緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§78.あこがれ

こどもは、おとなにあこがれるものだろうか。

 

微妙に答えにくい質問である。だから問うてはならない。

まして、当の子供に向かって答えを求めてくる大人がいたら、クズの烙印を捺してやれ。

生きてりゃどうしたって大人になる。傷の治りは遅くなるし、面倒なことばかり考えなくちゃならないシガラミの中へとりこまれていく。子供にかまってる余裕なんて無いはずだ。

他人のことより、自分が今、誰にあこがれて老いようとしているのかを見極めたらどうだ。

死にぞこないの先輩たち誰ひとりにも憧れなんて抱いてないなら、子供だっておまえに同じ姿を見ているさ。

だから、それ以上傷つきたくないなら、訊くな。

ひとりで泣け。

 

アルバリー小学校では、異変が始まっていた。

上級生たちは皆、かっこいい。

来る日も来る日もひたむきに芸を磨き、ありえないほどのロングシュートや高速連続パスを見せつけつつも全然満足しておらず、誰もが平等に与えられた24時間をいかにやりくりするかで頭がいっぱいのようだ。

早くオトナになりたい。

あっちの世界へ仲間入りしたい。

なのにミス・トランチブルはさっぱり頼りにならない。

下級生たちはそんな不平不満を溜めこみながら通学していた。

 

そして、夏休みを迎えた。

低学年の児童たちは、普段よりもわずかばかりの解放感を味わう。

先輩たちにあこがれを抱くいくつかのグループがせいいっぱい羽根を伸ばし、冒険へと旅立った。これまで自分の足で立ったことのない場所を、踏みしめるのだ。

 

嫌味を言わせてもらうが、昨今、訳知り顔の大人がどれほど自分の足でその境地に立ってみただろうか。

負けた選手を慰めるつもりなら、30分でいいから普段のトレーニングにつきあえ。

贅肉の塊が一時とはいえ、その距離がどれほどのものか気付いてみせたら、敗者は自信を取り戻せるよ。わかったか。

遊んでいる暇なんか無いんだ、あこがれられる側にはな。

 

過疎の村には冒険の攻略対象がいっぱいある。

そのいくつかに、罠が仕掛けられていた。

近付くとぬかるみに嵌まる。ヒルが素足に吸いついてきて噛まれた跡がひどく腫れあがる。木によりかかると刃物が埋めこまれていて親指にグサリとくいこむ。

この先に廃屋が見えるのだけど、辿りつければ財宝を手に入れられるのだろうか。

なんて子供だましのロマンを真に受ける子供はいない。

大人の力を借りれば敗北だということは全員が承知していた。これは知恵の限りを尽くして戦うゲームなのだ。クリアすること、報酬はそれでじゅうぶん。

冒険者たちは夢中になって考えた。

来る日も来る日も、ひたむきに挑戦した。

 

ヴァンス「もう限界だよ。いつかは突破されちまう。

JスカダモアやNヴェレカーをあの子たちが見つけたら、思わず手にとって、喉の乾きを潤そうとするに決まってる。そこまで想像できちまうよ。

耐えられないね。いさぎよく引き払おう」

 

アン「ヘスター・グレイは完全撤去する。決定だ。

ただ、もちろん資材はすべて運び出す。深夜にしか動けないから、全員そのつもりでいてくれ。

イグナティウスの手も借りたいところだが……見込みはあるかい?」

 

ヴァンス「ハプニングやアクシデントが何より好きな男だから、無償で全面協力してくれると思うよ。役割分担を決めといてさえくれればアタシが誘ってやる。有無は言わせない」

 

アン「ありがたいな。すぐにスケジュールを作る。

ギルも、準備をしておいてくれ。君のクルマが頼りだ。夜間無灯火で何往復もしてもらうことになるだろう」

 

ギルバート、うなずく。

 

ダイアナ「ヘスター・グレイが無くなってしまうと、もう香水はつくれないわ。エコー・ロッジやメイプル・ハーストだって子供たちに狙われてるんだから、それらも遅かれ早かれ解体するんでしょう?

アイドル・ワイルドは活動停止よ。

収益事業は当分、難しいでしょうね」

 

アン「むしろ今まで続けられてきたことが幸運だったというべきだろう。

転落は、ある日とつぜん訪れる。しがみつく者は再起するチャンスさえ失うんだ。ジェイムズ・シェパードからの受け売りだけどね。

あいつに頼んで、製法と量産化のノウハウをブランドとして買ってくれる実業家でもいないか、あたってもらうことにするよ。町工場程度の設備があれば、これまで築いた顧客たち相手に結構いい稼ぎができるんじゃないかな。

まとまった金が入れば、君たちに退職金を払うよ」

 

ヴァンス「サバサバしすぎだぞ、アン。ほんっとに気持ちの切り替えが速すぎて、ついていけねえや。

それにしても……終わっちまうんだな。おもしろかったんだけどなあ。

アタシさあ。この村に、こんなに長くいるつもりじゃなかったんだよ。

でも、たしかに今日までほんとよく働いた。きもちよくな。

そろそろ力もついただろう。羽ばたいてこい。って、神様が背中を押してくれてるのかもな」

 

アン「センチメンタル・ジャーニーはすべてをきちんと片付けてからだぞ、ヴァンス。

子供たちは今この瞬間も攻略をめざして必死なんだ。決して侮るなかれ。

おれたちの撤退中は、他に注意を向けさせておく必要もある。

夜までただ待ってるような間抜けなら、やつらに弟子入りするべきだ。

遊んでる暇なんて無いんだぞ」

 

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