午後はマーチバンクスで遊んだ。湾に注ぐ川だ。
ボートを借りて、ギルバートに漕がせる。
ヴァンスは釣り竿もレンタルして、鱒釣りに挑戦した。
アンとダイアナは、レベッカ・ローナ・ランダルについての品評会に熱中する。
ダイアナ「聖書への冒瀆よ。
アタシニハ神ノ御加護ガツイテイマスゥですって。そのうち奇跡も起こせるとか本気で信じてたみたい。
それはカトリックという詐欺師集団が広めた悪魔の教義だっつーの。
サマーサイドにはそんなカルト宗団ができちゃったのかあ。今年のクリスマスには……おっととと、セーフ?セーフよね」
アン「おれは、憐れに感じたな。
あの娘はアンクル・サムのえげつないオヤジどもに身も心も搾取されちまってる、都合のいい戦闘員だよ。
サマーサイドで有力者に気に入られたから成功したってのも、それってそいつ次第で簡単に息の根止められるぜってことだが、気付いてもいなかった。
おれなら……おれがカトリックの神父だったとしたら、ベキィにどんどん資金を貸して仕入れをさせる。そのうち派手にすっ転ぶだろうから、すかさず優しく手をさしのべ、好き放題に弄んじゃうな。
飽きるまで愉しんだら、まだ張りのあるうちに配下の信徒へ転売さ。
なんてボロい商売だ」
ダイアナ「あの倉庫もさあ、言わせて。従業員に、ミスを惹き起こさせたいようにしか見えなかった。
ほんの僅かな余裕すらギリギリまで削りに削って、最低限必要な人数すら配置せずに秒単位でノルマを詰めこんでるわけでしょ?
それを精一杯努力してますなんて、脳の皺が足りなさすぎるわよ。どんなホラーよりおぞましかった」
アン「来てよかっただろ。最高の反面教師を実地検分できたんだ。
……お、ヴァンス。でかいな、そいつ」
ヴァンス「活きがいい。よっぽどうまいもん食ってんだろうな、この川で。
あ、ギル。そこの桟橋につけてもらえるかな。陸側から攻めてみたくなった。
1時間後に同じ場所で拾ってくれ。ちょっくら歩き回ってくる」
ダイアナ「リリースしちゃうの、もったいないわよね。持って帰ったら大喜びされるのに」
ヴァンス「活け締めにする道具は持ってきてないからな。次また来る機会があれば準備してこよう。
今日は、殺生しない。
じゃな!」
アン「さて……さっき、クリスマスって言ったか。
サマーサイドって、やり甲斐がありそうな街だけど、できるのか?」
ダイアナ「ここへ来る途中、マキューアン通りから大きな高校が見えたでしょ。あの向こう側に、私たちの教会が建ってるの。投書を送って、立候補させるのがセオリーでしょうね。
ウィンディ・ウィロウズを直接襲撃すれば、夏にあたしたちが訪れた事実から関係を疑われるから、もっと本質的な、プリングル一族とやらの施設を狙ってくれって注文をつけておくわ。
アンも協力してよ。草稿はあたしが書くから、それを鬼気迫る文体でリライトしてほしいの。もちろん匿名にするけど、いいわよね?」
アン「ま、面白そうかな。わかった。草稿ができたら、くれ」
ダイアナ「よし。じゃあギル、そのうちもう一回サマーサイドへ来ましょう。役所や図書館で情報を集めるの。プレスビテリアン信徒が不当に差別されている実例が見つかれば、より具体的にターゲットを選別できるわ。忙しい夏になりそうね」
ひとしきり語ったあと、ダイアナは体を倒して居眠りを始めた。
しあわせそうな寝顔だ。
ギルバートはゆっくりと櫂を動かし、車道橋の脚にボートを寄せた。うまく日陰になる位置へ停める。
ゆらゆら、ゆらゆら。
まったくこいつは、よくできた従僕だ。
アンは感心しながら、ギルバートを見つめている。
ギルバート「レイディ・アン。お話をしても構いませんか?」
アン「え?いいよ。なんだ、ダイは寝てるだろ。いちいち許可なんてとらなくていい」
ギルバート「はい、ありがとうございます。レイディ・アンは、ダイアナのことを好きですか」
アン「なに言ってんだ。大好きに決まってるだろう」
ギルバート「そうですよね。じゃあ、僕のことはどう思ってますか」
アン「親友の恋人だ。よく尽くしてくれてると思って、尊敬してる。感謝してるよ。ギル、おまえのことも大好きだ。いつもたすけてもらってる。ありがとう」
ギルバート「うれしいです。アンは僕のことを、好きだと言ってくれる。それでは、僕がダイアナよりもレイディ・アンのことを好きで、レイディ・アンと恋人同士になりたいとしたら、受けてくれますか?」
壊れたロボットみたいな男が、アンをじっと見つめていた。
まばたきもせず、返事を待っている。
アンの思考回路は、バグった。
たった今まで何の話をしていたんだっけ。
考えたけれども、わけがわからなくなった。
とりあえず、しどろもどろに説教してやった、気がする。
アン「ギルバート。
ふざけてんじゃねえ。おまえはダイアナの恋人で、ダイアナに尽くす義務がある。
いまの発言はレッドカードだ。即、死刑だ。二度とそんな口をきくんじゃない。忘れろ。デリート。
おれはおまえを好きだと確かに言ったが、ダイアナの恋人である限りにおいてだ。
だから一途にダイアナを愛せ。
以上だ」