東方幻想華   作:kanade minazuki

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第三話 炎天

 炎が自分らを囲むように覆い尽くした。

 

「……ほう、暴走してるくせに頭が切れるらしい。こうすりゃ、私たちは逃げ場を失うわけだ」

 

 魔理沙が吐き捨てるように言った瞬間、炎の中から渦が現れる。

 

「――――。」

 

 その中にいるであろうモノは、耳障りで不快な音を発す。

 

「どうした、私に怖気づいてその渦から出てこられないのか? なぁ――妹紅」

 

 

「――繧後>縺ッ縺上l縺??縺上l縺??縺上l縺??縺」

 

 魔理沙の挑発に反応したのか、そいつは渦の中から出てきて奇声をあげた。

 

「ひっ……!」

 

 それは、もう人とはかけ離れた化け物だった。

 

 かろうじて人の形は保っている。しかし、全身にノイズが濃く走っており、暴走化前の姿を連想することなど不可能に近い。

 道中で対峙した妖精ですら、ここまでの重症化には至っていなかった。そもそも、それ以前にこんな悍ましい声すら発していなかったのだ。

 

「か、彼女は……魔理沙さんの知り合い、ですか……?」

 

「……まぁな。コイツは昨日まで、里の防衛を任されていたメンバーの一人だったんだが……こうなっている以上、防衛が正常に機能しているかすらも怪しくなってきた」

 

「そ、それって、つまり……」

 

「……どうだろうな。でも、今は考えている暇なんかない……やるぞ!」

 

 僕は上海を安全な懐に入れると、いつでも動けるよう体勢を整えた。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

『――私は妹紅を引き付ける。お前は隙を見計らってアイツの暴走化を解く、いいな?』

 

 僕は魔理沙に言われた通り、藤原妹紅の視界に収まらないよう接近しつつあった。

 

「ふふん、そんな鈍足じゃあ、私の速さには到底追いつくことができないぜ!」

「――縲√¥繧娯?補?輔?√%縲√j縲√!!」

 

 魔理沙がヤツの気を引いている。

 僕はその隙に速度を上昇させ、一気に距離を詰めるのだった。

 

 

 ――3、

 

 

 ――2、

 

 

 ――1、

 

 

「――今だっ!!!!」

 

 手を伸ばし、能力を発動させた。

 

 

 

 しかし――、

 

 

 藤原妹紅の暴走化が解かれることはなかった。

 

「……え?」

 

 まるで能力が拒まれるような感覚。

 ……一体何が?

 

「――??縺ッ縲√l縲√?縲√%??」

 

 しかし、どうにせよ状況が悪化したことには変わりなかった。

 

「あ、あぁ……」

 

 ヤツに気が付かれた、自分の存在を。

 背中から嫌な汗が伝う。

 

「――縺ッ縺上?√∩縺薙?√?縺上∩縺!!!!」

 

 藤原妹紅が奇声をあげると、瞬く間に大量の火球が生成された。

 そして、ヤツは手を宙に挙げる。それが僕に向けての動作だと瞬時に理解した。

 

 ――怖い。

 

 恐怖で身体が硬直する。

 

 得体のしれない恐怖が自分を襲う。

 

 

 動かなければ、避けなければ、殺される。

 ……それでも、身体は石像のように固まって動かない。

 

 

 ――ヤツの手が振り下ろされる。

 

 

「――させるかっ!」

 

 途端、魔理沙が藤原妹紅に勢いよく突進したことで、放たれた炎の軌道が逸れる。

 

「お前の相手は私だ。これでも喰らえっ!!」

 

 魔理沙はポケットから八角柱の魔道具を取り出し、体勢を崩した妹紅にそれを向ける。

 

「マスタースパ――」

「――繧薙j繧薙j縲√?縺上?√∩!!」

 

 しかし、藤原妹紅の隙は一瞬で無くなり、魔理沙が魔法を発射するよりも速く大量の炎が放たれるのだった。

 

「――なっ!?」

 

 炎は魔道具に命中し、魔理沙の手から弾き飛ばされる。

 

「私の八卦炉っ……!!」

 

 魔理沙は慌てて箒を下降させ、魔道具に向かって手を伸ばす。

 

「――縺薙∩縲√%縺ソ縲√∩縲√?縺上?√l縺!!」

 

 それをチャンスと見たか、藤原妹紅は炎を纏って魔理沙へ突撃した。

 

