ダイアナは受験勉強にめざめた。
そもそも学問とは何かという命題になってしまうのだが。
公立校のめざすべき目標など、本質的に学問とは無縁である。
「忙しい親たちの負担を軽減するため、わんぱく盛りの児童を預かり従順に躾けておく」これは職員の労力を多大に必要とする事業なのであるが、世間にはなかなか認めてもらえないため、予算は常に、かなり足りない。
よって学校には人材が集まりにくく、単純肉体労働にさえありつけない下級市民の吹き溜まりとなりやすい。
スクールの語源であるスコレーとは、暇人・閑職・あぶれ者の集まりといった意味である。これがなぜか対極の概念であるアカデメイアと混同・融合・キメラ化して現代につながっている。
アカデメイアは研究機関であり、多くは政府などから資金援助を受けて産業や文化を発展させ、実業家やテクノクラートを生み出す。やはりスクールとは接点など無いものに思われるのだが、だからこそ混ぜてみた味に人は魅了されるのだろうか。誰か解明してほしい。
さて、受験勉強について論じよう。
ダイアナたちのしていることに注目。彼女らはアルバリー小学校を卒業後、高等教育施設へ進みたいと考えるようになった。そのための関門をクリアするための特別訓練を始めたというわけだ。
これは学問ですか?
笑止。
そこの経営者が入団希望者へ課すクイズを、解くことだけが目的だ。
素人が易々とできる芸事であってもつまらないが、修得したからといって他で役立つ技能ではない。
なんのために?
理解できない人の方が圧倒的なはず。
ただ、同じ問いはあらゆる趣味道楽に対してできる。同程度の扱いでよい。
とりあえず、教室の一角から、熱狂的なクイズマニアが何人か誕生し、切磋琢磨を始めた。
しばらく見守っていこう。
アン「連邦の中核となるドミニオン4州を陸地面積の広い順に並べよ」
ダイアナ「ケベック、オンタリオ、ニューブランズウィック、ノヴァスコシア」
アン「1758年の悲劇。大西洋の狂暴な嵐に呑まれ沈没した2隻の移民船。先に沈んだ艦名は?」
ダイアナ「ヴァイオレット号」
アン「ビッグシックスと通称される秘密結社がチェリー島を拠点にある動物の繁殖を成功させ、アビグウェイトに巨万の富をもたらしました。この動物とは?」
ダイアナ「スカンク」
アン「……違うみたいだよ」
ダイアナ「あ!チェリー島かあ。じゃあ、黒キツネだ」
アン「正解。
しっかしすげえな。さっぱりわからん。こんなのいっぱい覚えて、楽しいのか?」
ダイアナ「誰よりも早く答えられるってのは快感だよ。とくに好敵手がいるとアドレナリンが噴き上がってくる」
アン「無駄なカロリー消費してるように思えるんだけどな。
それに、本試験で出てくるクイズは一科目につきせいぜい100問なんだろ?そのために何万通りもの出題を頭に入れておくってのは……おれにはさっぱり、ついていけない」
ダイアナ「アンは専門分野に特化しすぎる性格だから研究家向きなんだよ。
受験に勝つためなら、あらゆる知識を広く浅く、瞬発力と声の大きさもセットで磨く必要があるわけ。今のところ、あたしはこれが楽しいなあって思ってる。
いいじゃん、アンはアンの信じる道を突き進みなよ」
アン「言われずともだけど、都会の高等学校てのは、そんなやつらの上位クラスが集まってくるんだろ。それも不気味でたまらない。
最終的に何をしたいわけ?受験生の皆さんは」
ダイアナ「最終目標は、男なら政治家じゃないかな。
あれは出たとこ勝負で相手を言いくるめるトークスキルが最大に要求されるショービジネスだし、雑学に強い人ってイメージは研究家みたいなホンモノよりも頭良さそうに見られるものなんだってさ。
実演や論証をさせられたらギヴアップだけど、そうならないよう手数で弾幕を張るの。
こんな人材をせっせとつくって送り出し、政治力で経営を安定させようってのがエリート校の生存戦略なんだってミス・ステイシーが言ってたわよ」
アン「男なら、ねえ。言われてみりゃ、そんな感じもするな。
あれ?ギルバートって政治家に向いてるか?
あいつ、ダイアナが答えられなかったクイズを確実に拾うから、頭はいいんだって思うよ。でも押しが弱いからさ、トークスキルでバトルなんて無理じゃないか」
ダイアナ「そうね、難しいと思うわ。
でも、ひとりでなんでもできちゃう人は却って政治家には向かないらしいの。とりあえず外で稼いでくるのは男の役目だから政治家は彼にやってもらうとして、もっと才能のある女が背後からしっかりコントロールするべきだというの。
最強の政治家はチーム単位で行動するのよ。だから女がもっと賢くなることでバランスをとればいいというわけ。
これもミス・ステイシーの受け売りなんだけどね」