本日は、貴婦人たちのティーパーティー。
水曜日なのだが、学校はお休みした。悪い風邪が流行っていることもあって、うるさくは言われない。
会場はグリン・ゲイブルズ。ホストはアン・シャーリー。ゲストはダイアナ・バーリーと、メアリ・ヴァンス。
家主のマリラ・カスバートからキッチンの使用許可をもらい、娘たちでレイヤー・ケーキづくりに挑戦する。
ダイアナの判定によれば、アンはレシピ通りの分量や時間を忠実に守ろうとして、混ざり加減や焼け具合など実物の状態に合わせきれない欠点を持つ。
メアリに対しては、放埒に感性の赴くまま勝負する性格なので見ていて面白いのだが試食は自分でやってほしいと冷ややかだ。
ともあれ、つくった3人で食べる限りにおいてなら、それなりに美味しかろうケーキが完成した。
お次は致死量の測定にとりかかろう。
アール・グレイは毒を薄めてくれるのか?
砂糖も過剰摂取すると健康被害をもたらしますわよ。
賑やかな座談が盛りあがる。
ダイアナ「フルータティブスって聞いたことある?便秘薬なんだけど」
メアリ「なに、今すぐ飲みたい感じ?」
ダイアナ「昔ね、それをケーキに混ぜちゃったことがあるの。缶のイラストがかわいくて、名前もフルーツから採っているので、香料だと思っちゃうわけ。
あれは作ったメーカー側の配慮が欠けすぎてたわよ。今でも思い出すと肚が立つわ」
メアリ「へえ、お嬢様にもそんな失敗談があるんだ。
アタシたちだってまだまだ素人だからさ、これからいっぱい失敗を積み重ねて、成長していかないとな」
アン「もしかして、まっ黄色のパッケージ?
それ多分、今でも作られてるよ。都会のグロサリーストアで、見たことがある。フルート・アティブスとかいう会社名じゃなかったかな」
ダイアナ「あっ、それよ。まちがいないわ。
ひどいなあ。たしか、一箱たいらげた男の子が中毒死したなんて事故も起きてたはずなのに」
メアリ「因果関係が証明できなければ、立件しても無罪にせざるを得ないんだよ。これ、覚えとくといいぜ。疑わしきは罰せずって原則だ」
アン「余談だけどさ、フルータティブスってストリキニーネを原料に含んでるはずなんだ。少量だとたしかに血管を膨張させて臓器を活性化させるんだけど、ひと箱も一度に食べたら全身の筋肉が痙攣を起こして相当に苦しんだはず。ミニー・メイにその話をして、注意書きをよく読んでから口に入れましょうって教えておくといいかもな」
ダイアナ「すごい。さすが毒物専門家」
メアリ「なんでそんなこと知ってるわけ?」
アン「昔、そういうの試したがる師匠の下で修行してた時代があるんだよ。余計なこともいっぱい教わったけどな。
でもまあ、こんな豆知識を披露できる程度には役立ってるんだ。感謝しておくべきかもね」
さいわい、ケーキの食後に胃腸薬は必要とならなかった。すぐには。
食器類をきれいに片付けて、会場を2階へ移す。アンの部屋だ。
ダイアナは、前回来たときよりまた器材が増えてない?と素朴な感想を口にした。
アン「ドビンズの部屋から持ち出せるものは取り尽くしたからな。最近はいろんなとこから入手してるけど、郵便局を通したくないから、めんどくさい。
いい香りするだろ?ヴァンス、こいつの正体、当てられる?」
メアリ「あー、名前は知らんけど、よく咲いてる、あの花じゃない?
なに、これも毒なの?すごいねアンは。アタシ、こういう作業を地味にコツコツやっていくのって超苦手なんだあ」
アン「人聞きが悪いな。香水つくって売ってるんだよ。商売だ。まだ、なかなか黒字にできないけどよ。
ストリキニーネならもっと高い値をつけられると思うんだが、原木のマチンってこの辺の気候で育つんだろうか。
試すにゃ原資が必要だしよう。ま、コツコツやっていくけどさ」
少女たちには話題がいくらでもあった。
メアリ・ヴァンスは学校に通った経験が無かったけれど、話を聞く限り自分には向かない、とあっさり見切りをつける。
アンはマチルダの話もした。今日だって誘いたかったのだ。
ただ、メアリ・ヴァンスとマチルダとでは会話が成立しそうにない。メアリもそれは認めたが、マチルダの実家であるウォームウッド・モーターズに対してはひどいやつらだと親身になって怒った。どうすればいいと思う?
メアリ「アコギな商売やってる店なんだろ?政治家ともグルでさ。だったら脅迫状送りつけて破壊工作してやればいい。敵が心から反省するまで続けてやる」
ダイアナ「大袈裟にしちゃうと、かれらは被害者づらしてますます勢いをつけるわ。アンの特技を活かして、毒殺していくのはどう?ひっそりと腫瘍を取り除いていき、最後にはマチルダだけが遺される。そこで養女に迎えるのよ」
アン「マチルダが望まない以上、彼女を悲しませることは一切したくないんだ。
本人曰く、限られた条件下で自分は最大限にやりたいことをやっている。だからちっとも不幸じゃないよってさ。そこはみんな同じでしょ?なんて言うんだ。
どう反論しろっていうのさ。
おのれの無力がうらめしいよ、まったく」