ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ”   作:速筆魔王LX

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第102話 究極のフィニッシュ・ツープラトン!!

『万太郎のキン肉バスターとケビンマスクのOLAPが完全一体となり、ネプチューンマンの体にガッチリと極まり身動きが取れなくなっている――っ!』

 

ザ・坊っちゃんズ(ヤングマスターズ)”が繰り出したキン肉バスターとOLAPの合体必殺技(フェイバリット・ツープラトン)――その名は“NIKU→LAP”。

 見た目のインパクトはもちろん実績も十分なその技は、ジェイドとスカーフェイスを熱狂させた。

 

「とうとうきたぜ! あの“悪魔の種子(デーモンシード)”の強豪ボルトマンを一瞬にして葬り去った……」

「ザ・坊っちゃんズの最強最大ツープラトン! 万太郎とケビンはこれで勝負を決めるつもりだ――っ!」

 

 21世紀から来た超人たちの中でこの技の威力を知らぬ者はいない。

 もちろん絶体絶命の窮地に追いやられたネプチューンマンのパートナー、ウォーズマンも同様だ。

 

「ネプチューンマン!」

 

 ウォーズマンは万太郎が放ったカオス・バスターから立ち上がったばかり。

 すでに降下体勢に入っているNIKU→LAPを止めるすべはない。

 バスター系の技であるならば、自身が下敷きとなり威力を緩和させてはどうか?

 無駄だ。満身創痍の試合最終盤でそんなことをすれば、ふたりまとめてKO必至。

 ネプチューンマン――ネプチューンマンはどうする気だ?

 

「さ……さんざん老醜を晒し……後輩や古馴染みたちに大迷惑をかけてきたオレだ。今さらプライドもなにもねぇ……だ、だから恐れず言わせてもらうぜ。これをくらったらヤバい!」

 

 ネプチューンマンは尋常でない汗を流し、こちらを見上げてくるウォーズマンと目を合わせた。

 

「助けてくれ――っ! ウォーズマン!」

「任せろ!」

 

 タッグ・パートナーが、いいや“友”が助けを求めている。

 ならば助けにいかない理由などない。

 

《ウォーズマン、スーパーユウジョウモード発動!》

 

 ウォーズマンの全身が輝き、友を救うためのパワーを捻出する。

 各所から出ていた煙や火花は音もなく消えた――活動限界という縛りを超越したのだ。

 

「万太郎! ケビン! おまえたちに火事場のクソ力やメイルストロームパワーがあるように……オレにだってトモダチが与えてくれたこのスーパーユウジョウモードがあるんだぜ――っ!」

 

 ウォーズマンがNIKU→LAPへの対抗策として選択したのは、自身が最も得意とする突撃技。

 右腕を前に全身をピィンと伸ばし、弾丸のごとく回転して上昇。

 

『ウォーズマン、ベア・クローを装着しない無手のスクリュー・ドライバーで突っ込んでいく――っ!』

 

 ベア・クローはなく、かといってマッハ・パルバライザーのように掌で鏃を作ってもいない。

 いくらスーパーユウジョウモードを発動しようとも、これではスクリュー・ドライバーとしての威力は期待できなかった。

 

「無茶だウォーズマ――ン!」

「おまえまで死ぬぞ――っ!?」

 

 キン肉マンとロビンマスクの悲痛な叫びが耳に届く。

 友を心配する優しき友の声……嬉しくはあるが、いつまでも心配ばかりかけてはいられない!

