俗物少年合理君 作:この俗物怪物くん
静まり返った図書館。
窓から差し込む午後の日差しが、机の上にうず高く積み上げられた本の山を照らしていた。
そこに――青い頭が一つ、半分埋まっていた。
ページの海から顔を出したドラえもんが、絶望的な声で唸る。
「ダメだぁぁぁ〜〜! 広すぎるぅぅ〜〜!」
机の上には『アメリカ西部史』『鉄道と開拓の時代』『19世紀経済地図大全』『荒野の決闘・完全資料版』などなど、見るからに重そうな本が山になっている。
ドラえもんのひげはくたびれ、目の光も曇っていた。
「……19世紀のアメリカなんて広すぎる!
のび太くん、どこに行っちゃったんだよ〜〜〜っ!」
その叫びに、図書館の司書が小声で注意する。
「静かにしてくださぁい(怒)」
「す、すいません〜〜!」
声をひそめても、焦りは収まらない。
なにせ、のび太が本物の西部時代に飛び込んでから、もう数日。
タイムマシンの信号は途絶えたまま。
もしや、荒野の真ん中で砂になっているのでは……。
ドラえもんの脳内では、干からびたのび太のイメージがリピート再生されていた。
その時だった。
ドタドタドタッ!
図書館の自動ドアが勢いよく開く音。
息を切らせて駆け込んできたのは、出木杉英才だった。
「ドラえもんくん! いたっ!」
「ひゃあっ!? びっくりしたぁ〜!出木杉くん、図書館では静かにぃぃ〜!」
出木杉は申し訳なさそうに手を合わせつつ、腕に抱えた雑誌を机にバンッと置く。
「ごめん! でも、これはただ事じゃないんだ!」
「(ぐったりと)……また、のび太くんがテストで0点を取った記事?」
「違うっ!!」
出木杉が開いたのは、アメリカの有名経済誌『フォーブス』のバックナンバー。
表紙には、金色のロゴと共に――「MORGUE SECURITY:THE LEGEND OF PEACEKEEPERS」の文字。
「ドラえもんくん、この記事を見て!」
ドラえもんは雑誌を覗き込み、うんうん唸る。
「えっと……伝説の警備会社モルグ・セキュリティ、創業144周年記念……? なにこれ、映画の広告?」
「違う。アメリカでもっとも古い民間警備会社の記事だよ。
創業は1881年――ちょうど、のび太くんが行った時代なんだ!」
出木杉の目は真剣そのもの。
「……そして、創業者たちの名前を見て!」
ドラえもんは指で行をなぞる。
Founders: Justin Gory, Sasha Shvii, and… Nobita Nobi.
次の瞬間――。
「……え?」
「……ん?」
「……の、の、ノビータ・ノビ!?!?!?」
図書館中に響き渡る大絶叫。
「(司書)静かにしてくださぁい!!」
「すいません!!!」
ドラえもんの目がぐるぐる回る。
フォーブス誌には、年老いた三人の肖像画が載っていた。
帽子をかぶった紳士(ジャスティン・ゴーリー)、ドレス姿の貴婦人(サーシャ・シュヴィ)、そして――なぜかガンマン姿でウインクしているのび太そっくりの男。
「これぇぇぇっ!! どう見ても、のび太くんだよぉぉぉぉ!!!」
「僕も最初は信じられなかった。でも、記事の内容を読んで確信したんだ!」
彼は記事の一部を指差す。
創業者ノビータ・ノビは、卓越した射撃能力と驚異的な睡眠力を兼ね備えた天才戦略家であり…
彼の昼寝しながら勝つ戦法は、後に企業文化の基礎となった。
「昼寝しながら勝つって……完全にのび太だよぉぉぉ!!!」
出木杉はページをめくりながら、さらに驚くべき事実を語る。
「この会社、なんと当時のギャング撲滅で莫大な利益を得たらしいんだ。
保安官事業、金融支援、そして――未来投資ファンドっていう謎の事業まで展開している」
「未来投資ファンド!? 1881年に!?!?」
「うん。どうも合理的思考の発明者ジャスティン・ゴーリーという人物が主導したらしい」
「……合理……? それって、まさか――!」
二人の脳裏に、黒いロングコートを翻す青年の姿が浮かぶ。
冷静沈着、計算高く、何よりも口が回る――あの男。
