東方幻想華   作:kanade minazuki

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第二話 人里へ

 時々、身に覚えのない誰かの記憶が断片的によぎる。

 

 記憶の中に登場する人物は、どれも靄がかかったようで認識することができない。そして、その記憶も時間が経てば、まるで夢のように忘れてしまう。

 

 今回の記憶は、ある妖怪と人間の子供の出会いの一部だった。

 

 

 

 ――――、

 

 

『――こんな森の奥底にいたら危ないよー?』

 

 

『……どうしてかって? そりゃ――私みたいな悪い妖怪に食べられちゃうからね』

 

 

『あはは、冗談、冗談。流石に子供を襲う趣味はないから安心して』

 

 

『……迷い込んでしまったの? なるほど、それは大変ね。ここら辺は私含め、食人妖怪が多いから尚更』

 

 

『むぅ……仕方ない。近くに神社があるからそこまで送っててあげる。その神社にいる巫女さんは物凄く強いのよ? 私も勝てたことが一度しかないぐらいにね。だから、安全に里まで帰してくれるはずだわ』

 

 

『それじゃ、空を飛ぶからしっかり私に掴まっててね。あら、別にこれぐらい普通のことよ?』

 

 

 

 ――――記憶がプツンと途切れる。

 

 それと同時に意識が薄れて……いや、鮮明になっていくのだった。

 

 

 

「――い」

 

 

 誰かが自分に呼び掛けている。

 

 

「――い?」

 

 徐々にそれはハッキリと聞き取れるようになる。

 

 

「おーい!」

 

「……あれ」

 

「やっと反応したか……まったく、何ボーっとしてるんだ。早く準備しろよなー」

 

「……あ、あぁ、すみません。異変解決に向かう準備ですよね? それなら既に終わって――」

「いや、朝食の準備」

 

 ……。

 

「はぁ!?」

 

 昨夜に続き、今日も朝から使いパシリにされるのだった。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「よし! 無事朝食も済ませたことだし、作戦決行に取り掛かるぞ! えーっと……ありゃ、そういやお前の名を聞いてなかったな」

 

 言われてみれば、名前を名乗っていなかったことに気が付く。

 

「……えっと、僕のことはかなでと呼んでください」

 

「ふむ、妖怪にしては中々センスのある名だ。十点満点中七点ってとこかな」

「人の名前を点数付けしないでください……」

 

 巷で噂されている通り、無神経な性格だと改めて思う。

 

「はぁ……とりあえず最初に向かうのは人里でしたよね?」

 

「そう、その通り。今の里は少数の者で防衛に回っている状況なんだ。ま、勿論それが長く持つはずもなく、防衛メンバーのうち何人かが既に暴走化してしまっている」

 

「里に住む人たちはどうなっているんですか?」

 

「……六割は暴走化、三割は死亡、残りの一割は行方不明だ」

 

「……な」

 

 想像以上に被害が酷く、思わず戦慄してしまう。

 

「そろそろ行こう……準備はいいか?」

 

「……えぇ、早く行きましょう」

 

 心の準備が全く出来ていないのだが、時間が惜しいので諦めて行くしかない。

 

「よーし! なら出発――って、ん?」

 

 突然、魔理沙が僕の背後を見つめて固まる。

 何だろうかと、自分も振り返ると――、

 

 

「シャ シャンハーイ」

 

 そこには、かわいらしい人形が浮遊していた。

 

「アリスの人形じゃないか。どうしてコイツがここに……」

 

「……か、かわいい」

「ほう?」

 

 魔理沙がニヤニヤしながら僕の顔を見つめる。

 

「っな、い、いや! 別にこういうのが好きってわけじゃ……!」

 

「……なるほどなるほど、意外と可愛いところがあるじゃないか」

 

「黙 っ て く だ さ い !」

 

「まぁまぁ、そんな怒んなって。お詫びにアリス家から沢山人形盗ってきてやるからさ」

 

「オイ!」

「ちょっ!? 冗談、冗談だから、叩くなぁ!!」

 

 魔理沙と人形がじゃれ合う。

 

「というか、その人形がアリスさんのものなら返しに行った方がいいんじゃ……?」

 

「ん、いや、アリスなら近くにいると思うぞ。この人形はアリス自身が動かしているものだからな。な、そうだろ?」

「アリス イエニイル」

 

「……家に居るそうですが」

 

「マジか」

「マジ オオマジ」

 