 

《ウォーズマン・ファイナル・トランスフォーメーション!》

 

 ウォーズマンの体内で、“なにか”が起動する。

 スーパーユウジョウモードを引き金に、本来は封印されていたシステムが目を覚ましたのだ。

 そして、そのシステムはウォーズマンの右腕に変化をもたらす。

 

『あ――っとウォーズマン、右腕の肘のあたりから、三本の長い鋲が飛び出した――っ! これはまさか、新たなベア・クローなのか――っ!?』

 

 長く鋭い鋼鉄の鋲は、拳よりもさらに伸びる。そのリーチはベア・クロー以上。

 ウォーズマンは咄嗟、新たな力に名前を付けた。

 

「うぉおおお……スケール・ベア・クロ――ッ!」

 

 新型ベア・クローで繰り出すスクリュー・ドライバーが、NIKU→LAPに衝突。

 ウォーキューブ内に衝撃波が生まれ、壁面の耐圧ガラスが罅割れんほどに揺れる。

 結果は――

 

『“NIKU→LAP”崩壊~~っ! ウォーズマンの決死の突撃がザ・坊っちゃんズのツープラトンを破り、ネプチューンマンを救った~~っ!』

 

 空中分解を起こしたザ・坊っちゃんズ、そしてネプチューンマン。

 三人とも不格好にキャンバスへ落ち、ウォーズマンだけがお気に入りの片膝立ちポーズで着地した。

 

「コーホー」

 

 右腕に展開されたスケール・ベア・クローを誇示するように、独特の機械的な呼吸音を発する。

 落下した万太郎とケビンのショックは大きい。

 ウォーズマンの新兵器を前に、ふたりとも信じられないといった表情を浮かべていた。

 

「ま……まさかボルトマンをKOしたボクたちの最強ツープラトンが破られるなんて……」

「おのれウォーズマン……なんという隠し玉を……」

 

 土壇場でのパワーアップは若き超人たちの心を折る結果となるか――あいにくそうはならない。

 バキン!

 万太郎とケビンが視線を注いでいた新武装、スケール・ベア・クローは3本とも音を立てて砕けた。

 ウォーズマンは初めからそれがわかっていたのか、動揺した様子はない。

 NIKU→LAPを崩すにはそれだけの代償を支払う必要があった……ただそれだけのこと。

 

「助かったぜ、ウォーズマン。しかし今のは……」

 

 ネプチューンマンは戸惑いを浮かべながら訊く。

 彼としても完全に計算外の力だ。まさかウォーズマンがパートナーを信用しきれず隠していたのか?

 どうやらそういうわけではないらしく、ウォーズマン本人は愉快げに笑っていた。

 

「フフフ……あいにくオレにもわからん。確かなのは、今……年甲斐もなくワクワクしてるってことだ。オレにもあったんだな、隠されていた機能……いや。眠っていた力が目覚めるって燃える展開が」

 

 思春期の少年のようなことを語り、“クワン”と口角を上げたウォーズマンスマイルを見せるウォーズマン。

 純真無垢なその顔は、ネプチューンマンに見たことがないはずの少年時代――“ニコライ”と呼ばれ両親に可愛がられていた頃の姿を幻視させた。

 

「いい歳してなに言ってやがる」

 

 ニッと笑い返すネプチューンマン。

 ウォーズマンはまだまだ大丈夫だ……ならば己とて、まだまだやれる。

 

「現役にしがみついてみた甲斐があった! 今がオレたちの全盛期だぜ、ネプチューンマン!」

「ヤロウ、オレみたいなことを言いやがって! だが同意見だ! 気張れ、ウォーズマン!」

 

 アドレナリンを全開にし、若者のようなエネルギッシュさを見せる“新星(ノヴァ)・ネオ・イクスパンションズ”。

 

「見ろよケビン! おっさんたちがみっともなくはしゃいでるぜ!」 

「いい気になりやがって! 力の覚醒は若者の専売特許だってことを教えてやる!」

 

 それに合わせ、“ザ・坊っちゃんズ”も気力を振り絞る。

 体力が限界ならあとは気力の勝負。先に気持ちが切れた者から落ちていくデスゲームだ。

 

『リング上に再び、4人の超人が出揃った――っ! 4人とも満身創痍! 息を整えつつ厳戒態勢で出方を窺うが……一番に仕掛けるのはどの超人だ~~っ!?』

 

 現在はまだ“読み”の段階。

 だが状況が動けば、そこからは一気に決着まで流れ着く――4人ともが、そう直感していた。

 ケビンマスクは万太郎に語りかける。

 

