ベルファスト。
クイーンズ郡。アビグウェイト州。
ヒルズバラ湾を囲む東側の町である。
何があるのと訊かれたら、何も無いよと答えたくなるところだが、それは現地住民に失礼だ。プレスビテリアン教会の施設と墓地が街道の中央に鎮座しており、ここが最大のランドマークということになろうか。
他にはアイスホッケー場、ゴルフ場、小規模工場群、そしてまばらに一般住宅。
何も無いなんて、失礼きわまりなかったね。ごめん。
議事録によれば、ベルファスト教区の牧師から要請があり、ホッケー場のクリスマスイヴェントが毎年派手で騒がしいので懲らしめてやってほしいとの依頼だった。公正なる投票により、選出された。
都市部で実施するよりも各種調整が容易なので、教団の事務員たちは胸をなでおろす。
やっぱり平和な時代が一番だよね。
まったくそのとおりだよ。
アンは12月中、退屈な日曜学校も含めて、いたって平常心で過ごした。
欲を言えば一度現地の下見をしておきたかったが、アルバリーから片道クルマで一時間もかかるとなれば、子供の足ではなかなかきつい。
郵便局で州内の広域地図を見せてもらい、頭に叩きこんでおく。ベルファストへ行くもんですから、と一言告げただけで局長一家は協力を惜しまなかった。まったく、ありがたい限りだよ。
さて当日。
教団本部から支給された冬季迷彩服に身を包み、バス1台で街道を東へと走る。
州都シャーロットを通過し、オーウェルの教会で時間調整。軽食とトイレをすませ、各自にオペレーションを再度伝達し、器物破損厳禁などの諸注意もしつこく何度も繰り返す。
いざ目的のホッケー場へ。
そこそこ大勢の見物人が待機しており、熱狂ムードで迎え入れられる。
バスから秩序正しく下車し、整列。隊長が宣言を読み上げ、合図されたら小隊ごとに担当エリアへ散らばり、クリスマスの装飾が施されたゴミの山を掻き集めて広場の焚火台へ積み上げてゆく。
物陰には家庭ゴミや粗大ゴミも投棄されており、これみよがしにクリスマスプレゼント用のリボンやシールが貼られているとクソむかつく。ちなみに、よほど悪質でなければ焚火台まで持っていけというのが基本ルーティーンだ。
チャイムが鳴るまで仕事したら集合して整列。
勝利宣言して点火。
手順がわかっていれば落ちついて行動できるし、やはりクライマックスは盛り上がる。
アンの心のモヤモヤは、かなり薄らいでいた。2年連続参加は正解だったと思う。
それに、閑人どもがこれだけ喜んでいるさまを眺めていると、このお祭りはどうやら人々に愛されていると感じるので、来年も再来年も飽きられるまで続けていきなよと寛容な気持ちにもなれるのだった。
今年も、アルバリーの教会では凱旋戦士たちを迎える食事とプレゼントが用意されており、新しい階段をひとつ昇ってきた子供たちが誇らしくスピーチするのを保護者たちは咽びながら喝采する。
したり顔で採点したり、反省会みたいな雰囲気を持ちこむやつがいたら粛清対象だよなと思う。
アン「そうだよ、だからおれは全部呑みこむしかなくて、そうじゃないそうじゃないんだって1年間モヤモヤしつづけてたんだよ。
今年の新人に、同じもどかしさを抱えている子はいるんだろうか。
わからんねえ。わからんけど、ここから先はおれ自身で解決していく課題なんだよな、きっと」
新しい階段といえば、アンたちもまた一年前より随分と変化した。
学校は冬休みに入っている。
マチルダは自宅で退屈な引きこもり生活を送っているだろう。
メアリ・ヴァンスは村内の拠点をぐるぐる巡り歩いて、時々よくグリン・ゲイブルズへ立ち寄り、アンと遊ぶ。
ダイアナは以前ほど来なくなったが、オーチャード・スロープへ訪ねていっても留守のことが多い。ギルバート・ブライスの部屋へ入り浸っているのだろう。あの小舎は居心地がいいから、何をするにしても、何をするにしても、便利なのだ。何をしているとしてもだ。
それにギルバートは自動車を運転できる。
彼個人所有ではないが、家族共用の普通乗用車が何台かあって、ギルバートも自由に使えるのだ。とくに冬場、このアドヴァンテージは大きい。
州発行の免許証が取得できるのは16歳からなので、あと2年は遠出できないけれど、スタンレーブリッジ周辺までならブライス家の知人がいつでも匿ってくれるし、コーヴヘッド灯台ならドライヴしたことがあるとも言ってたはずだ。
アン「そろそろ頃合いだと思うので、ギルの手を貸してもらう交渉をしてみるよ。
そこで確認なんだがヴァンス。
ギル食っちゃダメだぞ?絶対、手ェ出すなよ。
あいつは、ダイアナのものなんだからな」