 

「――絶対通すものか!!」

 

 僕は無謀にもヤツの正面に飛び出し、弾幕を撃つ。

 

「っ」

 

 ……予想通りだった。

 僕のような弱い妖怪の弾幕など、いとも簡単に避けられてしまう。

 

「――繧後>縺ッ縺上l!!」

「ぐあっ……!?」

 

 僕は見事に返り討ちに遭い、地面へと落下する。

 

 

「――奏、掴まれっ!!」

 

 地に触れる寸前、何とか駆けつけた魔理沙が拾い上げてくれる。

 

「無事か?」

 

「あ……あ、あり…がとう、ござい……ます」

 

 恐怖で身体が震え、まともに言葉を発せない。

 

「とりあえず、お前の能力は通じなそうだし一旦退こう。何の勝算もなく本気のアイツと戦うのは、流石に危険過ぎる」

 

 魔理沙は歯を食いしばり、悔しそうな表情をする。

 

「……こうなれば、あの炎の壁を強行突破するしかなさそうだ。熱いと思うが、燃え尽きたりするなよ。こんなところで火葬なんてのは御免だからな」

 

 魔理沙の「行くぞ」の掛け声と同時に、箒は速度を上げ、炎へと飛び込む。

 

 

「あっつ……!?」

 

 ――中に入ると、熱さは想像以上だった。

 

「っ……あちぃ……」

 

 僕は能力を使って、自分と魔理沙の火傷を治癒することに専念し始めるが――、

 

 

「――縺上l縺ッ縲√%縺ソ縲√¥繧後?√?縺上l!!」

 

 

「ちっ、やっぱり追いかけて来たか……!」

 

 後方から炎の弾が複数飛んでくる。

 だが、それも幸い魔理沙の手慣れた箒のコントロールによって、ほとんどの攻撃を躱すことができた。

 

「奏、背中には気を付け――」

 

 ――ただし、最後の攻撃を除いて。

 

「ぬわっ!?」

 

 その一撃が箒に命中したことで、強い衝撃が発生する。

 

 

「――っ!!」

 

 それによって生じた揺れで、僕は思わず箒から手を離してしまった。

 

 

「奏っ!?」

 

 

 ――僕は再び、地面へと向かって落下した。

 

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「ぐはぁっ……!!」

 

 地面との衝突により、物凄い衝撃を受ける。

 自身の体から鈍い音が聞こえると、遅れて痛みがやってきた。

 

「ぐぅ……」

 

 まともに動かせない足で這いつくばり、何とか民家の壁に背中を寄せる。

 そして、震える手を自身の胸に当てた。

 

「……っ、――はっ」

 

 能力を発動し、一瞬にして折れた骨と火傷した箇所を再生させる。

 

「はぁぁ」

 

 痛みも瞬時に引き、思わず安堵のため息がこぼれる。

 身体を休めるために、もう少しここに座っていよう。

 

 

「……それにしても」

 

 本当に僕の能力で、暴走化を解くことができるのだろうか。

 

 藤原妹紅に能力を使ったときに感じた、あの拒まれるような感覚……あれは、暴走化してしまった者には能力が通らないと考えるべきだろう。

 

 ……いや、だったら自分の暴走化を止められる理由は?

 僕の能力は自分のみならず他人にも作用することができる。それなら、他者の暴走化を抑制することも……。

 

 あれ、そもそも暴走化の抑制と、暴走化を解くのでは訳が違うんじゃ……?

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

「はぁ、駄目だ……これじゃ一向に――」

 

「オイ!」

 

 僕が考え込んでいると、突然懐から上海が飛び出してきた。

 

「うわっ!? び、びっくりした……あぁ、そういえば入れっぱなしだったね、ごめん」

 

 僕が謝罪すると、上海は顔を近づけてくる。

 

「ソトハアブナイ!」

 

「……あ、確かにそうだね。考えるにしても、安全な場所で思考した方がいいっか」

 

 そう言って、立ち上がった瞬間だった。

 

 

「――縺ッ縺上?√l縺??√∩縺薙?√∩縺薙?√l縺??√?縺上?√%縺ソ!!」

 

 

 耳をつんざくような叫び声が、焼けつくような熱気と共に押し寄せてきた。

 

「……は」

 

 

 ――藤原妹紅が再び、僕の前に立ちはだかるのだった。

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