「万太郎。おまえがさっき仕掛けたカオス・バスター……もう一度出せるか?」

「出せるけど……いったいなにが狙いだ?」

 

 最大必殺技であるNIKU→LAPで勝負を決められなかった負債は大きい。

 しかしツープラトンの可能性は無限大だ。

 闘いの中での咄嗟のひらめきが、新たなフェイバリット・ホールドを生み出すこともある――ケビンはその着想を、先ほど万太郎がネプチューンマンとウォーズマンに仕掛けたW(ダブル)・キン肉バスターから得た。

 

「イクスパンションズのコンビネーションは盤石だ。片方を集中狙いする“NIKU→LAP”では、フリーになっているもう片方に邪魔されてしまうのは必定……だが、もしもおまえのキン肉バスターがさっきのカオス・バスターだったならば、ネプチューンマンとウォーズマンのふたりをいっぺんに仕留められたと思わねえか?」

 

 ネプチューンマンを狙ったNIKU→LAPはウォーズマンの妨害に遭い失敗してしまった。

 だがもしもあのとき、ウォーズマンも一緒にバスターにかけられていたならば。

 万太郎は相棒の言わんとすることを察し、驚きをあらわにする。

 

「お、おまえ、まさか……カオス・バスターとOLAPでツープラトンをしようっていうのか~~っ」

 

 つまりは、NIKU→LAPをバージョンアップさせイクスパンションズを同時撃破してしまおう――と。

 理屈はわかるが、その実現には困難がつきまとう。

 そもそもシングル用のサブミッションであるOLAPをふたりいっぺんに掛けることなど可能なのか?

 ケビンは万太郎の額に自身の額をコツっと当て、声を潜めて言う。

 

「OLAPはロビン王朝(ダイナスティ)の秘伝奥義だが、所詮は先人が開発したお古の技。万太郎、おまえがキン肉バスターをマッスル・G(グラビティ)に進化させたように……オレも継承された技を改良してみせるさ。それこそが、新世代超人(ニュージェネレーション)と呼ばれる者の務め」

 

 新しいものを生み出してこその新世代。

 ケビンはそれを、師や父に見せつけてやりたい。

 

「相手は伝説超人(レジェンド)の古豪ふたり。隣にはおまえというベストパートナー。そしてなにより……さっきのカオス・バスターには、オレたち“ザ・坊っちゃんズ”の3人目の魂が宿っている。これ以上のシチュエーションはねえ」

 

 万太郎とケビンのツープラトンではフィニッシュを決められなかった。

 だがそこにプラスワン――自分たちをこのリングに立たせてくれたカオスの力を足せば。

 

「どうだ? やれるのか?」

 

 挑発的に問うケビン。

 

「こっぱみじんのミジンコちゃんよ」

 

 チームリーダーである万太郎が自信たっぷりに答え、“ザ・坊っちゃんズ”の方針は決まった。

 一方の“新星・ネオ・イクスパンションズ”陣営、ネプチューンマンもまた相方に語りかける。

 

「この試合、次に必殺級のツープラトンを決めたほうが勝つな」

「ああ。ならばオレたちが狙うのは……」

「オレを誰だと思っている?」

 

 遠回しな言い方をするネプチューンマンに、ウォーズマンはフッと笑った。

 

「わかっている。ネプチューンマンの代名詞とも言えるツープラトン……あの技しかあるまい」

 

 ヘル・ミッショネルズ、ヘル・イクスパンションズ、新星(ノヴァ)・ヘル・イクスパンションズ、そしてネオ・イクスパンションズと、ネプチューンマンが4チームに渡って愛用してきた誇りの技だ。

 パートナーがウォーズマンだとしても、フィニッシャーはアレしか考えられない。

 

 各々の意思が統一され、沈黙が数秒。

 トーナメント・マウンテンの麓に集った30万人がごくりと息を呑んだ。

 その次の瞬間である。

 

「いくぞ!」

「おう!」

「ウリャー!」

「タァッ!」

 

