なければ、つくればいいじゃない。
有能な商売人は、品物をただ並べるだけで客が来るとは考えない。それを欲しくて欲しくてたまらなくなるよう仕向けていく演出が必要なのだ。
需要とは無形物であるから、増えた減ったと機械的に測定するのは難しかろう。だが無形物であるからこそ、原料を使うことなく生産可能という旨味もある。錬金術より割が良い。
古来、この能力を磨いて成功した者は大勢いたはずだ。不良在庫の山だったものを、お客が殺到する宝の山へと変えてみせる妖術なのであるから、そりゃ誰もが欲しがるさ。
現代ではこれも立派な職業とされ、仕組みは謎でも法制化され、徴税の対象にもさせられているが、愚かなことだ。
需要製造者とは、赤を黒に変え、毒を薬として売り捌けるテクニシャンであるぞ。もっと敬い、崇め、跪け。
さもなくば、たたりにあう。
サマーサイドの実業家、ジェイムズ・フォーブスはハンサムガイだ。苦悩する姿もキマっている。
現市長が収賄容疑で起訴され、無罪にはなりそうなのだけれども来期の出馬は絶望的な雲行きだ。フォーブスはテレビの討論番組で市政の乱脈ぶりを幾度も指摘し、それで人気が出て次の市長選挙に立候補するというムードが夏頃から醸成されてきていた。
市議会に属する議員8名のうち、次期市長の座を狙っていた者ほど当然反発する。圧倒的な票数で当選しそうな若造への嫉妬心たるや凄まじい。
嫌がらせや怪文書の類はフォーブスにとって学生時代からよく送りつけられるものではあったが、近頃は量も増えてきたし、証拠物件としてインデックスをつけて保管しておく必要も生じてきて面倒だった。このリスト作成を担当していた秘書が、フォーブスに報告する。
「先週から市内に小型の時限爆弾が仕掛けられ発火するたび警察が出動していますが、どうやらその犯人から我々宛に送りつけられている一連の投書を抽出しました。これは犯罪ですよ」と。
その他の怪文書も、まとめて州警察へ提出された。
州警の捜査班はすぐさま解析にとりかかる。一連の投書にはロナルド・アーバスノット・ノックスという署名があり、これがそのまま犯人もしくは犯行グループのコードネームとして採用された。
同じ署名の爆破予告が8月、議会宛てに届いている。このときの捜査班は悪戯だという結論を出した。報道はされていないので、フォーブス氏の事務所へ届くようになった犯行声明の主と濃厚な関連性ありと判断してよさそうだ。
しかし性格はかなり異なる。
最初のRAK1は爆弾について素人で、「カトリックによる世界征服ゆるすまじ」とまるでアルバリー村民のような幼稚さで抗議しているだけなのに、10月以降のRAK2はかなり高度な化学知識を有している。
犯行予告ではあるのだが、日時・場所・爆発の規模は化学式の中に暗号化されていて、まずはこのクイズを解かなければならない。
捜査班は州都シャーロットのプリンス・エドワード総合大学化学教授に解読を依頼した。
RAK2からの投書がL01からL10まで10通ある。仕掛けられた爆弾はB01からB10までの10個あり、1対1で対応しているという前提で考える。調査中の11月7日未明にホルマン・コートのロータリーでシェーンバイン型の起爆装置が発見された。これの犯行予告はどれか。L03に含まれていたマイトトキシンの化学式に謎の数列が含まれており、これを8進法から10進法に変換すると、ロータリーの位置座標と正確に一致することが5日後に報告された。誰もが頭痛薬を欲することと思うが、こんな感じだ。
捜査員は暗号から導かれる可能性のある全ての場所をしらみつぶしに探索する。指紋検出、構成部品の特定、取扱店舗への聴き込み、投函場所、新規に爆弾が設置されるおそれのあるスポットを回り歩いたりなど地道な労力も費やされた。
今のところは、複数犯が広域な移動手段を持ち、きわめて知能の高いリーダーに指揮されながら警察をおちょくっているということだけが確実だ。RAK2の真の狙いは何か?RAK1が反カトリックを匂わせたのは撹乱目的にすぎなかったのか?ジェイムズ・フォーブス氏に深く怨みを抱く者という絞り込みも解除できないが、未だ意味のある接点に辿りつける気配すらない。
RAK2はRAK1の噂を小耳に挟んで名前を踏襲しているだけで全くつながりがない可能性だってある。サマーサイドのプレスビテリアン教会周辺には最大規模の監視人を張りつけているが、これも徒労なのだろうか?
教団は、無関係だと主張している。だが捜査に協力的かといえば、あらゆる隠し事を総力挙げて守り抜こうとしている臭いしか感じさせない。
12月を迎える頃になると、こんな巨大な苛立ちがサマーサイドを包みこんでいた。
無形だから始末が悪い。
どこへ捨てればいいのやら。