「合理くんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「しかも、共同創業者サーシャ・シュヴィの肖像画……見てください」
「(指でトレースしながら)うんうん……って、これ完全に鈴木さんじゃないのぉぉぉぉぉ!!!」
「名前の由来もSuzukiのロシア語訛りだそうです」
「やっぱりぃぃぃぃ!!!」
つまりこうだ。
19世紀アメリカに取り残された三人――のび太、合理くん、鈴木さん――は、
そのまま西部で事業を立ち上げ、
気づけばアメリカ最古のセキュリティ企業の創業者になっていた。
ドラえもんは頭を抱え、机に突っ伏した。
「うう……のび太くん……君、また歴史を変えたね……」
「(冷静に)歴史どころか、資本主義そのものを変えてるね」
「うぅぅぅ……! 帰ってきたら宿題どころじゃないよぉ!」
出木杉は雑誌の末尾を指差す。
「それだけじゃない。見て、ここの企業理念の欄!」
ドラえもんはおそるおそる読む。
『我々の経営理念:眠る者こそ、世界を制す』
――創業者ノビータ・ノビ
「ちょっと待って!? のび太くん、完全に自分の昼寝を正当化してるじゃないのぉぉぉ!!!」
その瞬間、図書館のスピーカーが鳴った。
『ピンポンパンポーン♪ 本日は閉館時間となります。ご利用ありがとうございました』
「閉館だね」
「(ぐったり)出木杉くん……僕、しばらく寝込みそう……」
しかし出木杉は、真剣な表情で雑誌を閉じる。
「でもドラえもんくん……この記事の最後の一文、見た?」
「え?」
出木杉は静かに読み上げる。
創業者ノビータ・ノビの子孫は、現在も日本に在住しているという。
「…………」
「…………」
「……まさか……」
二人の顔が、同時に真っ青になる。
「の、のび太くん……今も子孫がいるの!? ていうか、君、結婚したのぉぉぉ!?」
「奥さんって……誰!? ま、まさか鈴木さん……?」
「いや、ノビータ・ノビJrの顔写真が載ってる……うわ、似てるぅぅぅ!!!」
ドラえもんは頭を抱えながら叫ぶ。
「のび太くん! 君、未来を救うどころか、西部で一族を築いてたのかぁぁぁ!!!」
「でも考えてみれば、彼らしいよね。
どんな時代でも、昼寝して、たまたま助けて、結果的に世界を変える」
「たまたまが過ぎるんだよぉぉぉ!!!」
こうして現代の図書館に響く、青いロボットの悲鳴。
その横で、出木杉は冷静にメモを取りながら呟く。
「……ということは、僕たちがのび太くんを助けに行ったら、創業前の彼に会うことになるんだね」
「え!? な、なんかややこしい時間軸の話になってきたぞぉぉぉ!!!」
ドラえもんの叫びをよそに、出木杉の目はすでに光っていた。
「行こう、ドラえもん。僕たちも投資しに行くんだ」
「いや、それ完全に合理くんのノリだよぉぉぉ!!!」
フォーブス誌の表紙が、再び光に照らされる。
そこには、勇ましい笑みでウインクする創業者の肖像。
――保安官ノビータ、のちの伝説の起業家ノビータ・ノビ。
時を越え、昼寝の力が資本を生んだその物語は、
まだまだ続くのであった。
◇◇
モルグ・シティのメインストリートに、夕陽が沈みかけていた。
空気は乾き、風が吹くたびに砂塵が巻き上がる。
その中に立つのは、一人の青年――胸にはブリキの星。
保安官ノビータ、初仕事である。
だがその膝は、星よりも早く震えていた。
「ど、どうしよう……本物だ……! ゲームじゃない……! 弾が当たったら死んじゃうんだぁぁ!」
額の汗が、もはや滝。
その前方では、馬にまたがった十数名のギャングが、不敵な笑みで包囲していた。
彼らのボス――黒いテンガロンハットの男が、歯を剥いて笑う。
「どうした、若いの! さっさと撃ってこいよ、保安官サマぁぁ!」
群衆のどよめき、風の唸り、カラスの声。
のび太の背中には、妙に軽いリボルバー。
だが、その軽さが今は重い。
「う、うわあああああああ!!!」
叫んだ瞬間――パン! パン! パン! パン!
