ダイアナ「水臭いなあ。ギルを使いたいときはいつでも使って。
その代わり、条件があるの。
あなたたち、いったい何をやってるの?あたしを仲間に入れなさい。あたしと、ギルを、かな。
これが条件。どう?」
さすがダイアナだ、とアンは思った。理解と決断が超高速だ。クイズで鍛えられたのか。ん?
ギルも同じくらい高速思考できるのか?
まあ、そっちはいいや。
ダイアナに礼を言う。
そして、さっそくチーム名を考えることにした。アン、ヴァンス、ダイアナ、ギルバートで構成される秘密結社だ。
ビッグ4では趣が無いな。
この議論は何日も続いたのだが、脱線は割愛しよう。アイドル・ワイルドに決定。
主業務は、村内の植物を原料とした、香水の精製。
S商会からの出資を受け、工場拠点を整備。目下その借金を返すために努力している。
Sからは不定期に連絡員が派遣されるが、村内にヨソ者が現れると目立つし、郵便局は信用おけないと言われているので、このところ増大中の仕入と納品を村外の物流拠点に移管したい。
そうなってくると、自分たちですぐに動かせるクルマが必要になっちゃうんだよね。
ギルバート「いいよ。いつでも、どこへでも」
うわ。こいつも話が速いなあとアンは感心した。もっと早く声をかけていれば……
いやいや、こいつが従順なのはダイアナが手綱を握っているからだ。
アンやヴァンスではギルを直接は制御できない。
この4人は誰を外しても成立しなくなる、最もコンパクトなベストチームなのだ。
ふむ……いけんじゃね?
うまくいきすぎて、こわいくらいだが。
ダイアナは、自分だけ明確な役割が与えられていないことを不満に感じていたが、だからといって無駄なノルマをつくりだすのは愚策だとアンが説得した。
むしろ常に余裕をもって、全員から距離をとって観測に徹し、異常を察したら指摘する。そんなポジションがいてくれなくちゃ困るんだ。
アンが身をもって体験した苦しみである。
没頭するタイプは無自覚に根を詰めてしまい、周囲がまったく見えなくなることがある。確実に、事故る。
それを防ぐのがダイアナの役割だ。
わかった、と快諾された。
やっぱすげえなコイツ、とアンは惚れなおす。
ダイアナはアンの説明を完璧に理解したので、それまでさほど共通点のなかったヴァンスとも積極的に対話を始めた。
束縛されることを極端に嫌い、自分の手掛けた業務にはとことんプライドを持つヴァンス。そんな彼女は工場拠点のそれぞれに容赦ない罠を仕掛けまくるという特異な才能を発揮している。
ちなみにだが、雇う立場にある者がこれらの仕様を開示請求するのは一番やってはならない愚事である。
マジシャンに向かって、ボクにだけ仕掛けを教えてよと注文する興行主のようなものだ。でもこんなカス、ほんと多いんだよな。
ダイアナは普通に賢かったから、セキュリティについては一切ヴァンスにおまかせして、それ以上立ち入らなかった。
反面、ヴァンスがかわいい服を好むのにコーディネートのセンスがイマイチであることを見抜き、一緒に試行錯誤してみるというアプローチにトライする。
ヴァンスはめきめき美しくなっていき、ファッションリーダーとしてダイアナを師と認めるようになった。
これがアンには面白くなかったのだけど、いまさら二人の軍門には下れないので孤高を貫くことに決めた。
シェパード「アマチュアとは思えないクオリティの高さだと、法医学界のセンセイたちが嗅ぎ回っているみたいだ。
僕たちの方で販売網については撹乱するが、原料の生育環境などからここへ辿りつく輩が出てこないとも限らないので、留意しておいてくれ」
アン「なにそれ。法医学者ってのはそんな推理までしちゃうものなの?こわいね」
シェパード「医学界が大学卒ばかりなら御しやすいんだが、こと法医学の分野では、もと犯罪者が多くいるんだよ。
警察と取引して新しいプロフィールを手に入れ、合法的に毎日惨殺死体と戯れて暮らせるんだ。
一般人から募集するのが難しい職種なのでね」
アン「合法的にってところに憧れなくはないけど、もちろん死ぬまで監視され、逃げ出せやしないんだろ?
息苦しい人生を歩むことになるよね」
シェパード「結構逃げ出しているよ。元法医学者を、刑事たちが捕まえられるわけないからね。
内部資料をリークするぞと脅し破格の条件で再契約を交わしたなんて話もよく聞く。
ともかく、そんなセンセイたちにストーキングされると面倒だろうと思うので、忠告だけはしておくぞ」
アン「気をつけるよ。
ただ、追跡をまくためにわざわざクオリティを落とすのは、沽券にかかわるなあ。
むしろもっと純度を高めて精製するから、可能な限り高く売ってほしいんだよ。早く借金とオサラバしたいからさあ」