近頃は人狼ゲームが流行ってる。
ミス・ステイシーが私物として持ちこんだカードゲームが発端だった。
親は、自分を含めたプレイヤーの数だけ役職カードを準備する。その中には1枚だけ人狼が含まれる。よくシャッフルして配る。
人狼以外には、預言者・霊能者・狩人・漁師・銀行員・鍛冶屋・石工・怪盗などの配役が存在する。他の人に見せてはならない。各自、確認したら裏面を向けて目の前に置いておく。
ゲーム進行上、人狼以外の全員を村人と呼ぶ。村人たちは、自分たちの中に紛れこんでいる狼を暴き出し、殺す。
これがゲームの目的だ。
プレイヤーは挙手して日常会話をスタートさせる。
話題に詰まったら出来事カードをめくって、それをトリガーにしてもよい。現実を反映させる必要は無いので、突拍子もないキャラクターを勝手に創作し、なりきるのも自由。
預言者とか怪盗という設定も刺激を加味するために設けてあるだけなので、従わなくともよい。
人狼だけは、素性を隠して逃げきらなくてはならない。
さて、会話の流れでなんとなくなのだが、一日の終わりが訪れると、プレイヤーたちは投票する。
人狼はこいつだ、と多数決で選ぶのだ。
選ばれたプレイヤーは殺されて、配役カードを裏返す。
人狼だったら、村人あっぱれ。
間違った処刑であれば、生存者全員で、ごめんなさいと謝る。
死者は円座の外側に移動し、翌日以降の会話には加われないが、まだ役目がある。
憎き村人を道連れにし、人狼を助けてやれるのだ。
権利は一回限りで、いつ行使してもよい。これ以上殺されることはないので、外側からじっくり聴き耳を立て、一番強そうな探偵を呪い殺してやれるのは快感だ。
当然、死者に殺された者には同じ権利が与えられない。
こうして人狼が始末されるまでゲームは続く。
本気で遊ぶとかなり疲れるが、お茶を飲んでいるうちにまた、やりたくなる。中毒性の高いゲームだった。
8月のある日。オーチャード・スロープへミス・ステイシーと12人ほどの娘たちが集まった。
庭に大鍋を設置して、パスタをじゃんじゃん茹でるというパーティーを催す。
食後は待望の人狼ゲーム。
誰かの思いつきで、役職に「判事」が新規追加される。
このカードを引いた者は、最初の時点でそれを宣言せねばならず、したがって人狼ではありえない。
判事は日没タイムでの投票には参加せず、しかし自分以外の生存者全員が選んだ人物を殺すか殺さないかの最終決定権を持つのだ。
仮に冤罪だったとしても、死者は判事を殺せない。
強烈な重圧にさらされるポジションであるがゆえに、判事の苦悩する姿は緊迫感を盛り上げた。
人狼と判事は宿命のライヴァルであるかの如き絆でも結ばれる。2回戦開始時には、この二者で「勝ったほうが負けたほうに何でもひとつ命令をしてよい」というオマケまでついた。それを村人全員で愉しむという趣向だ。
アンは人狼役がうまかった。
人狼のカードに当たろうが当たるまいが、常に人狼のように振る舞った。
人狼は生き残らねばならないから、積極的に他者へ疑いを向けさせようとしがちだ。もちろん、それを見破るのが得意なプレイヤーもいる。
繰り返すがアンは人狼役がうまかったのであって、目的は早めに処刑されて輪から一抜けすることだった。
死者の立場で、発言も求められず、じっと一撃を温存し、ここぞという場面で仇敵の生命を奪うのだ。
彼女の性格を考えたら、そりゃそうだろと思わずにはいられまい。
2回戦の勝者は、敗者に「いまつきあっている彼のことを全部話しなさい!」と命令した。
ギャラリーは熱狂し、生贄を取り囲む。
人狼はゲームだが、この処刑はガチだった。
しかも女ばかりだから容赦しない。
次、判事か人狼のカードを引いてしまって負けたら大変なことになるぞ、と終わったあと全員が恐怖した。
でも、やるんだよね。
やらずにゃおれない3回戦。
ここでルールの修正が行われた。判事登場以前、このゲームには勝者も敗者もなかったわけだが、最後まで生き残らなければ勝利したことにならない人狼は判事にくらべ不利ではないかという意見が出たのだ。そこで「死者が人狼を殺した場合は判事から逃げきったという解釈で人狼の勝利とする」という提案がなされ、多数決で承認される。
そして、判事はアンだった。
判事は死ねないから、アンは特技を活かせない。
ミス・ステイシーがうるさいから、早いうちから誘導して一日目の夜に処刑させた。アンは執行を拒否しなかった。
退場後すぐ、ミス・ステイシーは、人狼の名を言い当てる。
勝負はついた。
アンは敗北したのだ。
さて罰ゲーム。
心理戦でアンに恥辱を与えられる自信は誰にもなかった。そこで肉体的な恐怖を与えることとなる。3回戦で人狼役だったジョシー・パイは、目の前にそそりたつ邸の最上部の棟を歩くよう、アンに命じた。
落ちたら死んじゃうよ、との声も上がったが、ミス・ステイシーが許可した。
ダイアナは地上で帆布を広げて万一に備える。
アンは渡りきって、降りてきた。
感想は「いい眺めだったが、屋根が熱くて足裏を火傷した」
楽しい一日を過ごしてアンがグリン・ゲイブルズへ戻ってくると、玄関前に牛のようなものが寝ていた。
マリラだった。意識がなかった。
アンは、大慌てで畑のマシュウを呼んだ。