俗物少年合理君   作:この俗物怪物くん

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ガンファイターのび太と、無法地帯の契約社会

乾いた風が吹き抜ける荒野の町――その名も「モルグ・シティ」。

 入口に立つ看板にはこう書かれていた。

 

“WELCOME TO MORGUE CITY - POPULATION: 152… 151… 150…”

 

 看板の横には、誰かが慌てて数字を塗りつぶした跡。

 どうやらこの町、減り続ける人口をリアルタイム更新中らしい。

 

 大人になったのび太、合理くん、鈴木さんの三人は、その不吉な看板を見上げて立ち尽くしていた。

 

「……なんか、嫌な予感しかしないね」

 のび太(青年)は、テンガロンハットの下で額の汗をぬぐった。

 

「ここはモルグだ。つまり遺体安置所。……ネーミングからして、リスクの高い投資対象だ」

 合理くん(青年)は、地図アプリ(未来のスマホ)を開きながら淡々と呟いた。

 

「まあまあ、正義さま♡ 危険な場所ほど、ロマンがあるじゃありませんの!」

 鈴木さん(美女)はウインクして言う。

 が、その直後、酒場の扉がバタンと開き、担架に乗せられた男が運び出された。

 

 背中には、まるで漫画のように三本の矢が突き刺さっている。

 

「……ぎゃああああ!!」

 のび太が叫ぶ。

 

 周囲の大人たちは慣れた様子で、煙草をふかしながら淡々と見送っていた。

 

「おい、またか……」

「丸一日もったんなら大したもんだ」

「今夜の賭けは町長の勝ちだな」

 

 命のカウントダウンを賭け事にしてる町、それがモルグ・シティだった。

 

 担架を見送っていた町長が、帽子を胸に当ててつぶやく。

「保安官ジョー……君は立派だった。丸一日も生きていたんだからな……」

 

 その場の空気は完全にあきらめの匂いに満ちていた。

 

 そんな中、合理くんが一歩前へ出た。

 ロングコートの裾がひるがえり、彼の目が町長を射抜く。

 

「町長殿、失礼。これほどの規模の略奪行為が横行しているのに、なぜ連邦軍の介入がないのですか? 州兵は? この町の統治機能は完全に麻痺しているように見受けられますが」

 

「(やけくそ気味に)軍隊だと? 電報を打って、奴らが来る頃にはこの町はハゲタカの餌だ!」

 

「……なるほど、タイムラグという名の構造的欠陥か。行政の遅延は、もはや時代病だな」

 合理くんはメモ帳を取り出し、「西部地方行政の崩壊に伴う市場空白メモ」と書き込んだ。

 

 町長は頭をかかえ、煙草をふかす。

「誰でもいい……この町を守れる奴はいねえのか……」

 

 その言葉に、のび太(青年)がピクッと反応した。

 胸の奥で、西部魂が鳴いた。

 

「おじさん! それなら俺が保安官になる!」

 

 ――場の空気、凍る。

 

「…………」

 

 通行人A:「今なんて言った?」

 通行人B:「“俺が保安官になる”だとよ」

 通行人C:「新しい死にたがりか?」

 

 周囲の視線が、のび太を生温かく刺す。

 

 そこへ、サルーンの扉を押し開けて出てきたのは、町長の娘。

 腰に手を当て、ドレスの裾を払う仕草が妙に板についている。

 

「お父さま、この方たちは?」

 

「さあな。どこからともなくやってきた流れ者だ」

 

 彼女はじっと三人を見つめた。

 瞳の奥には、「得体の知れない者には関わらないほうがいい」という、西部の女特有の冷ややかな現実感が光っている。

 

「まあ、素敵な方たち。でも――どこから来たのかわからない流れ者を、保安官にはできませんわ」

 そして、微笑んだまま、突き刺すように言った。

「あなたたち、何者なの?」

 

 のび太(青年)は胸を張って名乗る。

「俺は、のび太! 正義のガンマンだ!」

 

 ……沈黙。

 

「……正義? そんな名前の保安官、昨日も死んだぞ」

「ああ、正義スミスな。三時間で撃たれた」

 

 完全に信用されていない。

 

 合理くん(青年)は、すかさず間に入った。

「町長殿、我々は異国の民だ。文明と科学の力をもって、この町を安全都市に再構築することが可能だ。自治・経済・治安を一元化した地方統合マネジメントシステムを――」

 

