炎が自分らを囲むように覆い尽くした。
「……ほう、暴走してるくせに頭が切れるらしい。こうすりゃ、私たちは逃げ場を失うわけだ」
魔理沙が吐き捨てるように言った瞬間、炎の中から渦が現れる。
「――――。」
その中にいるであろうモノは、耳障りで不快な音を発す。
「どうした、私に怖気づいてその渦から出てこられないのか? なぁ――妹紅」
「――繧後>縺ッ縺上l縺??縺上l縺??縺上l縺??縺」
魔理沙の挑発に反応したのか、そいつは渦の中から出てきて奇声をあげた。
「ひっ……!」
それは、もう人とはかけ離れた化け物だった。
かろうじて人の形は保っている。しかし、全身にノイズが濃く走っており、暴走化前の姿を連想することなど不可能に近い。
道中で対峙した妖精ですら、ここまでの重症化には至っていなかった。そもそも、それ以前にこんな悍ましい声すら発していなかったのだ。
「か、彼女は……魔理沙さんの知り合い、ですか……?」
「……まぁな。コイツは昨日まで、里の防衛を任されていたメンバーの一人だったんだが……こうなっている以上、防衛が正常に機能しているかすらも怪しくなってきた」
「そ、それって、つまり……」
「……どうだろうな。でも、今は考えている暇なんかない……やるぞ!」
僕は上海を安全な懐に入れると、いつでも動けるよう体勢を整えた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『――私は妹紅を引き付ける。お前は隙を見計らってアイツの暴走化を解く、いいな?』
僕は魔理沙に言われた通り、藤原妹紅の視界に収まらないよう接近しつつあった。
「ふふん、そんな鈍足じゃあ、私の速さには到底追いつくことができないぜ!」
「――縲√¥繧娯?補?輔?√%縲√j縲√!!」
魔理沙がヤツの気を引いている。
僕はその隙に速度を上昇させ、一気に距離を詰めるのだった。
――3、
――2、
――1、
「――今だっ!!!!」
手を伸ばし、能力を発動させた。
しかし――、
藤原妹紅の暴走化が解かれることはなかった。
「……え?」
まるで能力が拒まれるような感覚。
……一体何が?
「――??縺ッ縲√l縲√?縲√%??」
しかし、どうにせよ状況が悪化したことには変わりなかった。
「あ、あぁ……」
ヤツに気が付かれた、自分の存在を。
背中から嫌な汗が伝う。
「――縺ッ縺上?√∩縺薙?√?縺上∩縺!!!!」
藤原妹紅が奇声をあげると、瞬く間に大量の火球が生成された。
そして、ヤツは手を宙に挙げる。それが僕に向けての動作だと瞬時に理解した。
――怖い。
恐怖で身体が硬直する。
得体のしれない恐怖が自分を襲う。
動かなければ、避けなければ、殺される。
……それでも、身体は石像のように固まって動かない。
――ヤツの手が振り下ろされる。
「――させるかっ!」
途端、魔理沙が藤原妹紅に勢いよく突進したことで、放たれた炎の軌道が逸れる。
「お前の相手は私だ。これでも喰らえっ!!」
魔理沙はポケットから八角柱の魔道具を取り出し、体勢を崩した妹紅にそれを向ける。
「マスタースパ――」
「――繧薙j繧薙j縲√?縺上?√∩!!」
しかし、藤原妹紅の隙は一瞬で無くなり、魔理沙が魔法を発射するよりも速く大量の炎が放たれるのだった。
「――なっ!?」
炎は魔道具に命中し、魔理沙の手から弾き飛ばされる。
「私の八卦炉っ……!!」
魔理沙は慌てて箒を下降させ、魔道具に向かって手を伸ばす。
「――縺薙∩縲√%縺ソ縲√∩縲√?縺上?√l縺!!」
それをチャンスと見たか、藤原妹紅は炎を纏って魔理沙へ突撃した。
