夏休みに入って、アンは遠出を企てた。
ギルバートの車で、サマーサイドまで小旅行。当然、ダイアナもついてきた。あたりまえだ。若い男女をふたりきりにしておけるか。
ついでにヴァンスも巻きこんだ。楽しい楽しいドライヴよ。
日帰り予定なのだが、買い物めぐりもしたいし、べデック湾でひと泳ぎもしてみたい。
まるで移住でもするかの如き大荷物がトランクルームへ詰めこまれる。若さゆえに無駄も無茶もし放題である。
本人たちも認めてる。アヤマチだってペロリだろう。
みんなで食べれば怖くない。
実はその前々週に、パークコーナーへ行ってきた。アンに毛染め薬を売った、ベキィことレベッカ・ローナ・ランダルの住所を訪ねたのだ。
ベキィは春先の一時期、そこに住んでいたことは間違いなかったが、現在はサマーサイドへ引っ越したよと告げられる。
慎重に訊き出すと、彼女はどうやらエクセルシアの販売拠点を新設したらしい。
べキィを引き取ったパークコーナーの里親は、胡散臭いビジネスに精を出す娘を快く思わなかったので、円満な子別れに同意した。なお州の助成金を満額受け取るまで養子関係は解消しない。ベキィにとっても、いざという場合に身元引受人を頼れることは心強いので、合意の成立に疑いを挟む余地は無さそうである。めでたくて結構だ。
アン「ベキィには手紙で伝えてある。きっと手下にした猛者を揃えて待ち構えていることだろう。
いいんだな?狩人が狩られる側になっても責任は負えないぞ?」
ダイアナ「そのときはギルだけ連れて逃げるわよ。アンは囮をつとめて」
ヴァンス「なんでアタシを呼んだんだ?
浜でひとりで泳いでるからさあ。帰りに拾ってくれ」
アン「帰れるかな。おれたち、ヴァンスを狩りに行くかもだぜ?」
ヴァンス「そもそも何をしに行くの?その髪の弁償をさせたいわけ?」
アン「その発想はなかったな。古くなってない薬をもう一本もらって、その場で塗ってもらおうか。
でも、まだ短いからなあ。志願してもらえるなら、ヴァンスの髪で試させてもらおうかな」
ヴァンス「ほお。アタシの意思を尊重してくれるってんだな。拒絶する。ダイにやってもらってくれ」
ダイアナ「え、呼んだ?あたしはただ、そのベキィって娘がとても美人だっていうから拝んでおきたいだけ。アンクル・サムではどんな生活してたのかしらねってことにも興味あるし」
こんなお喋りをしているうちに、目的地へ着いた。
サマーサイドは大きな街だが、時代がかった一軒家が多く、アビグウェイトの中では古都扱いされている。
ウィンディ・ウィロウズと名付けられた邸がベキィの活動拠点・兼・住居になっていた。
アルバリーからの来客を出迎えるに際し、使用人が一斉に作業を止め、前庭に整列する。軍隊ほどキビキビしておらず、表現するとしたら三流企業の末端作業場に本社のえらい人がやってきたぞ、みたいな感じと言えようか。
邸内にはエクセルシアのロゴマーク付き段ボール箱が所狭しと積み上げられていた。入荷したら商品ごとに仕分けして、オーダーに応じてピッキング、発送という流れである。
アイテム数が3桁4桁ともなっていくと、倉庫業務もよっぽど計画的に管理しないと際限なく無駄が生じてしまうものなのだなー、とアイドル・ワイルドの全員が注目を注ぐ。
ただ、ひとまず隊長であるアンはベキィとの親睦を最優先とし、滞り無く、つとめあげた。
ベキィ「ごめんなさいね、ほんとうに申し訳ないことをしたわ。もちろん弁償させていただくけど、一般ユーザーには広められたくないの。どうか、わかっていただけて?」
アン「承知してる。ただ、そのためには再発防止が徹底的に対策されてないといけないんじゃないか。
この程度のトラブルはもっと頻繁に起きている気がするんだけど、こうして乗りこんでくる客は1%にも満たないだろう。その1000倍の苦情が噂として拡散されていくとして、エクセルシアの本社はいったいどこまで把握できているのだろうね。知っているかい?」
ベキィ「噂なら放置ですむわ。どんな聖人にでも、ひがんで中傷する輩が必ず湧くのは世の常だもの。
あとは現場で、とにかくミスを起こさせないことね。従業員を厳しく躾けて、些細なインシデントでも必ず上長へ報告することを義務づける。それができる人しか仲間には加えないし、一度でも違反を見つけたら悪質さに応じて処罰を加えます。
これは本社からもマニュアルで通達されていて、私たちも日夜全力で取り組んでいるんだけど、予算と人材が限られてる中で精一杯以上の努力をしているのが実情。どうかわかっていただきたいわ」
アン「なるほど、よくわかった。大変なんだね。
でも半年も経たずにここまで事業拡大したってのはすごいことだよ。ベキィには才能が備わっているんだな」
ベキィ「あたしの力なんて微々たるもの。サマーサイドで優秀なパトロンを手に入れられたことが大きいわ。
それから特にこの地区ではプリングル一族が絶対的な権力を握っていて、かれらの信用を獲得できたことも重要よね。
たしかにあたしには神様の御加護がついていると思うの。でもそれに頼りきることなく、もっともっと頑張ってみせるわ」