 ネプチューンマン、ウォーズマン、万太郎、ケビンが一斉に声を発し、リング中央へ駆け込んでいく。

 まるで示し合わせたかのようなポーズ――肩を前に突き出した構えで。

 

『4人一斉にショルダータックルだ――っ!』

 

 スピード、タイミング、共に同じ。

 ならばインパクトも一瞬。

 

『衝突~~っ! リング中央で四葉の超人クローバーが咲いた~~っ!』

 

 肩をぶつけ合う4人のファイナリストたち。

 どうやらパワーも互角。

 誰が誰を突き飛ばすこともなく、やはり同タイミングで肩が離れた。

 

『弾けたクローバー! 衝撃で体勢の崩れる4人! 真っ先に次の攻撃に移るのは……』

 

 それぞれがニ歩、三歩後退し、片膝を折る。

 ここから体勢を立て直し、次の攻撃に移る速度でさすがに差が出た。

 一番乗りを果たしたのは――

 

『万太郎だ――っ! 低空タックルを仕掛けネプチューンマンの両足を持った――っ!』

 

 万太郎が仕掛ける技は、スープレックス。

 多くのスープレックスは相手の胴や腕など上半身の一部を捕らえるが、この技は下半身である足を捕らえることで相手の動きを大きくする。

 

「くらえ! 21世紀の日本超人である農村マンから伝授された必殺技……脱穀スープレックス――ッ!」

 

 動きが大きい分勢いも強くなり、単純に激突する面が増えるのでダメージも倍増。

 超人オリンピック・ザ・レザレクションではセコンドも務めてくれた未来の友の技を借り、万太郎は最終局面における先制攻撃を決めた。

 

『万太郎、相手の前面いっぱいをキャンバスに叩きつける豪快なスープレックスを見せた――っ!』

 

 ライバルが活躍を見せるのであれば、己もうかうかしてはいられない。

 

「ならばオレは!」

 

 超人オリンピックの21世紀チャンピオンとして、ケビンマスクも仕掛けにいく。

 ウォーズマンの右腕と首を両腕でまとめて絞め、窒息を狙う。

 

『ケビンマスク、ウォーズマンをスタンディング状態での肩固めだ――っ』

 

 すでに多量の血を吐いているウォーズマンに仕掛ける肩固めは、非常に危険な技だ。

 だが時間をかければネプチューンマンがいずれカットに入ってくる。

 ゆえにケビンマスクはただの肩固めに終わらず、そこから後方に反り投げた。

 

「ビッグ・プロブレム・スープレックス――ッ!」

 

『なんとそのままの状態でスープレックス~~ッ! 頸動脈と脳天落としの殺人二重奏――っ!』

 

 ウォーズマンはダウン。ネプチューンマンも脱穀スープレックスによるダウンから立ち上がれていない。

 ザ・坊っちゃんズのスープレックス攻勢を見て、キン肉マンとテリーマンは老兵たちの限界を悟った。

 

「やはり消耗戦ともなると若さで勝る万太郎とケビンに分があるか~~っ!」

「あのふたりにはK・K・D(火事場のクソ力)大渦(メイルストローム)パワーもある! もうイクスパンションズに逆襲は不可能だ!」

 

 ザ・マシンガンズの見解には文句のつけようがない――が、イクスパンションズならもしかしたら。

 根拠もなくそう思ってしまう超人だっている。ブロッケンJrとジェロニモがそうだった。

 

「ネプチューンマンとウォーズマンにだって20世紀の時代から闘っている経験があるぜ!」

「年老いてもなお現役で勝ちたいという執念だって凄まじいだ! まだまだひっくり返せる!」

 

 ザ・坊っちゃんズと新星・ネオ・イクスパンションズへの応援が入り乱れる観客席。

 地鳴りのような歓声はもちろん決勝のウォーキューブにも届いている。

 ならば何度だって立ち上がってやるさ――それが正義超人というものだ。

 

『ネプチューンマンとウォーズマン、ほぼ同時に起き上がり……』

 

