緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§96.最高のクリスマスに

サマーサイドがここまで注目を集めたことは、アメリカ新大陸発見以来、初めてだった。

 

他州や外国では当然であるが、島内でも12月半ばまで爆弾テロが横行していることを知らない人は多かった。

警察の捜査は捗々しくなく、発表も歯切れが悪かったせいだ。

報道各社もへたに犯人を刺激して自分たちが標的にされてはたまらないから、慎重に、歯応えの無いガムのような文章ばかりを書いていた。そんなもの、噛んでも楽しいわけがないのである。

 

政治と宗教が絡んでいるらしいぞ、という噂も上品な人たちを遠ざけた。どちらも、丁寧に扱ったって大火傷を負いかねない話題だ。よい子は近寄りさえしない。

その流れを一転させたのは、数ある宗教団体の中でも格別頑固な連中が巣食っていると評判の、プレスビテリアン教団だった。

 

頑固爺たちは、他人が幸福そうにしていると激しい嫉妬を燃やす。とくにクリスマスが大嫌いである。

なんのかんのと理由をつけて襲撃するというテロ行為が、かれらの間では伝統文化となっている。

やめさせようとする人たちもいるものだが、次はどこに刃を向けてくるか知れないので、やんわりと無害化させてゆく戦略がとられた。できるだけ一般人を巻きこまないようなイヴェントにして、思う存分暴れさせ、帰らせるのだ。

教団外ではこれが伝統文化になった。

おかげで何十年も、不幸な人をあまり生まなかった。

ところが今年は頑固爺たち、この爆弾魔と戦うつもりらしい。

最強テロリストは吾輩である、とでも?

なんと迷惑な。

しかし意外なことに、阻止しようと叫ぶ声はそれほど大きくならなかった。

 

時限爆弾が毎日のように市中どこかしらで鳴り、そのたび警察と消防隊が出動したが、一件ごとの規模はきわめて小さく、市民はすぐに慣れてしまった。

そればかりか、次はどこで爆発するかとまるで宝探しのようにウォーキングを始める老若男女が増加した。

相対的に自動車の通行量が減り、渋滞が緩和される。

適度な運動のあとカフェや公園で一服し、同好の士と談笑を交わす住民が増えると防犯効果が高まる。警察官のパトロールも強化されているから尚更だ。

サマーサイドの治安は急激に良くなり、どこの広場にも屋台が立ち並び、早朝から夜遅くまでフル稼働で新鮮なジュースを売る。女性が一人で出歩いても心配がいらない。

そんな街へ、噂にしか聞いたことのないプレスビテリアンがやって来て、大暴れしてくれるというのだから、そりゃ期待されるってもんよ。なあ!

 

実業家ジェイムズ・フォーブスは早い段階から自分が狙われていることを追い風にしようと思いついたようである。

万一を考えて外出を極力控える代わりに、秘書やエージェントを精力的に雇い入れ、ディスカッションと育成に専念した。朝から晩まで主人公自身が駆け回って直接決裁しなきゃ話が進まないようなシナリオに慣れすぎた政治家さんは参考にしてみたらいいと思う。

フォーブスは「昔いじめた誰かに怨まれているのかもな」とは思っていたが、心当たりがありすぎたし、いちいち細かいことまで覚えちゃいないので、犯人捜しにリソースは割かなかった。

「警察が事件を解決してくれたら報道されるより前に知らせてもらい最善の対応をとりたい」という希望は伝えてあるが、この計略を完璧とするためには、いつでも連絡を受けられ即座に動ける状態を保っておく以外の選択肢は無いのだよね。

悩まない悩まない。来年選挙で勝つためには、しょぼくさい皺を顔に一本だって刻んでいられないわけであるよ。

フォーブスはこんな男だった。だから心配は御無用さ。

 

サマーサイドの新聞記者が何人もアルバリーへ取材に来た。

かれらはどんな相手でも褒めちぎって、いい気にさせて、その口から全てのアルファベットを吐き出させる。

この文字列群を、長年培ってきたワードプロセッサーに投入すると、万人の心に響く、名も無き庶民の心の叫びが幾通りも再構成されて出てくるという仕掛けだ。

「何百年も語り草にできるような、最高のクリスマスにしてくださいね!」

ジャーナリストたちはそんなプレッシャーを村民に与えて、通りすぎて行った。

それほど注目されているのかあ、オレたちの村が。

アルバリー村民は、気を引き締める。こりゃあしっかり準備しておかねばなんねえぞ。全世界が期待しているらしい。アルバリーの誇りを、見せつけてやんねばってことだ。

 

ペリー牧師「ずいぶんと忙しそうだな。子供たちを連れてサマーサイドへ行くことになったと聞いたぞ。どうなっているんだ」

 

ドビンズ教師「それを教えてくれた村人からついでに全部聞いておいたらどうだ。オレは疲れている。早く寝たいんだよ」

 

ペリー「まあまあ一杯くらいいいじゃないか。俺は親友の口から聞かせてもらいたいんだ。で、行くのか。サマーサイドへ」

 

ドビンズ「ああ。だから子供たちを猛特訓中だ。都会者に舐められちゃならんからな。割れんばかりの、本気の拍手を、あいつらに味わわせてやりたいのさ」

 

ペリー「一昨年はシャーロットで、昨年はベルファストだったか。アルバリーの歴史でも、ここまで盛り上がってるのは珍しいことだと聞いている。どんな気分だ」

 

ドビンズ「早く帰れ。オレは明日も授業があるんだ。1分でも眠りたいんだよ。さ、おしまいだ。おやすみ」

 

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