アン「やあ、おつかれさま」
シェパード「そちらこそ。見てたよ。ずいぶん暴れてたじゃないか」
アン「子供たちがな。
あの日参加したやつは皆、すくすく大物に育つんじゃないかなあ。
将来、ファインプレーで喝采を浴びるたびにサマーサイドのクリスマスを思い出すんだぜ。そんな記憶と共に大人になっていけるなんて、最高の財産だよ」
シェパード「時間が無いから商談に入るぞ。ボムは今後どのくらい作ることができる?」
アン「へえ、そんなに売れてるの。どうしようかな。
冬は水が冷たいから、少し休みたいんだよね」
シェパード「春になるとさっぱり売れなくなるよ。サマーサイドに爆弾魔がいたことさえ、忘れられてしまうだろう」
アン「都会モンってのは、そんなに記憶力が弱いのか」
シェパード「新しいトレンドが次々生まれてゆくからな。とくにクリスマス商戦をあてこんで作られた品は、売れ残った数だけ倉庫を圧迫する。
月平均値より儲けた分が処分費を上回れば成功だ。
でも12月は猫も杓子も同じようなデザインで勝負するから、却っていつも通りの品を並べていた方が目立つんだよ」
アン「へええ。流行に踊らされる奴はとことん惨めになるの法則かい」
シェパード「流行を煽って誰も彼もを踊らせる側の人間がいる限り、まさしくそういうことになるな」
アン「心得とくよ。そんで、ボムはあとどれだけ要るのかな?」
シェパード「無理のないペースで作ってもらえれば、1月末までは全て買い取ろう。その数を売り切るように、市場への放出を調節する」
アン「販売ってのはそんなに細かくコントロールをするものなの?」
シェパード「在庫が大量にあって、いつでも買えると思ってたら、人は欲しくなくなるものさ。
供給は常に需要をほんの少し下回るくらいがベスト。
経済学では常識だ」
アン「経済かあ。興味を持てば面白いものなんだろうね」
シェパード「ニワカとゴロが他所よりも多く群がりやすい分野だから、来るときは防虫対策をしっかりな」
アン「毎度毎度いろんな知恵を授けてもらってたすかるよ」
シェパード「蛇足だが忠告しておく。君は一次生産者に該当するが、最大限に心掛けてもらいたいのは質を落とさないことだ。無理なんかしてそこを疎かにした瞬間、畏友たちほど離れてゆく。
商社や広告屋は顧客に対しそうさせるよう働きかけ、自分たちの側が主導権を握るべしとたくらむのが常なんだ。
くれぐれも魂は守れ。悪いお手本ならどこにでも転がっているから、よく見ていればわかる」
アン「おれの知ってるプロ作家は、無理をせず、出版社や映画屋さんたちとも表面上は仲良くしてる風なんだけどね。
ま、ボムのことならわかった。じっくり作るよ。どうせ夏にはやめるつもりだったし」
シェパード「ああ、進学するんだったか。
州都へ住むようになれば、今後は僕が手伝わなくても、君自身でなんでも売れるようになるな」
アン「夢見がちだっつの、あんたは。
それじゃ後学のために訊いておくかな。サマーサイドには、もうボムは残ってないんだね?」
シェパード「市民に発見されて届け出られたもの・誰にも気付かれず爆発したもの・不発だったもの。を除いてすべて回収したよ。もし出てきたら、それは僕たち以外の個人もしくは組織が仕掛けたボムだ」
アン「警察・市庁・実業家のいずれにも、もう終わったよなんて教えてないんだよね?」
シェパード「なんのためにわざわざ?
市民にも、警察にも、ひきつづき緊張感をもって防犯に取り組んでもらいたいからさ。言うわけがないよ」
アン「サマーサイドは、あくまでキャンペーン会場に選ばれただけだった。
真犯人の狙いはボムを売りさばくことだけど、だからといって不幸な人をつくりだす必要はない。
ミステリアスな爆弾魔を創造し、注目を集めさせたこと。それ自体が目的だった。
さて、シェパード商会として今回のミッションは、成功したことになるの?」
シェパード「気が早いよ。売りさばくのはこれからだから。
ジェイムズ・フォーブスの方がしたたかだった。あいつは年内にガッチリ儲けた。さすがは場数を踏んでいる実業家だ。
ただ、漠然と順調かどうか質問しているだけなのであれば、感触は悪くないね。
クリスマスに活気を与えた爆弾魔にリスペクトを捧げているオーディエンスは大勢いて、オリジナルブランドのボムを欲しがるアマチュアテロリストも期待値よりずっと大量に湧いているところだ。
個人が趣味でつくっていることを勘案するなら、大成功してるよと言っていいんじゃないかな」
アン「商売てのは、ただ良いもの作りゃ稼げるってもんじゃないんだねえ。
いまの話だけでも、すごく勉強になったよ」
シェパード「蛇足をもうひとつ。
成功者は何よりも失敗から学ぶ。致命的なミスをやらかし消えていく奴もひっきりなしだが、乗り越えて次へ繋げて初めて身につく力だってある。それを手に入れることが重要なんだ。
これは余計なお世話だったかな。じゃあ、また来る。風邪なんかひくなよ」
シェパードは敢えて語らなかったが、小さなイレギュラーも発生していた。
エクセルシア石鹸の事務所および倉庫になっていたウィンディ・ウィロウズという民間住宅がクリスマス当夜、炎上して焼失したのだ。場所は消防署の近くだったのだが、あいにく全車出動中で消化が間に合わなかった。
同じストリートに仕掛けられていたボムが一つ盗まれており、悪意ある個人もしくは組織によって転用された可能性がある。
だからダイアナとギルの姿が見えなかったのか。とアンは納得したのだが、わざわざシェパードに語るのは控えた。
友達を売るなんて。いったい誰が得をする。