「うるせぇ! 何言ってるかさっぱりわからん!!」

 町長がツバを吐いて遮った。

 

「得体の知れねえ奴らを信用できるか。悪いが、よそ者はとっとと出ていってくれ!」

 

「えぇぇぇ!? そんなぁぁぁぁ!!」

「まぁ、言葉より美貌で説得してみせますわ♡」

「……女性の戦いを挑む気ですの?」

 (※その後、微妙な視線の火花が飛び交う)

 

「もういい! ケンカすんな! こっちは人手が足りねぇのに墓掘りばっか増えるんだ!」

 

 結局、三人はサルーンの外に追い出された。

 通りの犬が骨をくわえて横切り、看板の“150”が誰かの手で“149”に書き換えられる。

 

「もういい! こんな町知らない! 帰る!」

 のび太(青年)がハットを脱ぎ捨て、砂を蹴った。

 

「感情的になるな、野比くん。これもリスクの一種だ。人心の硬直は市場の冷え込みと同義だ」

「うるさいよぉぉ!僕はヒーローになりたかっただけなのに!」

 

 鈴木さんが肩に手を置く。

「のび太さん……あなたの優しさ、きっと誰かがわかってくださいますわ♡」

「うぅぅ……鈴木さんだけだよ、僕の味方は……」

 

「(手帳にメモ)感情的同情は有効な人心掌握手段。ふむ、実証データとして有用だ」

 

「今メモ取るなぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

西部の荒野――。

 夕焼けの空を馬車が走り抜け、サボテンの影が長く伸びていた。

 

 丘の上に、三人の人影。

 のび太(青年)、鈴木さん(美女)、そして合理くん(青年)

 

 三人は息を切らせながら、砂煙を上げて駆け上がってきた。

 

「……ここだ! 確かにここに、僕たちのタイムマシンを置いたはずなんだ!」

 のび太は砂の上を探し回る。

 

 だが――どこにも、あの青いタイムホールは見当たらない。

 風が吹き、乾いた草が転がっていく。

 

「おかしいな……確かこの岩の横に――」

 

  

 合理くんは淡々とポケットからメモを取り出した。

「うむ。どうやらブレーキをかけ忘れたな、野比くん。今頃、時空間連続体の中を、どこかへ転がり落ちているだろう」

 

「た、タイムマシンがなーーーーいっ!!」

 

 西部の荒野に、のび太の絶叫がこだました。

 コヨーテが遠くで吠え、サボテンの上のハゲタカがビクッと飛び立つ。

 

 鈴木さん(美女)は口元を押さえて青ざめる。

「ど、どうしましょう、正義さま……! 私たち、この時代に取り残されてしまいましたのね!?」

 

「ふむ。厳密に言えば、取り残されたというより、自ら取り残したに近いな」

 

 合理くんは腕を組み、冷静に空を見上げた。

 淡々とした口調で続ける。

 

「だが、悲観する必要はない。人類は常に、想定外から進化してきた」

 

「進化してる場合じゃないよぉぉ!!」

 のび太は髪をかきむしり、地面に突っ伏した。

 

「僕、帰れないんだよ!? ドラえもんに怒られるどころじゃない! 歴史の教科書に野比のび太、19世紀で死亡って書かれちゃう!」

 

「(きっぱり)心配するな、野比くん。君の名前が歴史の教科書に載るほど、君は有名じゃない」

 

「フォローになってないよぉぉぉ!!!」

 

 二人が騒ぐ中、合理くんは静かに立ち上がった。

 彼は砂を払うと、何事もなかったかのようにアタッシュケースの一つを開けた。

 

 カチャリ。

 

 中には――びっしりと詰まった米ドル紙幣の束。

 しかも、19世紀当時のデザインに完全一致。新札同然にピカピカしている。

 

「なっ……なんだそれ!?」

 のび太の目が飛び出しそうになった。

 

 合理くん(青年)は、涼しい顔で答える。

「当然の備えだ。どんな時代でも通用する通貨を準備しておいた。為替レートの変動リスクはゼロだ」

 

「そ、そんなのアリなの!?」

 

 鈴木さん(美女)は胸に手を当て、感嘆の声を上げた。

「まあ……正義さまってば、まるで未来の神様みたい……!」

 

「違うよ! 完全にマフィアの金庫番だよ、それぇ!!」

 

