ネプチューンマン・リビルド “究極の超人タッグ編Ⅱ” 作:速筆魔王LX
――“究極の超人タッグ戦”終結、そして
東京、田園調布は
狭い室内の中央に置かれた練習用の四角いリング。
その脇でサークル状に座っている超人は、9名。
家主であるブタ鼻マスクの超人、キン肉マン。
その相棒たる金髪のハンサムガイ、テリーマン。
鉄仮面に鎧を纏った倫敦の若大将、ロビンマスク。
中国拳法の道着を着た辮髪の闘将、ラーメンマン。
立派な2本の角を頭に生やす巨漢、バッファローマン。
軍服を着込み軍帽を目深に被った青年、ブロッケンJr。
インディアンのような風貌をした長髪の若者、ジェロニモ。
左側頭部にヘッドギアを装着する新鋭、カオス・アヴェニール。
そして話を切り出したのは、この錚々たる面々を招集した張本人――“叡智の子”と呼ばれたこともある正義超人軍参謀、アレキサンドリア・ミートくんである。
「今日集まってもらったのはほかでもありません。先に行われた“究極の超人タッグ戦”……その反省会を開くためです」
悪行・時間超人の襲来に始まり、未来からタイムワープしてきた21世紀の正義超人・新世代超人をも巻き込み“宇宙超人タッグ・トーナメント”をやり直すこととなった一連の騒動。
その騒動は万事解決、平和が訪れたわけだが……それで話を終わらせるわけにはいかないと、ミートはこういった場を設けたのである。
「だはは~! なにをおかしなこと言うんじゃミートよ。あのトーナメントは未来から来たネプチューンマンとウォーズマンが優勝を掴み、無事に終わったではないか。反省することなどなんにもなかろ~~っ」
反省などという雰囲気とは無縁の大笑いをしてみせたのは、キン肉マンである。
おちゃらけた主の様子を見て、従者であるミートは毅然とした態度で言う。
「い~え! あなたがた
「えー」
「えーじゃない! 我々正義超人には今後もつらく厳しい闘いが待ち受けている……同じ過ちを繰り返さないためにも、反省すべき点を話し合い、各々に自戒してもらわなければいけません!」
先の悪行・時間超人退治、正義超人としてスマートに解決できたかといえば否だ。
むしろミートが言うとおり反省点のほうが多くあり、だからこそそれをあらためて見直す必要がある。
未来へのバトンを繋ぐ者として、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
「フッ、要するに戦犯会議というわけか」
正義超人軍のリーダーであるロビンマスクはこの場を仕切るようにそう言った。
戦犯――戦争犯罪人を意味する言葉だが、この場における意味合いは異なる。
ざっくり言ってしまえば、“足手まとい”。
こいつが余計なことしなければもっと上手くいったんじゃ、という対象を意味する。
「ならばキン肉マン。ここは満場一致でおまえだろう」
「へ?」
ロビンに名指しされ、キン肉マンはきょとんとした表情を浮かべた。
ロビンマスクは構わず続ける。
「我々20世紀の正義超人が“究極の超人タッグ戦”において最も反省すべき点……それは21世紀からやって来た新世代超人の面々を悪行・時間超人の一派だなどと疑い、協力要請を突っぱねたことにある。その中でも、一番頑なだったのがおまえだ。違うか? キン肉マン」
未来からのタイムワープ――伝説超人の面々は皆、新世代超人たちの話を受け入れずその真贋を疑ってばかりだった。
中でも一番頑固だったのがキン肉マンだ。
彼はキン肉万太郎という自分と瓜二つの息子がいたにもかかわらず、彼らを徹底的に嫌い続けた。
ロビンの指摘にウンウンと頷いてみせたのが、バッファローマンとラーメンマンの“2000万パワーズ”である。
「ロビンの言うとおりだな。この男は未来の可愛い後輩をペテン師だのなんだの、いちゃもんばかり言っていた」
「その態度は最後まで変わらなかったものなぁ。“万太郎、わたしはおまえを息子とは認めんぞ! だははは!”……だったか?」
新世代超人たちが帰る際の万太郎とのやり取りを挙げつつ、半ばふざけ気味にキン肉マンをいじる。
「や……やだなぁ、ふたりとも。それは照れ隠しというか、茶目っ気というか……」
しかしジトーッと睨まれた本人としてはたまったものではなく、キン肉マンは冷や汗をかきながら頭を掻く。
