Angel Boxes!   作:ピンクのナービィ

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少年少女は罠の底。

 雨が降っている。

 硝煙を含んだ苦い雨。有毒の雨。

 灰色の空の真下で──抱擁を受ける。最愛の人。最愛とした人。それでいて、相棒。

 

 その手から、自らの胸にまで伸びる……銀の刃。

 道半ば。志半ば。

 

「大人しく……殺されてやるから」

「……」

「お前が導けよ、あいつらを」

 

 心臓を貫いてはいなかった刃に、心臓を押し付けて。

 それを致命傷と呼んで、死する。

 

 第二の人生。後悔はないが、未練あり。

 報いは終ぞなかったが──。

 

「いつか……また。灰色の空の、向こうの……」

 

 満足だ。

 

「青い、空を……」

 

 楽しかったよ。

 

━━━λ√ヽ━━・・

 

 目を覚ます。

 

「マジか。……女々しいなオイ」

 

 過去の記憶の幻視。いや、夢見か。

 何を思い出しているのやら。楽しかったのならそれでいいじゃないか。

 それとも……本心では違うことを思っていたから、この世界に招聘されたとでも?

 

 だとしたら、本当に救えない。だってあの時……死なないでいてやることもできたのだから。

 致命傷じゃなかったものを、致命傷にしたのだから。

 

「おはよー陽江さん」

「ああ、おはよう」

 

 NPCの同居人に挨拶を返す。

 ここは女子寮。自室。時刻は普通に朝。

 

 正直NPCは人の気配がしないからありがたい。こうも近付かれしまうと普通ならば眠れないから。

 しかし、実に七日ぶりの快眠だ。あの夢は別に悪夢ではない。

 ぐぐ、と伸びをして。

 

 そのNPCの首根を掴み、バックステップをした。

 直後、影の化け物の腕が部屋の中を浚う。

 

「きゃ──!?」

「っと、助けずともいいのだったか。まぁ成り行きではあるか」

 

 窓ガラスを割って外へと出れば、そこさえをも濁流が如き押し流してくる影の化け物。

 よって他のメンバーのいない部屋のバルコニーを伝い、上へ上へとのぼっていく。連れてきてしまった名前も知らないNPCは……どうしよう。連れていく最中に影の化け物へと変じられたら面倒だけど、捨て置くというのもなんとなく嫌だ。

 

 起きたら世界が影の化け物で埋め尽くされていた、という事態も考えた……が、どうやらそんなことはない様子。単純に女子寮へ侵入してきた影の化け物、ということになるのか。

 しかし寝込みを襲わずに起きてから、しかも外部からの侵入はなぜなんだろう。それこそこのNPCを化け物にしてしまえば不意は打ちやすいだろうに。

 

 それとも、眠っていると取り込めない、とかなのか?

 

「う、ぐ──」

「おっと、マジでか」

 

 NPCを上空へ放り投げる。

 するとそいつは、上空で影の化け物へと変じ……今しがた投げた切削バイトによって雲散霧消した。

 

 ……これは報告案件だな。

 

 

 

 難しい顔をしている仲村ゆり。同じく思案をしている音無、直井と、何考えてるかよくわからん立華奏。ハルバードを向けてきている野田。踊っているTK。本当にとにかくキてるな。ぶっちゃけどっちも。

 

「女子寮への侵入だけでも前代未聞なのに、眠っている時は襲われなかった、か」

「ああ。他からは似た報告はあがっていないんだな?」

「そもそもの話をするなら、ガルデモ……陽動部隊のコたちは影の化け物と遭遇していないらしいのよ。あたしと遊佐さん、椎名さんはこれでもかってほどに遭遇しているのに」

「戦えない女子には手を出さない、ってことか? あの影の化け物にそんな区別がつけられるとは思えねーんだけど」

「影の化け物はそうでも、それを操ってるやつなら話は別よ。チャーの報告にあった溜池へのダメージ分散もそうだし、神様気取りの黒幕さんは、どうやら相当こだわりのあるやつみたいね」

 

 確かに。一日五体までと制限をかけたり、小動物から大型犬サイズ、そして人間へ、という手順を踏んだり。

 並々ならぬこだわりを感じる。マシンパワーがどうというのなら、あの液体化け物を変形させる方が楽なはずだし。

 