「――絶対通すものか!!」
僕は無謀にもヤツの正面に飛び出し、弾幕を撃つ。
「っ」
……予想通りだった。
僕のような弱い妖怪の弾幕など、いとも簡単に避けられてしまう。
「――繧後>縺ッ縺上l!!」
「ぐあっ……!?」
僕は見事に返り討ちに遭い、地面へと落下する。
「――奏、掴まれっ!!」
地に触れる寸前、何とか駆けつけた魔理沙が拾い上げてくれる。
「無事か?」
「あ……あ、あり…がとう、ござい……ます」
恐怖で身体が震え、まともに言葉を発せない。
「とりあえず、お前の能力は通じなそうだし一旦退こう。何の勝算もなく本気のアイツと戦うのは、流石に危険過ぎる」
魔理沙は歯を食いしばり、悔しそうな表情をする。
「……こうなれば、あの炎の壁を強行突破するしかなさそうだ。熱いと思うが、燃え尽きたりするなよ。こんなところで火葬なんてのは御免だからな」
魔理沙の「行くぞ」の掛け声と同時に、箒は速度を上げ、炎へと飛び込む。
「あっつ……!?」
――中に入ると、熱さは想像以上だった。
「っ……あちぃ……」
僕は能力を使って、自分と魔理沙の火傷を治癒することに専念し始めるが――、
「――縺上l縺ッ縲√%縺ソ縲√¥繧後?√?縺上l!!」
「ちっ、やっぱり追いかけて来たか……!」
後方から炎の弾が複数飛んでくる。
だが、それも幸い魔理沙の手慣れた箒のコントロールによって、ほとんどの攻撃を躱すことができた。
「奏、背中には気を付け――」
――ただし、最後の攻撃を除いて。
「ぬわっ!?」
その一撃が箒に命中したことで、強い衝撃が発生する。
「――っ!!」
それによって生じた揺れで、僕は思わず箒から手を離してしまった。
「奏っ!?」
――僕は再び、地面へと向かって落下した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ぐはぁっ……!!」
地面との衝突により、物凄い衝撃を受ける。
自身の体から鈍い音が聞こえると、遅れて痛みがやってきた。
「ぐぅ……」
まともに動かせない足で這いつくばり、何とか民家の壁に背中を寄せる。
そして、震える手を自身の胸に当てた。
「……っ、――はっ」
能力を発動し、一瞬にして折れた骨と火傷した箇所を再生させる。
「はぁぁ」
痛みも瞬時に引き、思わず安堵のため息がこぼれる。
身体を休めるために、もう少しここに座っていよう。
「……それにしても」
本当に僕の能力で、暴走化を解くことができるのだろうか。
藤原妹紅に能力を使ったときに感じた、あの拒まれるような感覚……あれは、暴走化してしまった者には能力が通らないと考えるべきだろう。
……いや、だったら自分の暴走化を止められる理由は?
僕の能力は自分のみならず他人にも作用することができる。それなら、他者の暴走化を抑制することも……。
あれ、そもそも暴走化の抑制と、暴走化を解くのでは訳が違うんじゃ……?
……。
…………。
「はぁ、駄目だ……これじゃ一向に――」
「オイ!」
僕が考え込んでいると、突然懐から上海が飛び出してきた。
「うわっ!? び、びっくりした……あぁ、そういえば入れっぱなしだったね、ごめん」
僕が謝罪すると、上海は顔を近づけてくる。
「ソトハアブナイ!」
「……あ、確かにそうだね。考えるにしても、安全な場所で思考した方がいいっか」
そう言って、立ち上がった瞬間だった。
「――縺ッ縺上?√l縺??√∩縺薙?√∩縺薙?√l縺??√?縺上?√%縺ソ!!」
耳をつんざくような叫び声が、焼けつくような熱気と共に押し寄せてきた。
「……は」
――藤原妹紅が再び、僕の前に立ちはだかるのだった。