秋の収穫祭は、州都のあちこちをイヴェント会場にして大規模に開催される。
近郊諸州やアンクル・サムなどからまで商人や政治家を招き、島の物産を全力で売りこむ博覧会なのだ。
アビグウェイトに対して、とにかく良いイメージを抱いて帰ってもらおうという行政の必死さが伝わってくる。
ブースの端まで見ていけばアルバリー産の果物や観光名所紹介なども目にすることができたけど、この扱いから察せられることは「経済指標に基づくランキングでドン尻をさまよっているとほんとみじめったらしくて憐れみしか感じられないな」という、残酷すぎる現実だ。
スターたちの引き立て役にもならない。
結構な参加費を払わされているのだろうし、参加する以上は成果を出したいと思っちゃいるはずだろうけど、おのれの無力さを直視する勇気すら喪失して雑談しながら佇んでる前線兵士と目を合わせるのがつらい。
いっそ全地域を満遍なく網羅なんてしないで、戦闘力のあるやつだけ集めて盛り上げろよ、なんてアンは思うのだが、そんな意見を表明する場に出て行くのもまっぴらなので、わざわざ口にもしない。
どうにかするなら何から始めるべきなのかね、なんてぼんやりと考える。
サマーサイドは州内でシャーロットに唯一張り合える大都市なので、懸命に好敵手役を演じていた。
上空に気球を浮かべたり、学生ブラスバンドが熱演していたりなど印象も良かったが、いかつい警備員がやたら大勢立っていたことの不自然さもまた脳裏に刻まれる。
とくにアナウンスはされていない。
子供の悪戯に大袈裟すぎるんだよなとアンは仄かな軽蔑さえ覚える。
アン「経済振興としては、どれほどの効果があるイヴェントなんでしょう。
アルバリーはどうでもいいので、州として」
クラリス「ハリファクスの兵器見本市も毎年9月なんだけど、重ならないよう日程調整して、そっちのついでに美味しいもの食べていってくださいというバランス感覚は評価したいわね。
アビグウェイトには他に目玉が無いから、実業家たちの力も一点集中させやすい。これはマイナーな州だからこそできる芸当なのよ」
アン「まあ外資は稼がにゃなんないですし、そのきっかけ作りとして定着しているのなら大いに続けていってもらうべきですか」
クラリス「アンには面白味を感じられないんでしょう?どうぞ率直な意見を述べてちょうだい」
アン「兵器見本市の方がそそられますね、おれには。昨年からどれだけトレンドが変化したのかっていう動きもシビアに学べる。
農業って、そういう変化に乏しくて。一回来たらもう当分いいかなって」
クラリス「兵器ほど日進月歩で変わっていくものではないわね、たしかに。
ちなみにハリファクスで商談する軍事産業のブローカーは、レーションの規格に合った食材をアビグウェイトから一括購入することも多いのよ。だから2都市間でうまく連携して、持ちつ持たれつでやっている商売人もいるわね」
アン「2都市じゃおさまらないでしょ?
次はどこで紛争を起こさせるかって決めるやつらも絡んでて、もっと広範なネットワークで動いてるんじゃありませんか」
クラリス「いるでしょうけど、情報も持たずにそこまで推断するのはオカルトよ。せめて具体的な説得力を伴う根拠を示してちょうだい」
アン「説得力か。そこは小説家の発想なんですね」
ダイアナ「たとえばジェイムズ・フォーブスがどこの企業の株をどれだけ保有していて、年間いかほどの利益を手にしているか。そのうち所得として申請しているのはどれほどか。
余剰金はすべて秘密裡にロンダリングしなければならないはず。実業家はライヴァルの同業者とそうそう気楽に会談できないけれど、選挙で勝って議員になれば、むしろ州内のあらゆる実業家といつでも会う口実がつけられる。
資金洗浄どころか政策に関わる情報を手に入れてるお仲間にカルテルやトラストをつくらせ、あらゆる市場を自分の都合で操っていけるわ。
政治家は、それだけの権力を手に入れられるのよ。当選さえすればね。
このディテールをとことんまで調べ上げれば、あたしたちがジェイムズ・フォーブスを操る立場になれるということ。
ついでに、これまでカトリックにどれだけ寄付してきたかも白状させましょう。エイジャのテロ組織に注ぎこまれている軍資金と、ハリファクスでフォーブスの会社が支払っている金額が一致すれば動かぬ証拠となるわ。
とまあ、ここまで具体的に説明できれば、世界から悪を根絶できるということよね!」
アン「なんか早口でまくしたててたけど、サマーサイドの話?
マダム、今のわかりました?」
クラリス「ちんぷんかんぷん。ジェイムズ誰だって?」
ダイアナ「まだ草稿未然よ。あとで文字起こししておくから、アン、リライトよろしくね」
アン「やれやれ。酔っ払いすぎだぞ、早く寝ろ」
ダイアナ「酔ってませーん。2年前より、かなーり強くなったんだから」
クラリス「はしたない。ほどほどにしなさい。アン、こんな子にいつもかまってくれて、ありがとね」
ダイアナ「おばあさま!ひどいわ」
娘たちは来る日も来る日も語り明かした。
電気のある、町の暮らし。慣れるとこちらの方が人間らしく感じられる。
アルバリーの、文明以前の生活に戻れるだろうかとアンは不安になってきた。