 ムクリと起き上がった両名に言葉はなく、ただギラついた眼光で相手を射る。

 野性的な威圧感をもって少しばかりでもひるませれば、それは回避不能な隙となるだろう。

 

『肉食獣のような勢いでそれぞれ万太郎とケビンに飛びかかった――っ!』

 

 ザ・坊っちゃんズは動かない。いや動けない。

 まさに肉食動物を目の前にした草食動物がごとく、襲い来る技に備えることしかできなかった。

 

「ダブルシベリアン振り子落とし――っ!」

 

 ネプチューンマンはケビン、ウォーズマンは万太郎の首に両足を挟んでそこを軸にする。

 相手の足方向に絡みつくように回転し、流れるような動作で片腕を取り脇固めへと移行した。

 

『イクスパンションズ、ザ・坊っちゃんズのふたりを脇固めでキャンバスに組み伏せた――っ! まさに超人界においてどちらが上か、現実を突きつける熟練の一撃~~っ!』

 

 組み伏せられた万太郎とケビンに焦りはない。

 見せた表情は――気づき。

 

「こ……これは……」

「このふたり……そうか」

 

 腕を通して伝わってくる2大伝説超人のパワー。

 そこに、もしかしたらこのままへし折られるのではないかという恐ろしさはなかった。

 本人たちもそれを理解しているのか、脇固めには固執せずすぐに身を離す。

 

『あ――っとイクスパンションズ、すぐさま脇固めを解除! ザ・坊っちゃんズのふたりをリング中央に残し、ネプチューンマンとウォーズマンは距離を取った――っ!』

 

 ハァ、ハァ、ハァ――と、ネプチューンマンとウォーズマンのつらそうな息遣いがウォーキューブ内に響く。

 そんなものは幻聴だ、後輩に弱みを見せてなるものか、とふたりは威勢を強めた。

 

「いくぜウォーズマン! 決着のときだ――っ!」

「おう! 我らの必殺のツープラトンで――っ!」

 

 左腕を高く振り上げ、対角線上に向かい合う。

 間にはもちろん、ターゲットであるザ・坊っちゃんズのふたりを挟んで。

 

『出た~~っ! タッグそれぞれが左腕を構え、間に置いた敵チームの首を狩る……ネプチューンマンチームの象徴的必殺技、クロス・ボンバーの体勢だ――っ!』

 

 リングの中央に立つザ・坊っちゃんズは、互いに背中合わせになって正面の対戦相手を警戒。

 万太郎はネプチューンマン、ケビンマスクはウォーズマンの動き出しに気を配った。

 脇固めによるダメージはほぼない。ふたりは背中越しに話し合う。

 

「さ、さっきの攻防……気づいてるよね、ケビン」

「ああ。イクスパンションズ……もうふたりとも力が残ってねえ」

 

 シベリアン振り子落としを通して感じた新星・ネオ・イクスパンションズふたりのパワー。

 それは試合序盤と比べれば見る影もない、テクニックだけでどうにか技を絞り出したという感じだった。

 おそらく必殺技は出せてあと一回だろう。

 

「このやや尚早ともいえるタイミングのクロス・ボンバー発動がなによりの証拠。ふたりとも、これで決めるしか道がないんだ」

「光の管……オプティカルファイバー・パワーも展開されていない。それだけの余力のなさ。ならばオレたちの取る選択はひとつ!」

 

 ついに新星・ネオ・イクスパンションズの限界が見えた。

 が、限界を迎えつつあるのはザ・坊っちゃんズも同じ。

 すなわち、このクロス・ボンバーを破れるかどうかが試合の明暗を分ける。

 

「いくぜ! ザ・坊っちゃんズ!」

「オレたちの……クロス・ボンバーを!」

 

 ネプチューンマンもウォーズマンも互いに小細工抜き、真っ向からクロス・ボンバーを放とうとしている。

 

「このツープラトンを破り……ボクたちのツープラトンで返す!」

「やってやるぜ、クロス・ボンバー返し!」

 

