「殺したかったんじゃなかったの?」
ころしたかったよ
「じゃあどうしてできなかったの?」
怖気付いたんだ。彼女の瞳に映る自分の姿が見えて
「せっかく強くなったのに、もったいない」
どれだけ力を持ってても僕が僕である限り、僕の望むものは得られないと思ってしまった。あのとき大人しく彼女に従っていれば僕はあれ以上酷い目にあわなかったかもしれないし、あつしくんだって何事もなく過ごせていたに違いない
「わたしはいらなかったってこと?」
ごめん……。失望させたよね
「いいえ、失望するも何も昔からずっとそうじゃない」
「あなたはずっと自分が不幸になることを選んでる」
おとうさんを失った日から……僕は失敗してばかりだ
「何を言ってるの?」
え?
「それよりもずっと前から、あなたは可哀想な子」
違う
「あなたのおとうさんはどんな人?」
お母さんを亡くしても僕を立派に育てあげるために頑張ってた。僕が道を間違えたら根気強く叱ってくれた。だから僕はあの日まで幸せに生きられた、正しく在れた
「やっぱり可哀想」
うるさい
「あなたは蛹ね。それもヒトに捨てられた蛹。」
「ご主人様に全てを与えられて蛹になったあなたは自然界でろくな生を送れないわ」
ききたくない
「あなたの親は無責任にあなたを置いてった最低な人間よ」
「そんなひとじゃない!!!!」
服が汗で張り付いて気持ち悪い、荒い呼吸を整えながら体を起こすと僕に腫れ物でも見るような目を向ける水戸さんが座っていた。僕の居るベッドに椅子を備え付けるように位置どっていることから彼女が看病してくれてたのだろう
「耳が痛いよカセイくん」
「ご、ごめん。それと看病してくれてありがとう」
「水戸さんがここまで連れてきてくれたんだよね?」
お礼を言ったつもりだが水戸さんは何故が眉間に皺を寄せてさらに不機嫌そうにしていた。
「花恋」
「へ?」
「わたし苗字で呼ばれるの苦手だから名前で呼んで」
驚愕の新事実だった。彼女とはそこそこの付き合いだと思ってたが水戸さんと呼ぶのを嫌がられてたなんて……いや、彼女からしたら僕との付き合いは獲物を狩る下準備だったのだろう。今までの彼女だと思わない方がいいか
「変な想像してそうだから伝えておくけど今までカセイくんと仲良くしてきたことに嘘はないよ」
「でも契約者としての君は僕の知ってる君ととてもかけ離れていた。僕を痛めつけたことやあつしくんを殺そうとしたことも忘れてないよ」
「カセイくんだって契約者だったこと隠してた」
「あっ……」
それを言われたら何も言い返せない。彼女を殺しかけたこともはっきりと覚えている。そうだ、僕も彼女と同じだったんだ。
「ごめん、君を殺してしまうところだった」
「……覚えてたの?」
「色んな感情でぐちゃぐちゃになってたけどかろうじて僕の意識はあったよ」
「あの攻撃でわたしにトドメをささなかったのもカセイくんの意思?」
コクリと頷く、化物になった自分の姿がフラッシュバックして彼女と目をあわせることができない
「あはは、初めて会ったときから本当に変わってない」
すべっとした手がガシッと僕の両頬を包み、彼女と強制的に目を合わせられる。彼女はいつもの優しい笑みを浮かべていた
「うん……瞳に映った自分が怖かったんでしょ?」
どくどくと耳の中がうるさくなった。彼女は僕の動揺を知ってか満足そうに僕から手を離す
「まあ、あのとき目を瞑ってたから確証はなかったんだけどね」
「目を瞑ってただって?」
彼女が天使の瞳を宿し、わざとらしく指を鳴らすともう1人の彼女が現れた
「分裂……いや、これって幻?」
彼女の本体が幻影と重なる場所に立つとわざとらしく体を動かしだす。そうすると幾重の残像が浮かび出し彼女の動きが目で捉えられなくなった。なんとも妙な光景を眺めているとあることに気づく
「表情が全く動いてない」
「正解だよ」
ニコリと笑っている彼女が幻影から出てくる。そうか、あのときもこの能力を駆使して僕の相手をしていたのか
「私の能力は洗脳と幻影。幻影は対象の精神状態関係なく効果があるよ」
素人目で見ても能力を熟知してる使い方に彼女が多くの場数を踏んできたことが伺えた。でも……
「どうしてそんなことを僕に教えるんだ?」
「それはカセイくんに手伝って欲しいことがあるからだよ」
「契約者同士仲良く協力して逃げようとか?」
彼女は僕の予想を肯定したがもちろんそんなことするつもりはない。少なくとも僕は自主しようと思っている。いつどこでどんな天使と契約したかも分からない力をもって余計なことはしたくない
「言っておくけどカセイくんに拒否する選択はないよ」
「僕は自主するつもりだから逃げるなら君ひとりにして欲しい」
僕の言葉を無視して彼女はスマホを取り出し画面を突きつける
「え?」
既に僕と彼女は名前と顔付きで指名手配されていた。いくらなんでもおかしい。僕が眠っていた時間を加味しても事が起きてから2時間も経ってない。あつしくんが通報してくれてたとしても短時間で僕と彼女が契約者であることを特定するのは難しいように思う
「カセイくんがあの男に事をばらしたからわたしたちの状況は最悪、もう状況は一蓮托生と言っても違いはないね」
「あつしくんに……?」
「まだ分からないんだ。あの男、学校に潜伏してた局員だよ」
「元々カセイくんは目をつけられていたんじゃないかな」
「嘘だ、あつしくんは僕を心から心配してくれてた」
「その親友の正体は虎視眈々と君の命を狙う死神だよ?」
「僕はあつしくんを信じる」
彼女の言葉に耳を傾ける必要はない
「どこ行くの?」
「確かめに行くんだ」
「契約者管理局の人間は親切なお巡りさんじゃない」
彼女が僕の方をつかみ引き止める
「誰も彼も契約者を殺すために契約者になった頭のおかしい人ばかり……死ぬよ」
「僕は……死なないよ」
彼女の制止を振り切り建物から飛びだした
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
花恋は気づいていた。彼女が彼の肩を掴み制止の声をかけていたとき、彼が左手で右手を押さえ込むようにして震えていたことを
「カセイくんのうそつき」
みんな間違えてばかり