緑きりつま、赤毛きたれり   作:ひねもす@HAMELN

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§97.逃げなかった者だけが

クリスマス当日。

アルバリーから2台のバスが出発した。

 

1号車には今年選抜された栄えある子供たちが乗っている。

神聖なる祝祭を敢行するためのスタッフや、装備品の数々も積みこまれた。

例年であれば度胸試しも目的なので秘密主義がとられるけれど、今年は大観衆の声援やヤジが想定される。その場でビビって泣き出したり、おもらししちゃったりしないよう、ある程度の説明と心構えをばっちりと説いた上での出征となった。

それにしたって緊張するよ。

主役たちよりずっと、大人たちの方がだけどね。

 

2台目のバスは少し遅れて出発。

楽団とパフォーマーを乗せていった。

引率責任者の一人はドビンズ先生だ。

この日のために猛練習を重ねてきた。1年あまり前から本格的に音楽を始めた小学生たちが中心となり、心得のある先輩や大人たち・こんな機会は二度と来まいと肉体パフォーマンスを披露したい有志が集まって、即席で結成された応援団だ。

襲撃隊と同じ会場で、プレイヤーもオーディエンスも沸かせてみせることに今夜は全力を賭ける。

そりゃもちろん緊張してるが、ここまできたら燃え尽きるまでさ。

 

ドビンズは座席で揺られながら、ペリーへどう説明してやればいいのか悩んでいた。

悪い男ではないし、気の合う話題も多いのだが、呑み込みが悪い。

本人が難しいなと思う話題にさしかかると、おどけて煙に巻こうとする癖もある。鞭でしばいてやりたくなるガキにありがちなオフザケ気質である。

あいつは甘やかされて、学習も反省もしたことなく成長してしまったような男だ。たまに殺意が湧く。

とくに商売でも教育でも、こっちが真剣になにかと戦って帰ってきたばかりの状況でそんな態度をとられると、顔面に蹴りでも見舞ってやらにゃおさまらないくらいの怒りがこみあげる。

いっそ一発くらわしてやった方があいつを変えられるのだろうか。

無駄な気がする。

別に絶交したって構わないのだが、そうすると、教団の悪口を肴にこれだけ盛り上がれる友達がいなくなってしまうのだ。今日、自分がサマーサイドへ向かうことになった顛末も、誰かに語って聞かせたい情熱は盛っているのだが。

ああ、なんとも、せつない。

 

アンは1号車に乗っていた。

真剣に不安がっている子供たちを適度にあしらいながら「やるときは集中してやり、やらなくていいときは徹底して気を休める」といった極意を、やんわりと教えたりしていた。

 

1号車は中継点で待機。

2号車の方が先に会場入りして、設営準備と、入念なチューニングにとりかかる。

サマーサイドにもアマチュアのダンスチームやブラスバンドなどがいて、前座のパフォーマンスを繰り広げている。

こいつらに続いての演奏かよと子供たちは真剣に焦りだすのだが、まあ誰しも通る道だ。

生涯忘れぬほど怖がっておけ。

失敗するのがあたりまえ。

でもそこから逃げなかった者だけが、次のステージにも立てる。

そんなものさね。古今東西、芸の世界なんてさ。

 

会場は海沿いの公園だった。

この日のために特大クリスマスツリーが飾られ、その周辺で無数のサンタクロースが踊っている。

アルバリーからやってきた子供たちは、サンタの群れと戦ってツリーを伐り倒し、火にくべなければならない。

さあ開始のラッパが鳴る。

先輩たちの応援マーチと、ロープより外周の大群衆が投げかけてくれる激励のエールを浴びながら、泥まみれで戦う主役たち。

サマーサイドの実業家がずいぶん奮発してくれたらしい贅沢なイヴェントだった。

 

時々市内で爆弾が燃え、サイレンが向かってゆく。市民は消防団員へも声援を送った。

一時間ほどかけてサンタはようやく駆逐され、ツリーに火がつけられる。

大歓声と同時に、市内あちこちから花火が打ち上げられた。できすぎだろ。

ロープの内側でも外側でもスクラムが組まれ『勇敢なるスコットランド』の合唱が谺する。

教会でテレビ中継を見ているアルバリー村民も涙していることであろう。

アンですら、目頭が熱くなってきた。

 

観衆の中にメアリ・ヴァンスを見つける。着こなしをますますグレードアップさせており、背の高いボーイフレンドに肩を抱かれてぴったり寄り添っていた。しあわせなら、なによりだ。

ダイアナたちもいるかなと捜したが、見当たらない。どこでしあわせしてやがんだか。

 

ドビンズも感極まっていた。

最初期の計画は、バスの空席に教え子たちを乗させてもらい、クリスマス襲撃に伴奏をつけに行くというものだった。

会場で、裕福な観客の何人かは投げ銭をくれるだろう。金額は僅かでも子供たちには大きな手応えとなるはずだ。

ただ主目的は別にある。

いつも調子よく相手を騙そうとするばかりの業者連中に、こちらから恩を売りつけてやり、侮っていい相手ではないぞと認識させることこそが真の狙いだった。

ギャラリーの背後に立っていれば、投げ銭をしたがる紳士淑女が財布に手を伸ばす動きを観察できるだろう。そいつらを帰り際に襲えよ。

こう示唆し、聴衆の流れを誘導する。

こんなたくらみであったのだ。

 

ところが今年はサマーサイドで厳戒態勢のもとに挙行されると聞いて、一時は諦める。

しかし二転三転して例年より大規模なお祭りにするぞなんて話になり、今日のような展開となったわけだ。

業者は想定以上に儲けたかもしれないが、ドビンズのおかげとは見做されないため、成功か失敗かでいえば失敗だ。

しかしドビンズは、なんだかもっと大きな何かを得た気がしてならない。

それにしても困った。

ペリーに説明するどころか、自分自身の内でうまく言語化できないぞ。

どう言い表わせばよいのだ。

今の、オレの、この感情を。

 

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