のび太は完全にパニック。目を閉じて、無秩序に発砲。
銃弾は空を裂き、地面を削り、遠くの看板を撃ち抜き、偶然ギャングの帽子を吹き飛ばした。
「ぎゃっ!? お、俺の帽子ィィ!」
「今の当たったのか!?」
「いや、狙ってねぇだろ!!」
ギャングたちは一瞬ひるんだが――すぐに気づいた。
カチッ。カチッ。
のび太の銃が、虚しく音を立てる。
――弾切れ。
ギャングのボスがにやりと笑った。
「はっはっは! 弾切れか、坊やのお遊びは終わりだ! 野郎ども、かかれぇぇ!!!」
馬の蹄が地を蹴る。砂が舞い、町の人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。
のび太は腰を抜かし、銃を落としそうになりながら叫ぶ。
「ひぃぃぃぃっ! 合理く〜〜ん!!」
その瞬間――。
カチャリ。
横から銀色の光が差した。
そこに現れたのは、白いシャツをぴしっと着こなした青年。
片手には銀のトレイ、その上にはスピードローダーと弾薬が美しく並べられている。
「お待たせしました、保安官ノビータ様。追加の弾でございます」
「……ウェイターかぁぁぁ君はぁぁぁぁぁ!!!」
合理くん(青年)は一切動じず、砂塵の中でネクタイを直す。
「落ち着きたまえ、野比くん。これは君が得意なゲームと同じだ。
敵の弾に当たらず、敵に弾を当てる――ただそれだけの単純な作業だろう?」
「そ、そんな冷静に言うなよ! あっちは命懸けなんだよぉぉぉ!!」
「君も命懸けだろう。条件は公平だ」
「フェアじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
合理くんは銃に弾を込めながら、落ち着いた口調で続ける。
「君がパニックになるのは、脳の前頭葉が過剰反応しているからだ。
だが、冷静さを取り戻せば、人間の反射神経は自動的に――」
「うるさい! いまそんな話聞きたくないぃ!!」
ギャングたちは目前まで迫っていた。
砂煙の向こうに、ナイフと銃の光。
のび太は恐怖で手が震え、弾を落としそうになる。
――その時。
パン!
鋭い銃声。
何かが空を切って飛んだ。
ギャングたちが一瞬止まる。
彼らの視線が向いたのは――のび太ではない。
合理くんが、片手で優雅に銃を構えていた。
だが、彼の弾は――ギャングのはるか上空の看板を撃ち抜いていた。
「……お、おい、外してねぇか……?」
合理くんは眉をひそめる。
「ふむ、風速を考慮しすぎたかもしれない」
パン!