 合理くんは札束を手に取り、太陽に透かして眺める。

「紙質も完璧だ。この時代の印刷技術に合わせてある。偽札と疑われることもない」

 

「いや、それ絶対犯罪だよね!? ほとんど経済テロだよね!?」

 

「違法かどうかを判断するのは未来の司法だ。ここは1881年。つまり法の空白地帯。ゆえにセーフだ」

 

 合理理論、恐るべし。

 

 のび太と鈴木さんが絶望している間に、合理くんはどんどん行動を始めていた。

 彼は札束を数枚抜き取り、スマートにポケットへ滑り込ませる。

 

「嘆いているだけでは事態は好転しない。非生産的だ。まずは、この時代の通貨で当座の生活基盤を確保する」

 

「そんな冷静に言うなぁぁぁ!」

 

「さあ、町へ戻って最高の宿と食事を押さえよう。これは投資だ」

 

「まぁ♡ 正義さまがそうおっしゃるなら、私……どんな時代でもお供いたしますわ!」

「ぼ、僕も! 帰れないなら、せめてお風呂つきの宿に泊まりたい!」

 

 ――結局、全員一致で町へ戻ることになった。

 

 タイムマシンがなくても、食欲と物欲はなくならない。

 

 彼らが夕暮れの荒野を歩き出す頃。

 

 一方、現代では――。

 

 野比家。

 押し入れの中でドラえもんがゴロゴロと寝返りをうち、ふと目を覚ました。

 

「ふわぁ〜……あれ? のび太くん、まだ起きてるのかな……?」

 

 机の上に、一枚の書き置きがあった。

 

 『西部でヒーローになってくる! のび太』

 

 ドラえもんの目が点になる。

 

「……ん? ……え?」

 次の瞬間、彼の顔色がみるみる青ざめていく。

 

「えええええええええ!?!?!?」

 

 部屋中に響く大絶叫。

 

 五秒後、ドラえもんはタイムテレビの前に飛び込んだ。

 

「(ダイヤルを回しながら)アメリカは広いんだぞ!? 1881年か? 82年か!? トゥームストーンか、デッドウッドか!? あぁもう、なんでよりによってそんな時代なんだぁ!」

 

 

「ま、まさか……僕のタイムマシンで行ったのか!?」

 

 彼の背中を冷や汗がつたう。

 

「ってことは……僕がここを見つけたとしても……助けに行けないじゃないかーーーっ!!」

 

 タイムパラドックス発生。

 

 ドラえもんは頭を抱え、部屋をぐるぐる回り出した。

「どうしよう、どうしよう! 19世紀に未来人三人が金使って経済荒らしたら、アメリカ史が書き換わっちゃう!!!」

 

 その頃――西部の宿屋では。

 

「部屋を三つ。食事は最高級。支払いは現金で」

「あ、あんた……どこからこんな大金を……?」

「投資の成果だ」

 

「(ステーキを頬張りながら)うわ〜! 西部の肉って硬いけど、うまい!」

「(ワインを飲みながら)ああ……この時代も、案外悪くありませんわね♡」

 

 ――その背後で、壁の時計が「1881年」と刻む。

 

 未来の帰り道は、もう消えていた。

 だが、合理くんの口元には、満足げな笑みが浮かんでいた。

 

「……いいだろう。この時代で、新しい市場を作る」

 

「ねえ合理くん、それ帰る気ないってこと!?」

 

 

 

◇◇

 

 

 

モルグ・シティの昼下がりは、相変わらず物騒だった。

 カウボーイたちは腰の銃を握りながら昼飯を食べ、赤ん坊でさえガラガラの代わりにリボルバーを振っていた。

 

 そんな中。

 

 ――町のど真ん中の草むらで、のび太(青年)は寝ていた。

 

「ぐー……すかー……」

 帽子を顔にかぶせ、右手にはクッキーの欠片。

 足を投げ出し、まるで自分の家の庭のように熟睡している。

 

 宿も確保、食事も確保、財布も合理くんの厚意で満たされている。

 つまり――することがない。

 

 通行人たちはあきれ顔でひそひそ言う。

「ありゃ新入りか? 命知らずだな」

「モルグ・シティで昼寝? 勇気ってより脳みそが日干しだな」

 

 それを少し離れたホテルのバルコニーから見下ろす二人。

 合理くん(青年)と鈴木さん(美女)である。

 