咄嗟、隣に座っていた頼れる相棒、テリーマンに耳打ちをした。
「のうテリー。フォローを頼む」
キン肉マンは旗色が悪いと見て、無二の親友に助け舟を求めたのだ。
テリーマンは黙って頷く。
「たしかに、キン肉マンが早期に万太郎たちと打ち解けていればミーたちの対悪行・時間超人における戦略も変わったかもしれん」
ドテッとずっこけるキン肉マン。
「テ、テリーちゃんまでそんな……」
親友の裏切りに遭い、窮地に追いやられた奇跡の逆転ファイター。
超人オリンピックV2チャンピオンが正義超人の戦犯などあってはならない。
だがそこは火事場のクソ力を有するキン肉マン、ピンチだからこそのひらめきを得て、声を大きくする。
「い、いや! わたしは戦犯などではな~い! そう、わたしにはこの中の誰にも成し遂げられなかった大いなる功績があるではないか!」
大声で皆の注目を集め、そこからギョロリと視線を一方向に向ける。
「そうだろう、カオスよ!?」
「え、ワチキ?」
賛同を求めたのは、キン肉ハウスには初来訪であったためかやや緊張した様子のカオス・アヴェニールだった。
「わたしは準決勝直前、壁にぶつかっていた万太郎とカオス……“マッスルブラザーズ・ヌーボー”のコーチ役を務め、ふたりの成長の手助けをしたという大功績があるのだ! あれがなければ万太郎たちは“ジ・アドレナリンズ”に勝つこともできず、“
勝った! これぞキン肉マン流の完璧な論破だ!
勝利を確信し呵々大笑するキン肉マンだったが、皆のリアクションは薄い。
「カオス、どうなんだ?」
ロビンマスクはキン肉マンの態度になど惑わされず、真偽のほどをカオスに問う。
「たしかに、それはそのとおりだ……」
カオスは重々しく視線を下げ、あのときのことを振り返る。
ライトニングとサンダーへの復讐心に囚われ、正義の道を見失っていた己――それを正してくれたのは、先日未来へと帰っていった万太郎、そして彼の父であるキン肉マンだ。
そのことを考えればとても戦犯などとは呼べない。呼べないのだが――
「しかしあれはキン肉マンではなくザッ・シャネルマンの功績だ」
「だそうだぞキン肉マン」
またもやドテッとずっこけるキン肉マン。
万太郎のコーチ役を務め、復讐心に呑まれていたカオスを叱咤したのは、キン肉マンではなくザ・シャネルマン。かつて全米を震撼させた恐怖の男だ。
今さら「実はあれはキン肉スグルちゃんだったのよ~ん!」などと言って正体を打ち明けるのも格好が悪い。いや戦犯扱いを受けるよりはマシか? キン肉マンはグムム……と考え込んだ。
そうこうしているうちに、今度はジェロニモとテリーマンの“ニュー・マシンガンズ”が続く。
「それに、新世代超人の成長のアシストだったらオラやテリーマン先輩だってしてるズラ」
「キッドと組んでいたロビンマスクは言わずもがな、バッファローマンとラーメンマンの“2000万パワーズ”も直接対決で“マッスルブラザーズ・ヌーボー”を鍛え上げたと言えるわけだしな……そうなると、足を引っ張ったのはおまえだけとも言える」
ベストパートナーと信じていた男の辛辣な言葉を受けて、キン肉マンは不格好な体勢でキン肉ハウスの冷たい床を転がった。
「しょ、しょんな~~っ」
「王子……」
これが後にキン肉星第58代大王と呼ばれるお方の姿なのか……と情けなくなる思いをしまい、ミートくんはふぅと息をつく。
このままでは話がただのキン肉マンいじめになってしまう。
ミートとしてもそれは本意ではない。ここは少々反則気味な手段にはなってしまうが、助け舟を出すべきだろう。
「皆さん言いたい放題言っていますが……王子ばかり責められたものではありませんよ」
そう言いながら、これみよがしに一冊の本を取り出す。
真っ先に反応したのは、かつては因縁の復讐戦を経たこともあるラーメンマンとブロッケンJrのコンビだった。
「そ、それはまさか……超人界の歴史やこの世に存在する超人についての事柄が余すことなく網羅されているという……」
「新世代超人のやつらが21世紀の時代から持ってきた歴史書、“宇宙超人大全”か~~っ!?」
21世紀ミートが過去の自分に託したその書物には、トロフィー
そんな大事な本を、新世代超人たちはまさか未来に持ち帰らなかったのか!?
