10歳までの低学年クラスで射精を経験済みの男児は、あんまりいないと思われる。たしかめるのもごめんだけれど。
何重ものトラップが仕掛けられた要塞のような廃屋への到達を試みるのは、ほぼ男の子ばかりだった。
理由はなんとなくだが察せられる。
男とはひたすら打って打ちまくり、ひとつでも当たれば勝利だと吠える、そういう生き物だ。
女はそんな発想をしない。
全部は受けとめきれないけれど。迎えたら、ゆっくりじっくりあたためて孵すべし。
危険を冒すとか、余裕を無くすなんて考えは言語道断なのである。
これはハードウェアに根ざした摂理だから、逆らいようがない。したがって、無謀な挑戦は男子の独擅場である。
アンはここに目をつけた。
アイドル・ワイルドが拠点化していない廃屋があって、少年たちはここを秘密基地にしていた。
ある朝、最初にやってきた男の子Bが、テーブルの上に本を見つける。
なかなか過激な写真集だ。しかも自分と同世代の女児ばかりが載っている。
ページをめくっていると、仲間のOが現れた。仲良く並んで鑑賞する。
Yが来た。Sも来た。
こうなると奪い合いが始まる。所有権をめぐるガチバトルだ。
もはや昨日までと同じ冒険を続けられる状況ではない。
別な廃屋でも同様のギフトが発見され、やはり内戦が始まっていた。
まだティーンに届かぬ年齢とはいえ、かれらはまもなくオトコへと変態する。その準備は望もうが望むまいが、無情にもそれぞれの体内で始まっていたということだろう。
少年たちは汗まみれになりながら情報を交換し、まだ他にもあるのではないかと新たな目標を設定する。
ここでアンは周到に、森から離れていく方角へギフトを配置しておいた。
夏休みなので学校は閑散としていたが、そのうち誰かが発見する。教室に、大量のお宝が眠っているぞ!と。
アンたちが数日かけて悠々と拠点を清掃し終えた頃、ようやくドビンズが慌てふためいた。
彼は普段は村内の下宿に暮らし、ムラムラしてくると学校の化学室へ戻ってくるのだが、その日、やけに生徒たちが大勢いるなと訝りながら部屋へ向かうと、厳重に施錠してあるはずの扉が、開いていた。
青ざめながら奥の小部屋へ駆けこむ。
書棚は、狩り尽くされていた。
誰だ!誰がやった!
怒りにわなないていると、背後に子供たちの気配を感じる。野獣は哮り狂い、火を吐きながら追い回した。
逃げ惑う妖精たちの群れ。何人もが捕まり、手ひどい折檻を加えられた。
少年たちにとってこの戦いは、自分たちのルールには基づかない災厄であったから、たちまち親たちに通報する。
すぐ救援隊が駆けつけてくれた。
囲まれるドビンズ。
彼は必死に抗弁した。悪魔が私を罠に嵌めたのだと。
真実だとしたら、なんと矮小な悪魔だろう。
そして子供たちは大いに学んだのだ。いずれオトナになるのが避けられぬ運命だとしても、こうはなるまい。こんな大人にだけはなるまいぞ、と。
ところで保護者たちはドビンズや低学年児童たちと違う方向を注視していた。校舎の屋根にひるがえる旗だ。
高学年クラスから生まれたアーティスト集団が自分たちのシンボルだと学期末に制作し、学び舎へ寄贈した校旗である。
ティーンにさしかかった子供を持つアルバリーの親たちは、この一年間、子供たちが徐々に反抗的になってきたと感じていた。賢いことは結構だが、その切っ先がよく自分たちめがけて刺しにくるのだ。
どうやら昨夏赴任してきた教師にそそのかされているらしいとオトナたちもまた情報交換を重ね、懸念を膨らませていたところだった。
ドビンズはたしかにダメな中年男で、どこへ出しても恥ずかしいから今後も村で飼っておくしかないのであるが、ミス・ステイシーとかいう都会風吹かせた阿魔はこの村にとんだ思想を持ちこみやがったみたいだよ。
春の、農作業がとてつもなく忙しい時期に、けっこう各家で壮絶な親子喧嘩も勃発していたみたいである。
そこへ今度の大騒ぎだ。
村民たちは我慢の限界を超えた。
ドビンズには再起のチャンスを与えてやってもいいが、ミス・ステイシーは即刻解任だ。
ドビンズは、ただちに動きますと涙を拭いながら保護者たちに約束し、すぐさま州都の教団本部と教育省へ手紙を書いた。
同時期に送りこまれた牧師もさっぱり役に立たないので、まとめて交換してもらいたいんですと、かなり威圧的な文面だった。
そんな噂もたちまち村中を、おもしろおかしく尾鰭をつけて駆け巡る。もちろんミス・ステイシーへプレッシャーを与えるためだ。
ところがミス・ステイシーには教師を続けたいなんて使命感など毛頭無かったから、辞令も待たずにとっとと引越しの準備を始めた。
大人にだって、こうしてただちに動く者もいるのだ。
学べばいいと思うよ。