ダイアナ、ミセス・コーデリア・マクドナルドに呼び出される。
コーデリア「ダイアナ・バーリー。あなたは本当によくやってくれたわ。
私も長らく教師をやっているけれど、あなたほど有能な助手はいなかった。
どうしたの、もっと胸を張りなさい。私たち、もう緊張するような間柄ではないでしょう」
ダイアナ「いえ、先生は私にとって永遠の先生です。お友達のような関係にはなれません。どうぞ厳しく御命令してくださいまし。今日は、何を申しつけられるのでしょうか?」
コーデリア「神は、今この瞬間も、私たちの心を見ておられます。しかし決して手出しはされません。私たちが自力で問題を解決してみせることを、神はじっと見守っていてくださるのです。わかっているわよね?ダイアナ」
ダイアナ「よくわかっています。為すべきことを為すために、私たちは自身をよく知り、鍛え抜かねばならない。
それでは先生、課題をどうぞ」
コーデリア「まだ誰にも言ってはならないことよ。私はここを去ることになりました」
ダイアナ「ええっ!なんということでしょう。いつ、どちらへ向かわれるのですか?」
コーデリア「6月の終業式までは、ここで先生を勤めます。後任の先生と牧師がいらっしゃれば引き継ぎをしたいところだけど、先方からも早く来てほしいとせっつかれているものでね。あまり余裕はないの」
ダイアナ「ああ、牧師様も御一緒ですよね。当然ですわ。先生、秘密は厳守いたします。新天地はどちらへ?」
コーデリア「ベルファスト。さあ、どこだかわかる?」
ダイアナ「グレートブリテンの、辺境の、紛争地ではなかったでしょうか」
コーデリア「エイジャ島の南半分はカトリックに実効支配されています。北東部には自由戦士たちの橋頭堡が造られていて、アルスターシックスと呼ばれているんだけど、その首都がベルファスト。
毎日がテロの恐怖に曝されているわ。ローマから潤沢な軍資金が夥しい武装勢力のもとへ流れこんでいて、子供たちの未来を奪っている。
ゆるせないでしょう。私と夫は、真実を解放せんと戦う人たちの支えになりたくて、ずっと志願していました。いよいよその夢を叶える機会を手に入れたということなのよ」
ダイアナ「先生……それは……それは、死を覚悟するということではないですか?」
コーデリア「もちろんよ、ダイアナ。
地上での生は、ほんのひととき。だからこそ常に覚悟を決めて、せいいっぱい生きるべきなの。あなたになら、わかるわよね?」
ダイアナ「先生……私は、私はいま、悲しみに押しつぶされそうで、つらいです。こわくて、こわくてたまりません。でも……先生が、こうして私に教えてくれたこと。その意味を、一所懸命、考えます。今の心の痛みを、なんとか自分の力で乗り越えていくことを誓います」
コーデリア「あなたは立派よ。さすが私の見込んだ宝石だわ。
ほんとはね、あなたを連れて行きたかったの。
国費留学生という制度があるのよ。ベルファストの一日は、アルバリーの十年に匹敵する経験をあなたにもたらす。かけがえのない戦友たちとともに、人間として、無限大の成長をつかみとることができる。
……でも、あなたはやっと12歳になったばかりだものね。
教室ではずいぶん大人びて見えていたけど、こうして二人きりでいると、やっぱりまだ幼いわ。少し時間を置きましょう。でもよく考えておいて。世界を平和に導くため、あなたが飛び立つ気になったら、私は協力を惜しみません。ベルファストで待っているから。
さあ泣かないで。いいこと、まだ誰にも相談しちゃだめよ。
今の話は、ダイアナと私だけの秘密にしましょう」
ダイアナ「……ひっく。ひっく。……先生、その、ベルファストへは、誰でも行けるわけじゃないんでしょう?先生は、選ばれたんですか?」
コーデリア「そうなの。一年前を覚えてる?私たちが来る前、アルバリーには冷酷非情な殺人鬼がうろついていて、全住民を恐怖の奈落へ突き落としていたわ。
私と夫は教団本部から指名されてここへ派遣された。そのときだって、どれだけ残忍な殺され方をするかしらと覚悟を決めて来たんだわ。
でも連続殺人鬼は私たちに刃向かってこなかった。
武装勢力が背後にいると推測される事件も起きたけど、あれっきりだったし、実質的な被害も出なかったでしょう。
私たちは秩序を回復させ、この村に平和をとりもどした。やりとげたのよ。
その働きが評価されたということね。
ダイアナ、よく覚えておくのよ。一歩一歩、こうして実績を積み重ねていくことで、人は社会に認められてゆく。その先で初めて、世界を変える力を掴めるようになるの。
ひたむきに生きなさい。あなたの席はあけておくから。
必ず会いに来てね。約束よ」
ダイアナは、先生がかっこよく旅立っていく姿を想像して、泣きに泣いた。
心の中では天使たちのラッパが谺した。