今度は地面を撃った。
ギャングの足元に土煙が上がる。
「うわっ、なんだ!? 地面狙ってどうする気だ!?」
のび太は思わず吹き出した。
「ぷっ……ぶはははははっ! 合理くん、全然当たってないじゃないか! ひどいなぁ!!」
合理くん(青年)は真顔で答える。
「む? 計算上は完璧なはずだが。理論値では、全員同時に倒れている」
「どんな理論だよ!!!」
ギャングたちまで、呆れて銃を構えるのを忘れていた。
のび太は大笑いしながら、震えが止まっていくのを感じた。
あれほど恐ろしかった銃声が、今は遠く聞こえる。
心臓のドキドキも、なぜかリズムよく整ってきた。
「……あはは……そっか、なんだ、ゲームと一緒か!」
「その通りだ、野比くん。勝率はデータ上で君が圧倒的だ」
「なら――行くよ!」
◇◇
砂塵が吹き荒れるモルグ・シティのメインストリート。
つい先ほどまで、ギャングたちの笑い声が響いていた。
だが今、笑っているのは――保安官ノビータただ一人だった。
彼はリラックスしていた。
もはや恐怖も焦りもない。
その目は澄みきり、動きは滑らかで、まるで踊るように――いや、射撃の舞だった。
「パン! パン!」
銃声がリズムになる。
飛んでくる弾丸を、のび太は首を傾けるだけで避け、
その反動の流れで逆方向へ回転しながら、敵の腕を正確に撃ち抜く。
「ぎゃあっ!」「俺の足がぁ!」「銃がぁぁぁ!」
観客がいれば、確実にスタンディングオベーション。
町の住人が呆然と見つめる中、合理くんは冷静に腕を組む。
「ふむ……見事だ。動的シミュレーション通りだな。
彼の射撃精度は、ゲーム時代の平均命中率98.6%。
だが今は――100%だ」
鈴木さんが横でうっとりと呟く。
「まあ……正義さまのおっしゃる通りですわ。のび太さん、本当に怪物ですわね」
そしてその「怪物」は、まだ撃ち続けていた。
「パン! パン! パン!」
銃声の合間に、靴音、息づかい、そしてギャングの悲鳴。
「当たれ!」ではなく「避けろ」
考える前に身体が勝手に反応していた。
西部の風が頬を撫で、砂が跳ね上がる。
「くそっ、このガキぃぃぃ!!!」
最後の数人のギャングが、血まみれになりながらも銃を構える。
指先は震え、引き金にかけた手には汗が滲んでいた。
「もうやめろ! 降参しろ!」
町の誰かが叫んだ。
だが、ギャングたちは引き金を引いた。
――その瞬間。
乾いた銃声が、町に響き渡る。
パン!
一瞬、時が止まった。
眉間に赤い穴が開き、ギャングのひとりが倒れる。
のび太ではない。
彼の後ろ――そこには、ドレスの裾をひらめかせながら、二丁拳銃を構える女がいた。
鈴木さん(美女)
風になびく髪、冷ややかな瞳、そして手首の角度ひとつまでが完璧。
もはやその姿は、西部の花でも淑女でもない。
――デリートの女神。
「正義さまのビジネスの邪魔はさせませんわ。
雑魚は速やかに排除(デリート)します」
パン! パン!
その声と同時に、残ったギャングたちは立つことすら許されず、次々と地に伏していく。
無駄のない射線。
まるで計算された舞踏。
撃ち抜かれた銃が宙を舞い、地面に突き刺さる。
「ひ、ひいいっ! この女、化け物だ!!」
「もうやめてくれぇぇぇぇ!」
もはや抵抗する者は一人もいない。
静寂。
硝煙の香りが漂う中、合理くん(青年)は後方で優雅に拍手をした。
「素晴らしい。リスクの完全な排除。完璧なオペレーションだ」
鈴木さん(美女)は微笑みながら銃をくるくる回し、ホルスターに収める。
「ありがとうございます、正義さま♡ 愛する方の利益を守るのが、私の信条ですわ」
のび太(青年)は、その隣で放心していた。
「ぼ、僕……何してたんだっけ……?」
「戦っていたよ。寝起きにしては上出来だ」
「寝起きにしては!?」
やがて、倒れたギャングたちの間を、風が通り抜ける。
町の人々がそっと顔を出した。
子ども:「す、すげえ……」
老人:「あの保安官、まるで神様だ……」
町長:「あ、あんたたち……人間、だよな?」
合理くんは微笑みながら、書類を取り出す。
「ええ、もちろん。合法的かつ倫理的に町を救いました。