「ぼ、僕も割合非戦闘員なんだけど……普通に出てくるの、なんでなんだろ……」

「大山ぁ、お前は女装しておけばいいんじゃね?」

「偏執的なフェミニストが犯人、ということなのか? だが……僕の催眠術でも、しっかりと相手と目を合わせなければ過去や性格を覗くことは難しい」

「ギルドの連中もほとんど見てないんだろ? つーことは、男女関係なく非戦闘員がダメなんじゃね? ……まぁチャーが非戦闘員かっつったらビミョーだけど」

「いやだから僕……」

「大山、お前以前の戦いで結構活躍してただろ。神様がびっくり仰天して戦えるやつ認定したんじゃないか?」

「そ、そんなぁ!」

 

 寝込みを襲われることがないにせよ、寝起きが襲われたって普通に問題だ。起き抜けですぐ戦えるやつなどそういないのだから。

 況してや寮という半ばセーフティゾーンでの襲撃は心に来る。心休まる場所がなくなるから。

 

「つかなんで遊佐まで狙われんだ? 戦えないだろ」

「逃げる能力を評価されてるんでしょ。……それより、一つ決めたことがあるの。椎名さん」

「どうした」

「音無くんに斬りかかってみて」

「は──」

「承知」

 

 どうみても本気じゃない、けれど迅い一撃が音無を襲う。

 日向も藤巻も言葉は認識しているけれど止められない。その瞬撃の中……とうの本人たる音無が動く。

 腰に付けていたホルダーからナイフを引き抜き、椎名の刃を止めたのだ。

 

「!」

「はいストップ。椎名さん、ありがと」

「……あさはかなり」

 

 流石に鼻高々である。

 良い出来栄えだ。

 

「あの椎名の一撃を止めるとか、音無おまえすげーな!」

「……チッ」

「A beautiful star……」

「いや、これは」

「一か月の護身術訓練。音無くんが陽江くんに師事して得られた戦闘力よ。たったそれだけの期間で、自分の身くらいは自分で守れるようになるなら安いものでしょ?」

「……まさかとは思うがゆりっぺ」

「ええ、そのまさか。銃以外じゃ戦えない男子共は、みんな陽江くんの護身術訓練を受けてきて。じゃないとこれから先、影の化け物の強さが増した時に対応しきれない」

 

 視線を感じたので肩を竦めておく。

 こっちだって不本意……というか何も聞かされていないから。

 

「さっき共有した通り、今ギルドが危険な状態にある。無線機の問題を解決するために、あたし、音無くん、奏ちゃん、日向くん、椎名さん、直井くん、陽江()()、遊佐さん。この八人でギルドへ先行し、防衛拠点を建てるつもり。その後後続のみんなに来てもらって、補給路や新たな連絡路を確保する。その際無線機が使えなくなって、地上の守りが手薄になる」

「んでそん時に戦力比重の低いこっちが問題になるわけだ。残ったやつで戦力になるの、松下五段と野田、あとTKくらいだから」

「あら、珍しいわね。藤巻くんが自信のない発言をするなんて」

「俺一人の問題ならまだしも、今回ばかりはそうも言ってらんねー展開みてーだからな」

 

 ふむ。気を遣ってもらった手前その作戦に賛意したいところ、だが。

 

「立華と椎名で充分な戦力だろう。こちらが地上に残って指導をしながらにしてやれば、作戦決行日を早められる。違うか?」

「貴様、ゆりっぺの判断に異を唱えるのか? 貴様など不要だ。そもそも戦線メンバーではないのだからな」

「普段なら野田くんを窘めるんだけど、今回は賛同するわ。敵の最大戦力が不明瞭な上に、ギルドの非戦闘員はこっちの比じゃない。戦力はあればあるだけ良い」

「だが」

「くどい! もう一度言う、貴様など不要だ。地上の雑魚どもは俺だけで守り切れる。どうしても気になるというのなら、貴様の護身術とやらをこれでもかと叩き込んでやればいい。違うか?」

 

 音無レベルの意欲と呑み込みの速さがあって一ヶ月かかった、という話であって、一ヶ月で誰でも椎名の一撃を防げるようになる、というわけじゃない。というか二撃目以降は多分反応できなかっただろうし。

 万が一もあり得る。だというのにこの戦力比重は……それほどの信頼、ということなのだろうか。

 

「ゆりっぺ。おれが残るってのはどうだ?」

「日向くん?」

「な、良いだろ? 大事な彼女のそばにいさせてくれよ。戦えない女子の前には現れない、なんて保障、ないんだからさ」

 

 こちらへウィンクをしてくる日向。

 ……。

 