 だからこそ、万太郎とケビンマスクも真っ向からこれを受け止める構えを取った。

 重心を下げ、両手は開手。それぞれの相手に向ける。

 

『あ――っとクロス・ボンバーが迫る! 万太郎とケビンはそれぞれ両手を前に出しそれを受け止める構えか~~っ!?』

 

 万太郎が見据えるのは、父キン肉マンも打ち勝ったことがある元完璧(パーフェクト)超人ネプチューンマン。

 ケビンが見据えるのは、敬愛する師にして父ロビンマスクの愛弟子でもある“ファイティング・コンピューター”ウォーズマン。

 繰り出されるのは左のラリアット――それを両手で受け、止める。

 

 ザ・坊っちゃんズの狙いはシンプルかつ明瞭。

 トーナメント・マウンテンに集った30万人の中にふたりの思惑がわからぬ者はいない。

 客席の“ジ・アドレナリンズ”もまた同じく。だがテリー・ザ・キッドは同期ふたりの挑戦に危機感を訴える。

 

「無謀だ! 難攻不落のクロス・ボンバーを手で受け止めるだなんて!」

「いや! よく見ればオプティカルファイバー・パワーが通っていない! 素のクロス・ボンバーなら可能かもしれん!」

 

 ロビンマスクは逆に、このクロス・ボンバー破りにこそ息子ケビンの勝機があると見た。

 他にもキン肉マンが、テリーマンが、ブロッケンJrが、ジェロニモが、スカーフェイスが、ジェイドが、名だたる強豪超人たちが異なる観点、異なる見解を持ってリング上の動きを見守った。

 

 ネプチューンマンとウォーズマンが、ザ・坊っちゃんズ越しに視線を合わせる。

“同志を察するはヘソに在り”。

 それがツープラトン発動の合図となった。

 

 新星・ネオ・イクスパンションズのふたりが掛け声もなく走り出し、即座に万太郎とケビンも反応。

 豪腕が目の前に迫ろうとも引かず、一瞬たりとも目を離さない。

 あっという間に4人の間にあった距離が消え、衝突の瞬間が訪れた――

 

『な……なんだぁ~~~~っ!?!?』

 

 真っ先に轟いたのは、実況の今大会最大といっても過言ではない大声だった。

 マイクを通して響き渡る大音声(だいおんじょう)が示すのは、驚愕。

 自分の目にしている光景が、リング上で展開されている攻防が信じられない。

 信じられないが……実況のプライドにかけ、あるがままを伝えるのみ!

 

『ザ・坊っちゃんズ、持ち上げられている――っ! クロス・ボンバーに走ったかと思われた新星・ネオ・イクスパンションズ、土壇場で腕を下げタックルに切り替え万太郎とケビンを捕獲……それぞれを抱えてリング高く上昇していく~~っ』

 

 ザ・坊っちゃんズはクロス・ボンバーを受け止めることができなかった。

 かといって新星・ネオ・イクスパンションズも万太郎とケビンの仮面を狩れてはいない。

 いや、狩れていないのではなく、狩る気がなかった――そう思わざるをえないほどの鮮やかなスイッチ。

 

「イクスパンションズが……」

「クロス・ボンバーを……捨てた!?」

 

 タックルに切り替え空中戦に移行しているのはその証明。

 万太郎もケビンも相手が繰り出した予想外のカードに、一瞬対処を迷う。

 

『そ……そして! ネプチューンマンとウォーズマンが仕掛けるこの技は――っ!?』

 

 イクスパンションズのふたりが捕らえているのは、どちらも相手の胴。

 天井高くまで上昇したところで一旦リリースし、それぞれ異なる形に固め直す。

 その見慣れたムーブを前に声を荒げたのは、やはりこの少年。

 

「あ……あああ~~っ! キン肉バスターとキン肉ドライバーだ!」

 