「……おおかた、新作人形の試験中ってとこか。そんで、私たちに何か用があるのか?」

 

「ツレテッテ」

 

「悪いな。生憎とこれ以上お荷物を増やしたくないんだ」

「え」

 

「ツレテケー!」

「ダメだ、ダメだ!」

 

「いいや、連れていきましょう!!」

 

「お前、人形が可愛いから連れていきたいだけだろ!」

 

「そう……いや、勝手に決めつけないでください! もしかすると、アリスさんなりの考えがあって、この子を派遣してくれたのかもしれません」

 

「……確かに」

 

「じゃあ、決まりですね」

 

 ……これで、この先少しは心が安らぎそうだ。

 

「ま、いいか……いざとなれば囮にも使えるしな」

「ハッ!?」

 

 もうこの人、博麗霊夢より冷酷だろ。

 

「なら、コイツの面倒はお前がしっかり見るんだぞ」

 

「任せてください、命に代えてもお守りします!」

「命に代えちゃダメだろ」

 

「ハァ……」

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 ――落ちていく桜の花びらを見ていると、ふとこう思う。

 

 こんなにも綺麗な桜なら、間違いなく美味い酒が飲めそうだ、と。

 

「ってことで、どうだ? 休憩がてらに一杯でも」

 

「……そ、そんな余裕、ありません」

 

 ま、それもそうか。

 

 かれこれ出発してから三十分ほど。

 道中、暴走化した妖精の集団と四回も交戦。奏はタイミング悪く暴走しかけたり、妖精に突進されて地面へと落下したりと踏んだり蹴ったり。

 流石に里に着く前に体力が尽きたとか本当に洒落にならないので、私と箒を相乗りさせる形で休ませている。

 

「ザコ」

 

「……うぅ」

 

「ま、普通の妖怪ならこんぐらいだろ。むしろ、まだ一度も死んでないだけ優秀だ」

 

 長い森を抜け、里の入り口へと近づく。

 

 ……心臓の鼓動が落ち着かない。

 もとより、霊夢が行方不明になってから焦りが増していた。それが、里の崩壊寸前ともなると、余計に酷くなるのは当然か。

 

 ……慧音や妹紅は無事だろうか?

 いくらアイツらでも、この桜の影響を避けることができるわけない。あの霊夢が破れた可能性があるのだから。

 

「……あれは、人の死体、か」

 

 里に近づくにあたって、暴走化した者に襲われたであろう人の死体が見えてくる。

 

「ひっ……! し、死体、ですか……!?」

 

「なんだ、妖怪なら見慣れたもんじゃないのか?」

 

 幻想郷にいる妖怪の半分は、人間を主食とする食人妖怪だ。

 コイツからは微かに血の臭いが漂ってくるため、人を喰らう妖怪であることは明白だろう。

 

「……もしかして、菜食主義者?」

 

「違いますよ……そもそも、野菜じゃお腹膨れませんからね?」

 

 それもそうか。

 

「人は食べますよ、そういう妖怪ですから。だとしても、一度限りの命が尽きている様子を見て、単に美味そうだとか思えるわけないじゃないですか」

 

「へぇ、妖怪にしては実に人間らしい感性を持ってるんだな、面白いやつ」

 

 死に対して抵抗感の少ない妖怪が、そのような思考に至るやつはあまり見ない。

 過去に人間と絡みでもあったのだろうか。

 

「……と、これから里に入るぞ」

 

 気が付けば、里の門が目前に近づいていた。

 

「……っ」

 

 奏はゴクッと唾を飲んだ。

 

「目的地は稗田邸がある里の中心部だ。スピードを上げるぞ、しっかり掴まってろよ!」

 

 箒の速度を加速させ、勢いよく進む。

 

「……な」

 

 里に入ると、さっきとは比べ物にならないほど死体の量が増えていった。

 

「お、多くないですか……?」

 

「……おかしい。昨日よりも明らかに増えている」

 

「強い妖怪が暴走化したのかも……ほら、あっちの方なんて焼けたような痕跡も確認できますし……」

 

 ……焼けた痕跡?

 とすると、妹紅が戦った跡だろうか。

 

 いや、昨日ここら辺には、まだ多くの人が残っていたはずだ。

 そんなところで妹紅が戦うわけ……。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 

 ……ここに残っていた人々はどこに行った?

 

 

 

「――まさか」

 

 

 ――その瞬間、視界が炎に包まれるのだった。

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