メアリ・ヴァンスは新生活をサマーサイドから始めてみるよと言っていた。
そこでギルバートとダイアナが車で送っていくことにする。
アンは村で別れの握手を交わし、これを以て壮行式とした。
何度もだらだらとしんみりした挨拶を交わすのは好きじゃないんでな、と彼女らしい言い分だ。
帰りはどうしたって3人きりになってしまうので、それも避けたかった。
香水づくりをやめた以上、もうギルバートを頼ることはないはずだから今後は徹底的に距離を置こう。
まったくあの男。ダイアナという絶世の美少女を好きなだけ抱いてるくせに、しれっと他の女ともつきあってみたいと抜かした。
しかも、よりによって手近なブスを狙ってきた。
見損なったわ。
今もハラワタが煮えくり返ってたまらん。
だから次の商売はもっと小規模に続けられるものを、と考えながらふらついていたのだけど、なかなか思いつけない。気分は腐っていくばかりだった。
夕方、ダイアナが帰ってきた。
たいへん興奮しており、アンの部屋で今すぐ相談したいという。
夕飯の支度があるんだけどな、と口ごもっていると、マリラが大丈夫だよと引き受けてくれたので、甘えることにする。
では。女たち、密議を開始。
ダイアナ「私たちが総力を挙げて倒さねばならない男がいるのよ。こいつ!」
ダイアナは各種パンフレットや雑誌、図書館でプリントアウトしてきた資料を机に並べた。ジェイムズ・フォーブスを讃える記事の数々だ。
サマーサイドに豪邸を構え、このたび政界への進出を表明した、45歳の若きホープ。実業家として幾種もの商売を手掛けており、その資産とノウハウを駆使して、ゆくゆくはアビグウェイト州民すべての年収を倍増してみせると意気込んでいる。
はて。ダイアナはこの男のどこを嫌いだというのか。痴漢か盗撮でもされたか?
ダイアナ「スコシア系の血筋なのに、カトリック信者。彼が儲けた金はバチカンを通して世界中の子供たちを洗脳するために使われるわ。この州でも、もっと信徒を増やすつもりなのね。ゆるせない!絶対に阻止しないと」
アン「へえ。そりゃまたずいぶん……意識の高い志だな。他に余罪は?」
ダイアナ「どうしたのよ、アン。今日は冴えないわね。ほら、ほら、ほら!」
アン「エクセルシアの広告がやたらと目につくけど、これ、フォーブスと関連づけられるもの?」
ダイアナ「全体を見れば明らかよ。フォーブスの特集が組まれない号には、エクセルシアは広告を出さないの。明らかに、つながってるわね。
サマーサイドの名士なら当然プリングル一族とも深くつきあっているでしょうし、この悪魔たちはサマーサイドを根城にして、アビグウェイトを乗っ取る気でいるんだわ。
なに平然としているのよ。60マイルも離れているからって、安心なんてしていられないわよ」
アン「ダイは地理に弱いんだから。アルバリーからサマーサイドまでは、往復でも50マイルだ」
ダイアナ「より近いってことじゃない!
ほら怪文書をつくるわよ。長老たちのハートに火をつけて、予算増額とベストメンバー選出を急がせるの。時間がないんだから!」
アン「なにをしでかすのかと思えば、クリスマスの茶番かい。
あんなものなあ、カトリックを笑わせるネタを提供するだけだぞ。やるなら本格的にやれ。
ミス・ステイシーから一番それを学んできたのは、おまえだろうに」
ダイアナ「アンってそういうとこ、ほんと肝が据わってるわよね。相談しに来てよかった。さて、どうするのが最善かなあ」
アン「まず目標をはっきりさせろ。
フォーブス個人が憎いのか?彼の野心を打ち砕きたいのか?エクセルシアと仲違いさせるって手もあるぞ。
ただ、おれとしてはアビグウェイトを繁栄させようとしてる男の邪魔をする理由がわからないね。
所得倍増、結構じゃないか。たとえカトリックでも、そんなことができるなら大したもんだ」
ダイアナ「却下。考えてもみて。全州民の所得を倍にするのであれば、お金持ちであるほど儲けが増えるわ。
格差は拡がり、都市の狂乱がより激しくなる。
貧乏人への圧力は、増すのよ」
アン「なるほど。それは盲点だった。じゃあフォーブスに政策を変更させればいいのか。
福祉の充実に主眼を置かせるとか」
ダイアナ「それは地味よね。倒し甲斐がなくなる。
フォーブスには、悪党として求められるすべてが詰まっている気がするの。ルックスだっていいものね。
だから、とことん悪役を演じて男らしい散り方をしてほしいのよ。
わかるかなあ、これ。うまく表現するの難しいんだけど」
アン「あー、いや、わからなくもなくなってきたぞ。
フォーブスをひと目見て、ビビビッときちゃったのか。
いじめたいタイプだったんだな。
ダイアナ、おまえってやつは、罪な女だ」
ダイアナ「ん?あたしのこと悪く言った?ねえ、アン、あたしたち親友よね。だから協力して。
フォーブスを震え上がらせる脅迫状をつくりたいの。
まずはそこからよ。できるでしょ?」
アン「スケールが小さくなってきたな。
今日のところはひとまず理解したよ。この資料、ひと晩借りていいか?
明日、詳細を詰めよう。
じゃあ、そろそろ夕飯だから」