 鈴木さんはレースの日傘を差し、のび太の寝顔を見つめて眉をひそめた。

「正義さま、野比さん、あんなところで……。銃弾が飛んできたらどうなさるおつもりですの?」

 

 合理くん(青年)は腕を組み、まるで美術品でも観察するように言った。

「見なさい、鈴木さん。銃弾が飛び交うこの町で、この胆力。彼はやはり大物だ」

 

「大物、ですの?」

 

「そうだ。普通の人間なら、あの騒音と危険環境で眠ることはできない。だが彼は熟睡している。つまり――ストレス耐性が異常に高い」

 

 合理くんは電子手帳(未来ガジェット)を開き、さらさらと記録を取る。

「野比のび太:肉体反応低下時における危険察知能力ゼロ。代償として覚醒時の集中力が極端に高まる……ふむ、戦闘特化型昼寝戦法として応用できるかもしれない」

 

「(首をかしげて)それ、ただの昼寝の話では……?」

 

 その時だった。

 

 ――バン! バン! ババババン!!

 

 銃声が町中に響き渡る。

 通りの向こうで、二人組のギャングが雑貨店を襲っていた。

 店主が悲鳴を上げ、窓ガラスが派手に割れる。

 

「きゃあっ! また強盗ですのね!」

「(即座に立ち上がり)野比くん、仕事の時間だ」

 

 そう言うやいなや、合理くんはアタッシュケースのロックを外した。

 中には、美しく輝く銀色のリボルバー。

 コルト・シングルアクション・アーミー ピースメーカー。

 装飾は繊細で、持ち主のセンスを物語っている。

 

「(ニヤリと笑い)この銃は、君のために用意しておいた。

 ……さあ、起きたまえ、怪物」

 

 合理くんは草むらまで歩くと、寝ぼけたのび太の右手に銃を握らせた。

「野比くん、ターゲットだ」

 

 のび太(青年)は寝返りを打ち、帽子をずらしてぼんやり目を開ける。

「ん〜……? あれ……? 朝ごはん……?」

 

「違う、昼だ」

 

「え〜……じゃあ、おやつの時間?」

 

「違う、決闘の時間だ。」

 

 のび太はあくびをしながら体を起こす。

 まだ半分夢の中。

 目はとろんとしているのに、手だけは自然に銃を持ち上げた。

 

 通りの向こうでは、ギャングたちが店主を人質にしていた。

「金を出せぇぇっ! さもねえと、この店、蜂の巣にしてやる!!」

 

 だがその声が終わる前に。

 

 パン! パン! パン! パン!

 

 乾いた銃声が四発。

 

 ギャングたちの両腕と両足に、見事に弾丸が突き刺さった。

 銃が宙を舞い、砂埃と悲鳴が同時に上がる。

 

 のび太はまだ眠そうにまばたきしている。

 

 一発も外していない。

 

 通りが静まり返る。

 空気が止まり、風の音さえ消える。

 

 店主:「……な、なにが起きたんだ……?」

 通行人:「い、今の……見えたか?」

 別の男:「弾丸が……空気をねじ曲げてたぞ……!」

 

 草むらの中、のび太はぼそりとつぶやいた。

「……ふわぁ……よく寝た……」

 

 そして、銃を合理くんに返す。

「これ、まくら代わりにしてたら冷たくて寝づらいね」

 

 ――この男、まだ寝ぼけている。

 

 合理くんはゆっくりと拍手をした。

「素晴らしい……やはり君は戦闘特化型昼寝生命体だ。

 反応速度、精度、すべてが人間の域を超えている」

 

 鈴木さん(美女)はうっとりと見つめる。

「まぁ……なんて頼もしい方。まるで眠れる王子さまが目を覚ましたみたい♡」

 

 町の人々も次々とざわめき始める。

「い、今の若造……何者だ……」

「まさか、新しい保安官か!?」

「いや、保安神(ガーディアン・エンジェル)だ……」

 

 いつの間にか、のび太は町のヒーロー扱いになっていた。

 

 そんな中、当の本人はというと――。

 

「(パンの袋を開けながら)ふぅ……おやつでも食べよっと」

「(興奮気味に)野比くん、その前に一つ聞かせてくれ。今の射撃、照準を合わせていたのか? それとも感覚的な補正だ?」

「んー……夢の中で、虫が飛んでたから、それを追い払っただけ……」

「虫……だと……?」

 