「日向一人いて何か変わるのか?」

「ちょオイ!? ひとが折角意思を汲み取ってかっこつけたってのにそりゃないだろ!?」

「耐久力はある方よ、日向くんは」

「一撃でも食らったらアウトな影の化け物に耐久力か」

「不要だと言った!」

「おまえはおまえでおれにキレんのかよ理不尽だろ!?」

「実際のところ、どうなんだ陽江。正直言ってギルドの安全性確保は今すぐにでもやりたい作戦だ。仮に決行日を三日後だと仮定して、そこまでにどれだけ仕込める?」

「三日じゃ刃物に慣れるところまでだろうな」

「なら、俺がみんなを指導できる程度にまで仕立て上げるのにはどれくらいかかる?」

「……ふむ」

 

 実戦と指導は別物。

 加えて地頭の良いこいつなら。

 

「三日あれば……充分だな」

「よし。じゃあ、ゆり。作戦決行は三日後だ。それまでに俺が指導要綱全部覚える。で、俺と日向が地上に残る」

「……ま、それが妥当ね。奏ちゃん、いい? 音無くんと離ればなれになってしまうけれど」

「勿論よ。最も安全で、最も効果的な作戦を取るべきだわ」

「じゃ、それで。野田くんも納得してね」

「……ゆりっぺが良いというのならそれでいい」

「直井くんは? 正直あなたがあたしの指示を聞いてくれるとは思えないんだけど」

「ふん、よくわかっているじゃないか。僕は音無さんの指示しか聞かない。貴様に付き従う理由など無い」

「直井。任せられるか」

「はい! 音無さんの頼みなら!!」

「アホだな……」

 

 なら。

 

「音無、時間が惜しい。先に抜けて特訓を開始する」

「ああ!」

 

 どこまで仕込めるか次第で、地上組の生死が決まる。

 昔を……思い出すな、少しだけだが。

 

━━━λ√ヽ━━・・

 

「ガードスキル:ボーリング」

 

 身も蓋もないネーミングのそれが地面へと突き刺さり──地鳴りを伴っての掘削が始まる。

 此度新しく作ってもらったガードスキル。原理はハンドソニック+ハウリングで、特に難しい処理はしていない。

 薄く細く、限界ギリギリまで刀身を伸ばしたハンドソニックから高周波を地中へ撒き散らす。

 それによって。

 

「崩れるわ」

「全員対ショック姿勢!」

 

 凄まじい轟音とともに、指定範囲の地面が崩落する。

 さらにその中へピンを抜いた手榴弾を投げ入れる仲村ゆり。

 

「1……2……3……」

 

 よ、と発音した直後のところで爆発。

 大体八十メートルだな。

 

「先行する。影の化け物の有無・規模に関しては事前に伝えた通りの信号弾で伝える。多少時間がかかっても無理して降りてくるなよ」

「ええ、お願い」

「ゆりっぺ、もう教師どもが現れやがった!」

「居残り組、頼んだわよ! 陽江くんが安全を確保するまでの間、誰一人としてここに近付けないで!」

 

 穴の中へ降りる。

 陽光はすぐに届かなくなった。懐中電灯も持たされてはいるが、信号弾と紛らわしいので使わない。夜目で充分だ。

 

 ……クリア。滲みだしてくる、とかも無し。

 

 簡易信号弾をぱしゅんと打ち上げる。作ったのではなくパクった。体育祭の空砲銃を少し改造させてもらったのだ。

 

 して、落ちてくる仲村ゆり、直井を抱き留め、順次降ろしていく。椎名と立華奏は自分で着地し、遊佐はいつの間にかいた。

 

「奏ちゃん、次お願いできる?」

「ええ。ただし、丁度いい場所を探るのに少し時間をもらうから」

「わかってるわ」

 

 どこを崩したってこの学校が崩落するようなことはないらしい……のだが、ギルドが崩れてしまうと本末転倒だ。

 だから場所を見計らう必要がある。

 そのための調査の間、この空間を死守しなければならない。

 

「遊佐さん、通信状況はどう?」

「まだ問題ありません」

「そ。少しでもノイズが走ったら教えてね」

「はい」

 

 顔を上げる。

 

「ッ、来るぞ!」

 

 声を上げたのは椎名だ。

 そしてその声の通り……手榴弾によって拡張された竪穴底部の壁から、影の化け物が滲み出てきた。

 

「あたしと直井くんは奏ちゃんの守護! 遊佐さんはバックアップで、陽江くん、椎名さん、頼んだわよ!」

「承知」

「了解」

 

 この日のために予め作っておいた投擲物。いつもの切削バイトだけでなく、ナイフも何本か用意してある。

 

「上は任せろ」

「OK、下をやろう」

 

 全方位から来るのだとしても、戦力差は覆せない。

 怖いのは地面から飛び出してきて足を掴まれることなどだから、その辺りだけ細心の注意を払って──。

 