さて――保安官ノビータの成功報酬ですが」
「もう金の話かぁぁぁ!!」
その時だった。
遠くの丘の上で、馬の嘶きが響いた。
視線を向けると、逆光の中に二つの影。
ひとりは黒いマントを翻した覆面ガンマン、
その背中には――小さな影。
風が止まり、太陽が雲間から覗く。
覆面ガンマン(ドラミ):「そこまでよ!」
その声は、妙に高く、澄んでいた。
鈴木さん:「まあ……また敵ですの?」
合理くん:「いや、待て。どこかで聞いた声だ」
のび太(青年)は、まぶしそうに目を細めた。
「……まさか……」
丘の上から、もう一つの声が響いた。
「のび太くーーーん!! 無事かーーい!!!」
青いボディ、丸い頭、そして――テンガロンハットを被ったロボット。
「ど、ど、ドラえもん!!??」
町全体に、のび太の絶叫が響いた。
その背後で、鈴木さんは拳銃を構える。
「正義さま、未知の生命体です! 排除を!」
「ちょっ、ちょっと待って! 撃たないでぇぇぇ!!!」
ドラえもんは馬を降り、息を切らして走り寄る。
その後ろから、覆面を取ったドラミが現れた。
いつも通りのリボン、ただし今日は西部風の黒ずくめ。
◇◇
砂塵が晴れたモルグ・シティ。
戦いの終わった通りには、静寂と焼けた硝煙の匂いが漂っていた。
ギャング団は全滅。
町は守られ、保安官ノビータの名は、すでに子どもたちの口から口へと語り継がれ始めていた。
だが――。
「のび太くーん!!」
丘の上から響く声。
テンガロンハットをかぶった青い影と、その隣にいる黄色い影が、馬にまたがって駆け下りてくる。
砂を巻き上げながら現れたのは、覆面を取ったドラえもんとドラミだった。
ドラミは腰に手を当て、ぷんすか怒っている。
「お兄ちゃんがタイムマシンを失くしたって、未来で大騒ぎになってたのよ! 私がスペアを持ってきてあげたわ!」
ドラえもんは、気まずそうに頭をかく。
「はは……うっかりしてたというか……西部が想像以上に広すぎたというか……」
のび太(青年)は、タイムふろしきを広げて自分にかぶせ、ぱっと元の姿――小学生ののび太に戻った。
「ドラミちゃん、ありがとう! 助かったよ! もう腕試しもできたし、満足だ! さ、帰ろう!」
彼はさっさと帰り支度を始める。
――だが、その背中をがっしりと掴む影があった。
「待て、野比くん」
声の主はもちろん合理くん。
小学生に戻っても、相変わらず背筋がピンとしている。
「えぇぇぇ!? もう帰ろうよ! お別れなんて言ったら、悲しくなるじゃないか!」
「支援者への挨拶もなしに去るのは、重大なマナー違反だ。礼儀はビジネスの基本だよ」
のび太は目を白黒させる。
「でも、もう用事ないでしょ!? 悪い人もいないし!」
「ある。町長とはモルグ・シティの復興支援に関する次の契約の話が残っている」
「契約って何さ! もうお金の話やめようよぉぉ!!」
鈴木さん(美女)も優雅に微笑む。
「正義さまの事業拡大、楽しみですわ♡」
「お前たち本当に会社作る気かぁぁぁ!!!」
結局、合理くんに首根っこを掴まれたのび太は、
ズルズルと引きずられながら町長のもとへ連行された。
町長は涙を流して迎えた。
「おお、救世主よ! 保安官ノビータ! あなたがいなければ、この町はハゲタカの餌になっていた!」
町長の娘も目を潤ませて手を差し出す。
「もう一度、お会いできて光栄ですわ……!」
のび太は顔を真っ赤にして、手を振る。
「い、いやぁ、そんな、大したことは……たまたま弾が当たっただけで!」
だがその横で、合理くんが満面の営業スマイルを浮かべていた。
「町長、こちらが復興支援の初期契約書です。人員派遣、資材供給、治安維持すべてパッケージプランで。
長期契約にすれば割引もつけましょう」
町長:「え、えぇ!? えぇと……」
「さらに! こちらがセキュリティ事業の提案書です。町の警備を外部委託して頂ければ、犯罪発生率は100%減少間違いなしです!」
「もうギャングいないんだけど!!」
だが町長は感動で震えながらサインしてしまった。
「ありがとう! 本当にありがとう! あなたたちは、この町の恩人だ!」
合理くんは握手を交わしながら、満足げに頷く。