「(感涙)なんて……無意識の才能……!」

 

 合理くんは衝撃のあまり地面に座り込んだ。

「無意識下で四肢を正確に狙撃……まさか、脳の運動野が独立稼働しているのか!? 人間の脳構造の概念が……っ!!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

 のび太はパンをむしゃむしゃ食べながら言う。

「おいしいね、このパン。西部って意外とパンおいしいんだね」

 

「今はパンの話をしている場合ではないっ!」

 

 その時、どこからともなく拍手が沸き起こった。

 町の住民たちが口々にのび太を称え始める。

 

「すげぇ! 一発でギャングを沈めやがった!」

「いや、四発だ」

「でも全部命中だぞ!? 腕と足だけを正確に撃ち抜いた!」

「まるで伝説の早撃ちジョニーが生まれ変わったみてぇだ!」

 

 気がつけば、のび太の周りに子供たちが集まり、目を輝かせていた。

 

「おじさんすげー!」

「おじ……!? おにいさんでしょ!!!」

 

 合理くんはこの熱狂を見逃さなかった。

「ふむ……世論の形成速度、約12分。群衆心理の高揚レベルB。

 この勢いを利用すれば――」

 

 彼はポケットからメモ帳を取り出した。

 そこにこう書く。

 

 『野比のび太:モルグ・シティ臨時保安官に任命(予定)』

 

「野比くん。君の名声を利用して、町の治安を掌握する。

 つまり我々は、正義と経済を両立した社会システムの再構築を――」

 

「もうっ! 難しい話はいいってばぁ!」

 のび太はパンをかじりながら手を振った。

「僕はただ、昼寝してただけなんだもん!」

 

 その瞬間、鈴木さんが言った。

「けれど……その昼寝が、この町を救ったのですわ♡」

 

 町の鐘が鳴る。

 夕陽が三人の影を伸ばす。

 

 のび太は帽子を目深にかぶり直した。

「……ま、いいか。どうせ帰れないし。次の昼寝場所、どこにしようかな」

 

「野比くん、次の昼寝は報酬付きだ。宿代は僕が建て替えておく」

 

「……なんか悪い予感しかしないよ……」

 

 

 

◇◇

 

 

 

その時、砂煙を上げて駆けつけてきたのは町長と、その娘だった。

 

 町長はあんぐりと口を開け、息を切らして叫ぶ。

「ぼ、坊主……今のは、お前が……?」

 

「え? えーっと……あの、虫を……撃っただけ……?」

 

「虫を……撃ったら、ギャングが倒れた……だと……?」

 

 娘の方はというと、完全に目をハートにしていた。

「なんて腕前なの……♡」

 

「あ、あの……目がハートになってますけど……」

 

「きゃっ! ごめんなさいっ♡」

 彼女は顔を真っ赤にして口元を押さえる。

 

 だがもう、町全体の熱気は止まらなかった。

 

 「ヒーローだ!」「救世主だ!」「町が救われた!」

 人々は口々に叫び、のび太を囲む。

 肩を叩かれ、帽子を奪われ、パンを半分こされる。

 

「ちょ、ちょっと! 僕、おやつ中なんですけど!!」

 

 やがて群衆の中から誰かが叫んだ。

 

「彼を――保安官にしよう!!!」

 

 歓声が爆発する。

 

 町長は顔を真っ赤にして、ブリキの星型バッジを取り出した。

 そして、のび太の胸にそれをバシッとつける。

 

「保安官……名前を聞かせてくれ、若いの!」

 

 のび太は、動揺して声が裏返る。

「え、あ、えっと……僕、のび太って言います!」

 

 その瞬間。

 

 合理くん(青年)が、颯爽と一歩前へ出た。

 ロングコートの裾が翻り、彼の声が空気を切り裂く。

 

「――彼の名は、保安官ノビータ。」

 

 群衆がどよめく。

 

「この町の平和を守るために、正義と秩序の契約を結びに来た――それが我々だ」

 

「え? 契約? なにそれ? 僕そんなの聞いてないよ!?」

 

 だが町の人々はもう耳を貸さない。

 「ノビータ!」「ノビータ!」の大合唱である。

 

 町長の娘は涙ぐみながら手を握る。

「保安官ノビータさん……どうか、この町をお守りください……!」

 