「ガードスキル:ボーリング。……崩すわ」

「お願い!」

 

 これを、何度か繰り返す。

 

 

 そうして辿り着くは巨大空間。

 壁がしっかりと固められているそこは、明らかに人工物の気配がする。

 

 ……というのに。

 

「どういうこと? チャー? ……ギルドの連中は、どこ?」

「通信状態は良好のままです。ノイズの類は一切走っていません」

「人工物なのは……確かだが、人がいた痕跡がないな。……これは」

「あさはかなり……」

 

 まさか。

 

「……仲村。チャーという人物は、顎髭の特徴的な大柄な青年、で合っているよな」

「ええ、そうだけど。……まさか!?」

「罠か。成程、貴様はここへ来てからの日が浅い。思うに敵の成り代わりとやらは未だ精度が甘い。だから音無さんたちのような繋がりの深い者を相手にするとボロが出かねない。しかし貴様であれば話は別だ」

「事前情報くらいしか知らない陽江くんに接触して、ギルドの危機的状況を伝えて……あたしたちをおびき寄せた。ギルドとの連絡が取れなくなったのは単純に距離の問題で、その溜池とやらが単なるパフォーマンスだとしたら」

 

 それに呼応するかのように。

 天井付近にあった排水口から、()()()()()零れ落ちてくる影の化け物。

 

「っ、撤退よ! 奏ちゃんはあたし、椎名さんは遊佐さん、陽江くんは直井くんを連れて地上へ!」

「いや、直井は仲村が連れていけ。此度の失態、ここで拭わせてもらう」

 

 前に出る。

 濁流とさえ思える影の軍勢の前に。

 

「自殺行為よ!」

「それよりチャーやギルドの連中の安否が心配だ。なに、元より仲間ではないんだ。そう心を砕くな」

「自身に酔っているところ悪いが、貴様一人が残ってなんになる。あれはもはや自然災害の類だぞ」

「周囲に傷つけてはならないものがいないのであれば、戦い方を変えることもできるという話だ」

 

 格好つけている自覚はあるし、先日の夢のせいでセンチメンタルになっている自信もある。

 自分は満足したのだと。楽しかったのだと……だから、こんなところにいるべきではないと。

 そう思いたいだけなのかもしれない。

 

「必要な犠牲だ。割り捨てろ」

「……もう戦う必要は無くなったのに? 少しでも喋った相手を見殺しにしろっていうの? あたしに?」

「リーダーだろう、お前は」

「バカね。……ここで尻尾巻いて逃げ帰ったら、それこそリーダー失格でしょ。……奏ちゃん、椎名さん。直井くんと遊佐さんを……」

「ふん、神に指図をするな。僕は音無さんからお前達を任されたんだ。捨てていくわけがない」

「あさはかなり……」

「どの道退路は三百メートルを超える縦穴。あたしたちは別に飛行能力を持っているわけではないもの。無理よ、ゆり」

 

 なるほど。

 仲村ゆりがリーダーではなくなって。

 だから、各々が……強くなったのか。

 

「右手一帯はもらう。あまり近付いてくれるな、まとめて切りかねん」

「であればあたしが左手一帯を担う」

「……直井くん。あそこ……影の化け物が出てきている場所」

「奇遇だな。神たる僕と意見が合致するか」

「あれを潰せば、少しは楽になりそうよね」

「じゃ、行ってくるわ」

 

 翼を生やす立華奏。

 それが皮きりだった。

 

 とびかかるようにして襲ってくる黒の濁流。

 

 対し、左右に走るは斬閃。

 鋭角を描き続ける左と爪痕を思わせる右。

 

「とんでもないわね……直井くん、奏ちゃんの援護をしてあげて! あたしはここでみんなを守る!」

「神に指示をするなと何度言ったらわかるんだ……」

 

 切る。斬る斬る斬る斬る斬る斬る。

 四指に挟んだナイフを振るい、ケモノの爪のように周囲を切りつける。

 ただ……広範囲殲滅ができているかと問われると、怪しい。

 あくまで対人戦闘に長けた存在でしかないからな。多対一も、基本は暗殺メインだった。

 

 化け物退治は専門外だ。

 だが。

 

「ハ──」

 

 椎名。C7。

 幼少より戦闘者として育てられた存在。時代の違う刺客。

 

 アレは、良い学びだ。

 

 無駄を削げ。何をすればこいつらを一撃で殺せるか考えろ。

 身体を雲散霧消させるのはリソースが多すぎる。確実に一撃で屠る方法はなんだ。

 

 目、か。

 流動的に動くソレは、しかし個体を確立させるものでもある。

 

 それを斬る。斬って斬って斬り刻む。

 

