緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§69.求める人こそ与えるべき

物語クラブと名乗る一団が現れ、アンの前にひざまづく。

小説を読んで、批評をしてほしいという。

 

なんのこっちゃと経緯を尋ねた。

彼女たちもまた、同好の士が寄り集まって結成されたグループである。とにかく作家になりたい、という情熱を柱にして志高く創作に励んでいるが、内輪だけで回覧していると褒め殺しか、さもなければ作者の人格否定かの二択に陥りやすい。健全的成長は難しいのだという。

そこで部外に中立な判定員を設けようということになった。

ミス・ステイシーにも依頼したかったが、多忙でなかなか読んでももらえない。

アンは教室内では読書家かつ理論派で通っていたから、どうか私たちのためにお力添えを、という次第である。

 

アン「時間と精神力をひたすら奪われる作業だな。どのくらいの報酬でやらせたいんだい?」

 

生徒S「あら。あたしたちは素人よ。おこづかいの範囲内で、ささやかなお礼くらいはできるけど……」

 

生徒T「金銭が絡むと正当な評価ができなくなっちゃうじゃない。あたしたちは純粋にスキルを伸ばしたくて活動しているの。どうかボランティアで協力してよ」

 

アン「断る。ふざけんな。それこそ出版社にでも送ってみたらいいだろう。最終的にはプロになりたいのか?だったらプロに意見してもらうのが一番の近道だ」

 

生徒O「何作か送ったわ。でも、なんの連絡も来ないのよ。プロは忙しいんでしょうし、もしくは、あたしたちの腕が未熟すぎるってことね。だから、できるところから始めるしかないじゃない」

 

アン「だったらとっととできるところから始めろ。おれは忙しいんだ、まきこむな」

 

生徒R「アンて意外に心狭かったのね。プロをひがんでるの?求める人こそ与えるべきだって格言もあるわ。それがこの小説のテーマでもあるの。アンにこそ読んでほしい。今なら無料よ!」

 

生徒Y「あたしたちよりずっと本を読んでるくせに、ほんとケチよ。そんな人にあたしたちのアイデアを盗まれても癪だわ。じゃあアン、お邪魔したわね。ご自身の勉強へと、お戻りになって」

 

物語クラブはダイアナへも声をかけた。ダイアナは喧嘩を避け、複写された原稿を預かる。アンが尋ねると、マダム・クラリスへ送ってみるという。

 

ダイアナ「言ってなかったっけ。内緒にしてね。おばあさまは、プロの小説家なの。ミステリ界ではそこそこ有名人。もちろんペンネームでね」

 

アン「へえ、道理で……

いや、つまりその……

じゃあ毒や凶器に詳しいのかな。犯罪者心理とかにも」

 

ダイアナ「詳しいと思うよ。あたしがよく覚えているのは、警察の捜査マニュアルをよく読んでおけって言ってたこと。

ミステリでは警察官や刑事といえば探偵の引き立て役でしかないけれども、だからといって調べもせずに書くと道化にすらならないんだって。

真剣味のない役者がひとり舞台に立っているだけで、全体の緊張感がぶち壊しになるっていうのよ」

 

アン「へええ。マダム・クラリスのペンネームはなんて言うの?」

 

ダイアナ「あたしの部屋の書棚に何冊かあるから、当ててみて。で、とりあえずこれ送って、コメントちょうだいって言ってみるわ。

素顔を曝さない小説家って、案外暇をもてあましてるものなのよ。ちょっとした刺激にでもなればいいけど」

 

しばらくして返事がきた。ダイアナは、物語クラブよりも先に、アンにそれを見せる。

 

アン「うわ。これ、登場人物の相関図と、舞台になってる邸の間取り?」

 

ダイアナ「PCで作ったものよ。州都のお邸でサスペンス映画やドラマを見るとき、おばあさまはずっと手を動かして、メモを書くの。それを清書したものだわ。

矛盾点や、説明不足・現実にはこうならない、などコメントしてあるでしょう。よかった、楽しんでいただけたみたいね」

 

アン「作者……たちへのメッセージは、ないのかな?」

 

ダイアナ「このチェックシートよりも雄弁な感想が書けて?

気付ける人なら、この図を何度でも見返して自身の弱点を乗り越えていくでしょうし、気付かない人はそのうちペンを手放すわ。プロだから無駄なことは書かないのよ。月謝で生活している講座の先生とかだったら、違う発想をするかもだけど」

 

アン「そういや、小説家養成の通信講座なんてものもあるんだよな。

あいつらが入会金を払ってまで、そんなのを始めるかは疑問だが」

 

ダイアナ「一般論だけど、講座の先生なんてプロを目指したけどなれなかった人の吹き溜まりだし、自分よりも低レヴェルの生徒の作品を批評してばかりいるから視野はますます狭まっていくし、金払いのいい客ほど長く褒めて居続けさせるから、双方にとって不幸な環境になりやすいのよね」

 

アン「マダム・クラリスが通信講座を始めたら、そいつら滅亡するだろうなあ」

 

ダイアナ「なに言ってるの。おばあさまのクオリティが落ちちゃうじゃない。

それに、講座の先生は自身の得点になるから教え子をデビューさせたがるけど、プロ作家にとってライヴァルを増やすことは自殺行為なので、若い芽は本気で摘むわ。

だから、実力も無いのに褒めてもらいたいっていう人たちには、お金を握りしめて講座へ通うという自由が必要なの」

 

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