「え、あの、ぼ、僕……お昼寝してただけで……」

 

「素敵! 昼寝から起きただけで世界を救うなんて、まるで詩人ですわ!」

「いやいや、寝てただけなんですって!!」

 

 その様子を横で眺めながら、合理くんは冷静に一礼した。

「町長。今後、保安官ノビータの職務内容と報酬について話し合いたい」

 

「ほ、報酬?」

 

「はい。命のリスクを伴う職務には、それ相応の危険手当が必要です。

 加えて、ギャング壊滅後の成功報酬。

 それと、町の防衛体制を維持するための管理費用(マネジメントフィー)――」

 

「え、ええと……」

 

「契約書はこちらにございます」

 合理くんはいつの間にか机を出し、紙束を広げていた。

 そこには信じられないほど整然とした文字で、「保安官業務委託契約書(ドラフト版)」と書かれている。

 

 娘が目を丸くして尋ねた。

「あなたたちは一体……?」

 

 合理くんは微笑む。

「私は彼のマネージャー兼、参謀です」

 

 鈴木さん(美女)が一歩前に出て、にこやかに会釈した。

「そして私が、その補佐官にして妻ですわ」

 

「え!? 妻!? いつ結婚したの!?」

 のび太がびっくりして叫ぶ。

 

「演出だ、野比くん。ビジネスには信用が必要だ」

 

「演出って言っちゃったよ!!」

 

 だが、町の有力者たちは完全に信じ込んでいた。

 「さすが東部から来た紳士だ」「奥方も知的だ」「文明の香りがする」

 その場の空気は、もはや合理コンツェルンの支配下である。

 

 合理くんは指を鳴らし、町の地図を広げた。

「さて――次にすべきは、ギャング本体への備えだ」

 

「備え?」

「防衛計画を立てる。武器、人員、資金……すべてをファンドレイジングでまかなう」

 

「ファ、ファンド……な、なんだそれ?」

 

「簡単に言えば、寄付をもらってお金儲けする方法です」

 

「えぇぇ!? なんか怖いぞその説明!!」

 

 のび太は必死に抵抗するが、もう止まらない。

 合理くんの言葉は滝のように流れ出す。

 

「保安官ノビータの存在は、町のブランド価値を高める。

 観光収入、警備契約、保険料の引き上げ……それらを組み合わせれば、

 治安で稼ぐ町としてのポジション確立が可能だ」

 

「な、なんか嫌な予感しかしないんだけど!?」

 

「そして、最終的には西部最大の安全投資都市へ。

 これが我々のビジョンだ!」

 

 拍手喝采。

 

 鈴木さんは満足げに頷いた。

「さすが正義さま。経済の風が、あなたを中心に吹いておりますわ♡」

 

「よく分からんが……何かすごいことを言ってる気がする……!」

 

 気づけばのび太は、胸の星バッジが眩しく輝く保安官の姿になっていた。

 帽子のつばを下げ、町の人々に囲まれる。

 

「ねえ、保安官さん! またギャング来たら撃ってね!」

「え、えぇ!? もう来なくていいよぉぉ!」

 

 合理くんはその隣で、早くも次の策を練っていた。

「さて、まずは町の防衛組織を株式会社化しよう。株式を分散してリスクを……」

 

「だから難しい話はやめてぇぇぇ!」

 

 夕陽が沈みかけ、町の看板が赤く染まる。

 WELCOME TO MORGUE CITY - POPULATION: 150

 

 新しい数字が、ゆっくりと書き換えられた。

 

 「151」

 

 誰かが生き延び、誰かが帰ってきた証。

 それは――保安官ノビータ、誕生の瞬間だった。

 

「(頭をかきながら)僕、どうしてこうなっちゃったんだろ……」

「人は、眠っている間に運命を引き当てるものさ」

「うふふ♡ これであなたも、伝説の男ですわね」

 

「……せめて、もう一回昼寝してもいい?」

 

「いいだろう。ただし、寝る間にも入場料を取る」

 

「やっぱりビジネスかぁぁぁ!!」

 

こうして――

眠って起きたら英雄になっていた男、保安官ノビータ。

彼の背後で、冷静に契約書を束ねる参謀と、優雅に微笑むマダム。

 

西部の町モルグ・シティは、いま――

歴史と経済の両輪で回り始めたのであった。

映画版に突入

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