アイドル・ワイルドの役割分担を簡単に説明しよう。
リーダーはアン。薬品の調合から瓶詰めまでは彼女のみが行う。
その加工場は村内にいくつかあり、厳重な罠が仕掛けられているので余人の侵入をゆるさない。
この管理を、ヴァンスが受け持つ。精製過程では何日もかけて熟成させる必要があり、その定期的な観測もヴァンスの仕事である。
空瓶・ペーパーフィルター・固形燃料・触媒となる塩化物など様々な器材は定期的にギルバートが運び込み、運び出す。
最近登場させていないがジェイムズ・シェパードもよく来ていて、力仕事を手伝ったり、離れて見張りについてくれたりする。なかなか頼もしいのだぞ。
もっと人手が欲しいところだけど、技術よりも信用が第一だ。信用のおけない奴がウロチョロ嗅ぎ回っていたりすれば、問答無用で敵認定である。
イグナティウスは、あっさり捕まった。
抵抗しなかったのは賢明かもだが、無策で無防備なのはいただけない。工作員の資格無しと見做す。
こんなやつ、仲間になんてまっぴらだ。
イグナティウス「あれ、そこにいるのはアンだね?
いつもありがとう。心から感謝している。
今度は僕に恩返しをさせてくれ。君たちの力になる。なんでも、いうことをきくよ」
ダイアナ「……」
ヴァンス「こいつに目隠しは意味ないんだよ。鼻と耳を塞がない限り、なんでもお見通しなのさ」
アン「口を塞ぐのは最後にしてやる。
イグナティウス。どこまで調べたんだ?ぜんぶ白状しちまえ。
小細工を弄したら、寿命を縮める」
イグナティウス「ものすごく仲の良い、素人グループの仕業だろうってところまでは推理した。
アンも何らかの形で関わっているみたいだ、までは確信してた。
でもそれ以上の深入りはしてないよ。正式に招待されるのを待つことにしたんだ。
そしたらこのザマさ、あはは」
ヴァンス「こないだ、アタシに説教したよな。その割にアンタだって、油断と隙のカタマリじゃないか」
イグナティウス「そういうことになるね。うん、反省しよう。僕は傲慢でした。心に刻みます」
アン「法医学者ってのは、みんな、あんたくらいの能力持ってるものなのかい?」
イグナティウス「人それぞれかなあ。師匠と僕とでも、得意分野は異なるからね」
アン「君にできて、師匠にできないことを3つほど挙げてごらん?」
イグナティウス「若さゆえの体力。頭の回転が速いこと。この陽気な社交性。えーと、まだ言ってもいい?」
アン「逆に、君が師匠にかなわない点を、あるだけ言ってごらん」
イグナティウス「年齢ぶん積み上げてきた経験と知識。熟成されたダンディズム。性欲が枯れてるから女に危険視されないところ。えーと、まだなんかあるっけ」
アン「ずっとこの調子で喋られてもな。
ああ、この際だから訊いておこうか。
あんたってさ、ゲイなの?バイなの?
ここにいる誰とでもやれるの?
おれとだったら、どうなんだい」
イグナティウス「うーん……」
ヴァンス「アタシの顔色うかがってやがるな。
こいつはね、口先だけ達者で、自分から襲いに行くことはないよ。
誰にでも見境なく勃起はしやがるけど、リアルの前では超ビビリだ。そうだよな?」
イグナティウス「……うーん……」
アン「痛いところを突いたようだな。
なあ、おれ想像すんだけどさ、イグナティウス。
おまえ、生身の人間、あんまり好きじゃないだろ。てか、怖がってるよな。
きっと、死体にしてからならいつまでも楽しくまぐわっていられるのに、ってそういうタイプじゃないのか?」
静寂。
アン「あらら?図星かな。
悪かった。いまの話はこれっきりだ。
ちょっと休憩しよう」
イグナティウスだけ椅子に縛りつけたまま、他は部屋を移る。
ヴァンス「アン……抉ったよ、今のは」
アン「なかなか口にする話題じゃないけど、今日はちょっとエキサイトしちまった。
やっぱり……そうかあ。いやあ、当てたはいいが、複雑な心境だ。
あいつを生かして帰したら、おれ、これからベル先生にどんな顔して挨拶すればいいんだろう」
ダイアナ「笑えばいいと思うよ、何ごともなかったかのように。
アンがこの程度で凹むのが意外なんだけど」
ヴァンス「アンタって、おかしくない?」
アン「ヴァンスこそ、そのリアクションおかしいぞ。
それにしても……どうする、あいつ。
仲間には加えない。それは決定事項だ。
……やっちまうしかないな」
ダイアナ「アンを怨むかもしれないしね。いや、怨むに決まってるな。
そりゃあ、ゆるしちゃおけないだろうね。
ギル、あんた最後まで押さえつけておける?」
ヴァンス「あの……話が進みすぎてないか?
それも決定事項なのか?マジで殺すのはさすがに夢見が悪いぜ」
アン「見てたろ。勃起してたぞ、あそこで。同情する余地は無いだろう。
ひと思いに楽にしてやるか、せめてものお楽しみを長引かせてやるか。それが問題さ」
ヴァンス「あの、せめてもう一回だけ、チャンスをやれない?
アタシが責任をもって監視するからさ。あいつはストレスも憎しみも、溜めたりできないやつなんだ。アタシも、うまく誘導するから。
な、お願いだよ、たのむよ」