 正義超人界一の頭脳、アレキサンドリア・ミートくんがそう断言する。

 ネプチューンマンは逆さにした万太郎の両足首を掴み、脇の下に足をフックさせる形。

 ウォーズマンは逆さにしたケビンの両大腿部を掴み、肩の上に首をフックさせて担ぐ形。

 キン肉マンが有する必殺技の2大巨頭、“五所蹂躙絡み”と“疾風迅雷落とし”である。

 

『なんとネプチューンマン、万太郎をキン肉ドライバーに……そしてウォーズマンはケビンマスクをキン肉バスターに極めている――っ! ま、まさかここから……我々もよく知る“あの”ツープラトンに入ろうというのか~~っ!?』

 

 キン肉バスターとキン肉ドライバーの同時発動など、“至高のツープラトン”といわれたマッスル・ドッキング以外にありえない。

 しかしそれは“宇宙超人タッグ・トーナメント”覇者、ザ・マシンガンズの必殺技だ。

 イクスパンションズがなぜ――と観衆が疑問視する中、ネプチューンマンが言う。

 

「この“究極の超人タッグ戦”! 時間超人の襲来によって大きく歴史が歪み、前身であった“夢の超人タッグ戦”覇者、ザ・マシンガンズの優勝は幻と消えてしまった! 再度頂きを目指したキン肉マンとテリーマンは途中敗退……あまりに報われねえ! だからせめて、このタッグトーナメントの幕だけは……あのふたりの情念が込められし“至高のツープラトン”で引かなければならない~~っ!」

 

 ネプチューンマンは試合前から決めていたのだ。この技をフィニッシュ・ホールドにすると。

 歴史の改変という神をも恐れぬ所業。その重さを知るネプチューンマンだからこその選択である。

 クロス・ボンバーと共に歩み、34年を経てなおクロス・ボンバーを磨き続けた男が、クロス・ボンバーを捨てる――それだけの決意、それだけの友情だ。

 

「聞いたかキン肉マン! やつの思いを!」

「ネプチューンマン……おまえというやつは~~っ!」

 

 かつてネプチューンマンと激闘を繰り広げたテリーマンとキン肉マンは感涙し、今一度イクスパンションズの勝利を願った。

 だが技にかけられたザ・坊っちゃんズ――万太郎とケビンマスクは冷静さを失ってはいない。

 

「本職のザ・マシンガンズならばともかく、ボクたちがこんな手垢のついた必殺技を……」

「今さら……破れないとでも思ったか! 愚策にもほどがあるぜ、イクスパンションズ!」

 

 万太郎は自身がケビンにやられたこともあるキン肉ドライバー破りを、ケビンは万太郎にやったこともあるキン肉バスター破りを実行しようとする。

 

『万太郎にケビン、それぞれ脚と首のフックを切りキン肉ドライバーとキン肉バスターを破ろうと動く――っ!』

 

 21世紀の超人格闘術を知る彼らにとって、キン肉ドライバーとキン肉バスターを破ることはそう難しくない。

 ましてやマッスル・ドッキングは超高難度の合体技。いかにベテランといえど、満身創痍のふたりが再現などできるものか。

 万太郎とケビンはネプチューンマンのセンチメンタルになど付き合ってはいられないとばかりにもがき――だがしかし。

 

『あ――っとバスターとドライバーをかける二組を繋ぐように、上下に光の管が走った――っ!』

 

 上に位置するウォーズマンの両大腿部から。

 下に位置するネプチューンマンの両肩から。

 上下に光の管が走り、ふたりを連結する。

 

「あれは……クロス・ボンバーのときに使われていた光ファイバーのレール!」

「そうか! 21世紀の超技術を……あの高難度ツープラトンの補助に使うつもりか~~っ!」

 

 マシンガンズのふたりは瞬時に理解した。

 イクスパンションズが仕掛けようとしているのはただのマッスル・ドッキングではない。

 ネプチューンマンが21世紀から持ち出した最新技術を転用させた、未来形マッスル・ドッキングなのだ。

 

「オプティカルファイバー・パワーにはこういう使い方もある! 来いウォーズマン!」

「オオ! 遠慮なくいくぜネプチューンマン!」

 

