2度目だからアンには心の余裕があった。
マリラも、はぐらかしはしなかった。
マリラ「州都の教団本部で、12月の第一土曜日に総会をやるんだよ。そこで投票にかけられるのさ。
今年は、あたしは行けないねえ。レイチェルが帰ってきたら、どんな雰囲気だったか聞かせてもらうことにするよ」
アン「参加する子供たちってのは、どうやって決まるわけ?」
マリラ「夏頃から推薦を受付開始して、書類審査とかいろいろやって。12月の同じ総会で承認されるんだけど、この段階で波瀾が起きたって話は聞いたことがないね。
名簿は非公開だけど、翌週中にはそれぞれの家へ通知が郵送されるのさ。局長さんが、合格した子供に気付かれないよう、忍び足で回って歩くんだよ。年の終わりの風物詩だね」
アン「それを、サンタクロースみたいだねって言っちゃあいけないんだろ?
わかった。ところで去年参加した子は今年参加できないなどの制限はあるの?」
マリラ「バスを手配する都合があるから上限人数は決まっているけど、近年は少子化が著しいから、希望すれば連れてってもらえるんじゃないかねえ。今年も行きたいの?」
アン「去年は何がおっ始まるのか当日まで気が気じゃなくて、そしたらあんなで。
怒りのやり場が今も宙を彷徨ってるんだよ。ダイアナの訳知り顔にもムカついたな。
今年、初参戦する子たちも、不安でいっぱいのはずだ。それをニヤニヤ眺める側に立ちたいって思ったりするわけさね」
マリラ「考え方が邪だねえ。これは村を挙げての通過儀礼なんだから、余計なことはしちゃダメだよ。
子供には、本気でドキドキする、こんな体験が必要なんだ」
だったら本気でドキドキさせろよ、拍子抜けすぎて唖然だったわ。とアンは吠えたかったが呑みこんだ。
誰にも打ち明けることのできないモヤモヤが、またひとつ溜めこまれる。
ヴァンスやマチルダとこの話題を共有できないのも、もどかしかった。
アルバリー住民でない両名には儀式への参加資格が無い。
じゃあいきなりネタバラシしても構わないか?それも違うだろう。
アンに共感してもらうことはできなかろうし、同情されたら屈辱だ。ダイアナの前では話さないよう求めることも難しい。アンはそんなに口の軽い女だったのか、と蔑まれるなんて耐えられない。
あーあ、つまんないなあ。
12月に入ると、アンは露骨にイライラしてきた。
すべてクリスマスのせいだ。こいつが全部悪いのだ。
理屈で説明することはできる。
アンはモンクトンやハリファクスといった都会で窃盗団に加わっていた過去があり、店舗襲撃のノウハウに警官隊との実戦など、経験に基づくセオリーを多彩に有している。昨年はこの能力を最大限に発揮する機会が訪れたと、内心ドキドキしていたわけだ。
ところが期待は裏切られ、村民たちには革命意識など無かったのだと思い知る。
肚立たしくてたまらなかった。
おれに銃をよこせ、手本を見せてやる。どうやらアンは、そう言いたかったのである。
ダイアナとギルバートは、とっくにすませていた。
ふたりきりのとき、自分たちそれぞれの甘酸っぱい思い出について語らうこともあるだろうか。
野暮だから立ち入るまい。
それにしても、この二人が身を寄せ合って真剣な表情でヒソヒソ話し合う光景は、そろそろ珍しいものではなくなっていた。
なんだか、どうしようもなく進んでいるみたいだ。なんてまあ、おとなになったものだろう。
レイチェル・リンドからの知らせが一番早かった。今年の襲撃地が決まった。
アンは自分から教団へ参加希望申請を出し、あっさり承認される。その通知には、毎週教会の日曜学校へ出席せよとの命令が記されてあった。
そういや、去年もそうだっけ。
行った。
丸顔の小男、アラン牧師によるありがたい説教と、親睦の宴。
クリスマスという用語は登場せず、テロルを匂わせる要素も皆無という、いたって普通の児童集会だ。
強いて違いを見出すとすれば、昨年のユーアン・マクドナルド牧師はもっと真剣にやっていた。この村は敵対勢力に狙われており、決して舐められてはならないからこそ我々はテロルで勇気を誇示するのだという熱意を言下ににじませていたと記憶する。
今年のアラン牧師は説話の焦点を絞りきれてないようだった。着任以来事件が起きてない、というより見回りもしないから不審者もゼロという報告ばかり上げているので、精神も肉体もひたすら弛緩しているのだろう。
たまに秘蹟とか聖堂といったカトリック用語も口から漏らしていた。
昨年はカトリックの脅威が切実だったから州都の大聖堂を標的にするというムーヴメントも盛り上がったが、今年は例年並みだねえ。
こんな声も、異口同音に囁かれる。
そんなものか。
ともあれ、行こう。ベルファストへ!