緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§95.腕によりをかけて

ダイアナが新聞を持ってきてくれた。

グリン・ゲイブルズではマスメディアと戯れる習慣がなく、隣家のおしゃべりおばさんレイチェル・リンドからの情報に頼りきりなところがあるので、アンはありがたく読ませてもらう。

 

「自由と進歩を人類に約束する長老派が、ついに決断した。

今年のクライマックス・イヴェントは、サマーサイドで開催される。

市内では2ヶ月あまり小規模な爆弾テロが相次いでいる。いまだ一人の負傷者も出ていないが、全市民を震えあがらせ、不安の海を漂わせている。いったい誰が何の目的でこんな愚かしい悪戯を繰り返すのか。皆目謎である。

警察は、よりにもよって長老派に疑いの目を向けた。

サマーサイドでは新進気鋭の保守政治家が誕生しようとしている。実業家として名を馳せた、F氏だ。彼のもとへ犯行予告が投げこまれ、一連の爆弾騒ぎを惹き起こしているグループとのつながりを濃厚に匂わせているという。

警察がひた隠しにしている犯人からのメッセージであるが、我々は独自に入手した。F氏がペイピストであることを糾弾し、彼の政界進出を阻むのが目的だとある。

だから長老派が疑われることになったわけだ。短絡的に過ぎはしないか。もし長老派が狙われていたら自動的にカトリックへ容疑が向けられるのか。

そもそも、長老たちに忠誠を誓い聖書の教えを絶対と心得る信徒が、このような軽犯罪に手を染めるはずなどないのだ。やるときは胸を張り、正々堂々と大きな運動を起こし、誇りを賭して戦い抜く。それがプレスビテリアンだ。ノックスのあとに続く者たちだ。

長老派はおそれない。今年は渦中の街サマーサイドに集まり、悪に屈さぬ堂々たる姿を見せてくれる。

爆弾魔は恥を知るだろう。そして、つまらぬ座興をやめるだろう。

戦士は、平和をもたらしにやってくる。

長老たちよ。よくぞ決断してくれた」

 

こんな脳天気な記事で煽っちゃうと当日子供たちをがっかりさせないかな。アンは心底不安になり、震えを覚える。

とはいえサマーサイド在住でプレスビテリアン信徒で血気に逸るジャーナリストにとっては、州都が援軍派兵を決定してくれたことがどれほど嬉しかったことかとも思う。

こんな大人たちの夢が砕かれても全然構わないが、アルバリーの評判が悪くなるのは迷惑なんだよな。

どうしたものやら。ぶつぶつ。

 

ダイアナ「いったいどうなっちゃってるわけ?

あたしはフォーブスがげっそりやつれて引退表明、くらいまでを期待してたんだけど。スケールが大きくなりすぎちゃってない?」

 

アン「どうなんだろうね。おれにも全容はわからないんだ。

シェパードに在庫を全部預けた。ときどき設置予定場所と発動日時の一覧が送られてくるから、腕によりをかけて暗号を考えて、返してやる。あとはおまかせだな。

クリスマスの襲撃まで重なるってのは、かれらにも想定外だと思うんだけど」

 

ダイアナ「シェパードの目的は何なの?テロ?」

 

アン「それこそ何のために?だよ。あいつは宗教的にはノンポリだから、神のためにとか正義万歳とかは一切考えてないはずだ」

 

ダイアナ「誰も統制とってなくて、ひたすら雪玉が転がって大きくなって雪崩が起きそうだよ、ってこと?

なんでそうなっちゃったわけ?」

 

アン「今の喩えの通りなら、まさしく自然がそうさせたってことなんじゃない?雪崩が起きるんだよ。単純な物理現象だ」

 

ダイアナ「うーん。人が死ぬような展開はノーサンキューだなあ」

 

アン「雪崩でも火山噴火でも、逃げ遅れりゃ、たいがい死ぬんだけどな。むしろ誰ひとり死なないですんだら不自然だ」

 

ダイアナ「そうかあ。そう言われると、しょうがないかなって気にもなるけど、どうしようかしら。

見物に行っても、危険じゃない?」

 

アン「自分たちの住んでる一帯で、どこでいつ爆弾が破裂するかわからない中で暮らしてる市民に向かってそんなこと言ったら、袋叩きにされるぞ。たとえ犯人の一味じゃなくたって」

 

ダイアナ「そりゃそうかもしれないけどさあ。せめてシェパードに、安全地帯を教えてもらっておいてよ。アンだって、見に行くつもりなんでしょう?」

 

アン「おまえたちとは別行動にしようかな。スリルとサスペンスで興奮が昂ってきたとき後部座席におれが乗ってたら、シートを倒せなくて欲求不満になるだろう」

 

ダイアナ「気を遣ってくれてありがたいけど、さすがに親友のいる傍でそこまでハメを外したりはしないよ」

 

アン「そんな風に気を遣わせてる、おれが、いたたまれないんだが!って言ってんだ。

シェパードには訊いといてやるから、ふたりで好きなだけ爆音と炎の中を走り回ってこい」

 

ダイアナ「アンはどうするの?」

 

アン「いま決めた。バスで行こうと思う。昨日決まったばかりなら、まだ空きもあるだろう。

3年連続出場だ。さすがに物好きにもほどがあるよな」

 

ダイアナ「信仰心が篤いのねって大人たちは感心すると思うわ。でもアンにとっては物足りないのじゃなくて?狙いは何なの」

 

アン「この村にも、教団本部にも、ちゃんと戦術指導をしてやれる大人がいないからなあ。おれが行ってやるしかないじゃんか。

それに、カオスな状況になってるからこそ、間近で見ておきたいんだ。今年は特に濃厚な体験ができるはずだ」

 

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