 ネプチューンマンが真上の盟友に合図を出し、ウォーズマンが真下の盟友に答える。

 連結されたオプティカルファイバー・レールはイクスパンションズを導き合う。

 ネプチューンマンにウォーズマンという、本来は交わることがなかったふたりによるツープラトン。

 それが今、“究極の超人タッグ戦”の幕引きとして放たれた。

 

「オプティカルファイバー・マッスル・ドッキング――――ッ!!」

 

『ネプチューンマンとウォーズマンの最強ツープラトンが一気にキャンバスに落下――っ!』

 

 ネプチューンマンの肩に乗る形でキン肉バスターを炸裂させたウォーズマン。

 ネプチューンマンもまたウォーズマンの重量を乗せたキン肉ドライバーを決めた。

 2大必殺技の融合が今大会最大級の破壊力を生み、周囲に余波をもたらす。

 

『凄まじい技の衝撃と風圧でトーナメント・マウンテン決勝ウォーキューブの天井が吹っ飛んだ――っ!』

 

 ウォーキューブ全体を破壊せんほどの威力に、しかし万太郎とケビンの意識は途絶えていなかった。

 それぞれドライバーとバスターの体勢に固められたまま、言葉を紡ぐ。

 

「ま……まさか、マッスル・ドッキングにオプティカルファイバー・パワーを合わせてくるなんて……」

「さ、さっきの……脇固めを仕掛けられた感じでは、もう余力は残っていないものと……だからクロス・ボンバーのときも……オプティカルファイバー・パワーを展開できないのだと読んだのに……」

 

 ふたりとも、あのときの感覚が錯覚だとは思えない。

 しかしウォーズマンとネプチューンマンは語る。

 相手に好機と思わせることは戦術の初歩だ、と。

 

「すべては撒き餌だ。オレたちがクロス・ボンバーで決めにいくと思い込ませ、マッスル・ドッキングを成功させるための油断と隙を作った」

「なにせ余力がなかったのは真実。こちとら50過ぎのおっさんだからな……老獪に立ち回らなきゃ、とてもおまえたち相手にこんな大技は仕掛けられねえ」

 

 そう言って、イクスパンションズはマッスル・ドッキングを解除。

 キン肉万太郎とケビンマスクのふたりが――“ザ・坊っちゃんズ”がキャンバスに崩れ落ちる。

 

「こ、これが50過ぎになっても現役を貫く伝説超人のファイト……」

「な……なるほど……頭にくるほど勉強になったぜ……」

 

『万太郎にケビン、ダウンだ~~っ』

 

 リング上に立つのはネプチューンマンとウォーズマンのふたり――“新星・ネオ・イクスパンションズ”のみ。

 

「カ……カウントを!」

 

 宇宙超人委員会のノックが身を乗り出すが、隣のハラボテ・マッスルがすぐにそれを制した。

 

「ダウンカウントはいらん」

 

 厳格な態度でそう告げ、握りしめた木槌を振り上げた。

 これでラスト。

 渾身の一撃をゴングへと叩き込む。

 

「試合終了じゃ~~っ!」

 

 カン!カン!カン!

 誰もが知る決着の合図が、トーナメント・マウンテンに響き渡る。

 

『あ――っとここで終戦のゴングが奏でられた――っ! この瞬間、“究極の超人タッグ戦”決勝戦は完全決着! リング上に立っているのはネプチューンマンとウォーズマン! キャンバスに倒れるのはキン肉万太郎とケビンマスク! 老齢超人コンビ“新星・ネオ・イクスパンションズ”が……“ザ・坊っちゃんズ”をくだし優勝を決めた――っ!』

 

 実況のアナウンスを受け、ネプチューンマンは30万人の大観衆に向き直った。

 左手の人差し指を立て、高く天に突き上げながら、自らの存在を示す。

 

「ナンバ――――ワ――――ン!!」

 

 今、老醜を晒し続けた男が捲土重来を果たした瞬間であった。

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