる。

それがメアリ・ヴァンスという少女だった。

 

そんな彼女から見ると、アンは最強レヴェルの不思議ちゃんである。

出会う前から、あれだけアタシのことを知っていた。なんで?

しかも追跡していた風にも見えない。情報を集めて、分析して、条件にピッタリの子を見つけたから、つい声をかけてみたという。

ヴァンスは「友達になろうよ」と誘ってみたが「段階を踏もうぜ」とこれまた冷静。

男に嫌悪感を持ってるようなのが唯一感情らしいといえばいえるかな。わけわからん。

よし、こいつぁ腕によりをかけて変装し、お茶によばれなくちゃだわ。

さすがに緊張しちまうぜ、このアタシ様が。

 

ところで、村のはずれにリーヴァイ・ボウルターという偏屈者が住んでいた。

独居老人というやつだ。小さな畑で、基本は自給自足。ときどき薪を拾い集めて村の出荷所へ売りに行き、わずかな現金収入を得て、必要な物資もそこで買う。

この爺さんが老衰で死んだら、また所有者のいない廃屋が一軒増えることになる。

メアリ・ヴァンスはここへも偵察に訪れた。

理想的な人生送ってんじゃないの?と好印象を抱く。

爺さんの仕事ぶりも間近で覗いた。老人は、栗鼠がこっちを眺めてるがなといった風情で気にもしない。ヴァンスにはこの距離感が心地好く、時々通うようになった。セックスも一回した。

それを聞いた瞬間、アンは眉をひきつらせる。

お、反応しやがったな。

 

アン「……なんで、そうなっちゃうわけ」

 

ヴァンス「ムードかな。おじいちゃん、何十年ぶりだったんだろうね。泣いてたよ。ま、一瞬だったんだけど。二発目も無理でさ。いやあ、ああゆうのも味わいあって、よかったよね」

 

アン「なんで、そうなっちゃうわけ?」

 

ヴァンス「動揺してるね、相棒。まあ言葉で説明するのは野暮だし無理だと思うよ。キミもいずれわかると思うが、そのときはぜひキミの力で言語化し、発表してほしい。キミならできるだろう。期待している」

 

アン「リーヴァイ・ボウルターにとっては、妖精にたぶらかされた一夜の夢なんだろうな。そんな童話ならグリムやアンデルセンも書いているだろうが……いったい何の教訓がそこにあるんだ」

 

ヴァンス「生きてると、こんないいことだって、あるかもだぞ!」

 

アン「そうなっちゃうわけ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。