「ええ。今回の事業は社会貢献型プロジェクトです。報酬は未来への利子で構いません」
「何そのカッコいい言い方ぁぁ!!!」
全ての契約を完了させ、のび太一行はようやく町を後にすることになった。
夕暮れの空の下、彼らはドラミの持ってきたタイムマシンに乗り込む。
未来へと帰る準備が整う中、合理くんは静かに航行記録モニターを見つめていた。
「ふむ……」
「何か見つけたの?」とドラえもんが覗き込む。
「いや、少々面白いことになっている」
モニターには、時空の流れの中で変化するモルグ・シティの歴史が映し出されていた。
焼け野原だった町は、数十年のうちに再建され、鉄道が通り、活気ある街へと変貌していく。
そして、画面の端に出てくる文字――
「MORGUE SECURITY COMPANY – EST. 1881」
そこには、新しい看板を掲げる町長とその娘の姿があった。
ドラえもんが目を丸くする。
「うわぁ! モルグ・セキュリティ!? 町長さんたちが会社を作ったのか!」
合理くんは口元を緩めた。
「我々の活動がベンチマークになったようだ。優秀な経営判断だね」
鈴木さん(美女)も満足げに頷く。
「まあ……正義さまの精神がこの町に根付いたのですわ♡」
「それ、どんな精神!?」
画面が切り替わる。
そこにはモルグ・セキュリティの本社ビルのロビー。
壁には古びた額縁が飾られている。
一枚の記念写真。
そこには、創設者である町長親子の後ろ――
少し離れた位置に立つ三人の姿が写っていた。
長身のガンマン。
伊達男風のマネージャー。
そして、その隣で微笑む美しい妻。
その下のプレートにはこう刻まれていた。
> 「町の創設に協力した、謎のガンマンとマネージャー夫婦に感謝を捧ぐ」
のび太は目を見開いた。
「あっ! 僕たちのことだぁぁぁ!!」
「本当だぁ! ちゃんと写真まで残ってるよ!」
「ふふっ、なんだかロマンチックね」
鈴木さん(美女)は頬に手を当て、嬉しそうに微笑む。
「まあ……まるで本当に夫婦みたいですわね、正義さま♡」
「設定上、そういうことになっていたからね」
「設定って言うなぁぁ!!」
のび太は写真を食い入るように見つめた。
当時の自分――いや、“あの時の大人の自分”が笑っている。
少し照れくさそうで、それでも誇らしげに。
「……なんか、悪くないな」
「そうだろう?」と合理くん。
「歴史とは、投資の積み重ねだ。小さな善意が、大きな資本になる」
彼はアタッシュケースを撫でながら、満足げに微笑んだ。
「今回の投資も、大成功だったな」
ドラえもんは苦笑する。
「まったく……のび太くんがいない間に、どれだけ未来に影響を与えてるんだか」
「へへっ。でも、ちょっとだけ嬉しいや。僕、ちゃんと役に立てたんだね」
「いや、半分は鈴木さんと合理くんの功績だけどね」
「……ぐぬぬ」
タイムマシンが光に包まれる。
モルグ・シティの夕陽が、ゆっくりと遠ざかっていく。
その光景を見送りながら、のび太はポツリと呟いた。
「また行けるかな、西部……?」
「次行くときは、事前に申請してくれ」と合理くん。
「申請!?」
「時間旅行はプロジェクト単位で管理されるべきだ。今回は例外だよ」
「なんか堅苦しくなってきたなぁぁぁ!!」
タイムマシンが時空を抜け、やがて現代ののび太の部屋に着地した。
「ふぅ〜〜、帰ってきたぁぁ!! やっぱり自分の布団が一番!」
のび太は速攻でゴロン。数秒で寝息を立てた。
合理くんはその姿を見て、腕を組む。
「なるほど。生産性ゼロだが、ストレス回復速度は異常に高い。
やはり彼は人類最強の休息特化型個体だ」
「褒めてるようで全然褒めてないよそれ!!!」
窓の外では、未来の光が一瞬きらりと瞬いた。
――あの西部の町では、今日も「モルグ・セキュリティ」の看板が風に揺れている。
そこに刻まれた文字の横には、小さな銃弾の跡。
おそらく、それは最初の保安官――ノビータが残した、世界で最も幸運な一発だった。
映画版に突入
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しない