 音が遠のく。破砕音。爆発音。叫び声。

 全てが些事の彼方へと消えていき、世界から色が失われる。

 

 見えるのは化け物の目だけ。ただそれを、それだけを切り裂き続ける幽鬼とならん。

 

 ただ、それだけを──。

 

「ストップです、陽江さん」

「……」

 

 止まる。止める。

 手を止める。……ナイフの切っ先は、今、遊佐の眉間の眼前にある。

 

「……すまん」

「いえ、実害はありませんでした」

 

 周囲を見れば、……どっと増えている人数と、複数の爆発痕。

 

 これは。

 

「正気に戻ったか」

「!」

 

 声に視認より早く身体を動かし──ナイフが小刀に止められる。

 

「安心して、陽江くん。このチャーは本物よ。今上がってきて、武器を渡してくれたの」

「初めましてだな。俺はチャーと言う」

「……やはり初めまして、か」

「ああ。話は聞いた。俺の偽物が現れた、と。そしてこちらからも報告がある。ギルドにもお前達の偽物が現れていた」

 

 つまり。

 

「成り代わりではなく、偽物か」

「ええ、そうみたいね。それで、偽物のあたしたちはギルドに対してこう言ったそうよ。"地上は影の化け物で溢れて放棄せざるを得なかった。だから地下に居住空間を作ってほしいのよ"、って」

「放棄せざるを得なかったという割にゆりっぺ含む数人しか連れていなくてな。他の連中をどうしたのかと聞いたら、必要な犠牲だった、などとふざけた言葉を吐いたんだ」

「殺したのか?」

「ああ。目を覚まさせるためにな。だが、殺した瞬間ゆりっぺの中から影の化け物が這い出てきて……現状の異常をそこで知ったよ」

 

 椎名に目礼し、ナイフをしまう。

 ……迷惑をかけたな。本当に。

 

「それで……残念ながら、影の化け物の溜池自体は本当にあるらしいわ。今出てきたのはその一部。だけど、それなら地下に居住空間を作ろうなんて言わない。むしろ地上に……」

「楽園を築くか、仲村」

「……まさか、敵の狙いはそれ?」

「どうあれ合致したのは事実だろう。……直井はどうした?」

「ああ……直井くんなら、今一人一人に"面談"をしてもらってるわ」

 

 成り代わりではなく偽物だったとしても、催眠術は有効……というか、効かなければわかる、という感じか。

 しかし……これは。

 

「考えることは山積みね。とりあえず無線についてはなんとかなりそう。今までトランシーバーだけでなんとかしてきたのが無理あったのよ。だから」

「ギルドから何人か派遣して、図書館で業務無線の作り方を学ばせる。それがあれば問題はなくなるだろう」

「で、偽物だけど、当面は直井くんの催眠術が効くか否かで判断して、あとは言動の一致不一致でも判断。チャー、見た目はあたしたちそっくりだったのよね?」

「ああ。だが、今更俺の撃つ弾丸に当たるゆりっぺでもないだろう。本物より能力が劣るものと思われる」

「……つまり、奏ちゃんの偽物や直井くんの偽物はただの生徒並みでしかないし、椎名さんや陽江くんもまた同じ。その辺色々加味して見分け方をマニュアル化する必要ありそうね」

「ギルドはどうする。地上に作るか?」

「いいえ、今まで通り地下で。ただし、今後は如何なる場合でもスリーマンセルで動くよう連中に指示をしてちょうだい」

「了解した」

 

 ……ふと、地上を見上げる。

 もし。

 

「偽物が地上に出てきていたら。そんな顔ね、陽江くん」

「ああ……心配は尽きない」

「大丈夫よ。むしろ地上の方が大丈夫だと思うわ。だって」

 

 立華奏は、微笑む。

 

「結弦がいるもの。ゆりとおんなじくらいには、仲間というものを大事にしているから」

「それに情報共有はもうしてあるのよ。ね、遊佐さん」

「はい。竹山さんを通じて共有済みです。その際、その場にいた全員を野田さんが両断し、真贋を見極めたとも聞いております」

「……」

「……」

「……心配ね。早いとこ帰らないと」

「こちらは心配せずとも良い。トラップもそうだが、何より職人の魂があれば、相手が人間であっても真贋は見抜ける。引き続き俺達は武器を作るし、ゆりっぺの注文通り、対人ではなく対化け物に適した武器作りを開始する」

「ええ、お願い」

 

 であるならば。

 

「仲村、チャー。少し発案がある。聞いてくれるか?」

 

 此度の失態の補填に、少しでも助けになれるのならば、を。

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