ミートは言う。
「いえ、これは週刊プレイボーイ・コミックス『キン肉マンⅡ世“究極の超人タッグ編”』第2巻です」
ミートを除く8人がその場でズコーッとずっこけた。
近年では新品で手に入れることは非常に難しく、ブック◯フのような古本屋市場でもお目にかかれる機会は滅多にない……アマ◯ンに代表される通販サイトを利用しようとも、タイミングが悪ければ高額な中古品を掴まされることもままあるレア物だ。筆者も持っていたコミックスに抜けがあったので買い直そうとしたがなかなか見つからず、ネットで一冊一万円以上で出品されているのを見かけたが結局電子書籍で買い直した。
「この本によれば、王子だけでなくテリーマンやジェロニモも万太郎さんたちのことを『悪の超人の一味』と罵っていますし、ブロッケンJrは未来の愛弟子であるジェイドを『変ちくりん』とも言っています」
「ウググ……トーナメント・マウンテンの頂上に時間超人や新世代超人が降ってきたときのことか」
ブロッケンJrはそのときのことを思い出し、歯噛みする。
そうなのである。
友を救うために決死のミッションに挑んだ新世代超人を相手取り、悪の輩だのなんだの罵倒したのはキン肉マンだけではない。
まだ事情を知らなかった頃のこととはいえ、過ちは過ち。テリーマンとジェロニモとブロッケンJrの3人は穴があったら入りたい気持ちだった。
「いやしかし、これ読み返すとミートもけっこう酷いこと言ってるぞ」
オタクゆえの好奇心か、いつの間にかミートの手元からコミックスをかすめ取りパラパラとページを捲っていたカオスが言う。
テリーたちがいい感じに反省してくれたことで調子をよくしていたミートは一転、ギクリと肩を震わせた。
おもしろがったテリー、ジェロニモ、ブロッケンがカオスの読むコミックスを覗き込む。
「そういえば……ミートは21世紀の超人たちが着るファッショナブルなコスチュームを『タイツじゃなきゃ認めない』とかなんとか否定しまくっていたな」
「バリアフリーマンなんて名指しで『老人が悪行超人とまともに闘えるわけないでしょう』とか言われてただ」
「おいここ見ろ。未来の自分と記憶を同期するシーンで『気味悪いやつらめ~~っ』とか暴言吐いてるぞ。ミートにもこういうクソガキっぽい一面があったんだな」
「その後の掌返しもこれまたすごい。主人として恥ずかしいわい」
フォローしてあげたキン肉マンまでおもしろがってミートをいじる側に回っていた。
ミートは赤面しながら、どこからともなく取り出した巨大ハンマーでキン肉マンの頭をぶっ叩く。
「オワアア~~ッ! ボクのことはどうでもいいでしょうが――っ!」
「ぎょえ~~っ!? なんでわたしだけ~~っ!?」
キン肉マンがたんこぶを作りながらレロンレロンと目を回している最中、ミートは大急ぎでコミックスを回収後即焼却。証拠を隠滅してからコホンと咳払いをする。
「ま、まあ王子や皆さんにも反省すべきところは多々あったということで……」
「ずる~~っ」
キン肉マンの胡乱げな眼差しに怯む様子もなく、話題を切り替えることにした。
「悪かった部分だけを挙げるのも健康的ではありません。ここはひとつ趣向を変え、我々の中のMVPを決めてみませんか?」
ミートが発した一言は、“究極の超人タッグ戦”チャンピオンという栄光を掴み損ねた一同に大きな衝撃を与える。
「エ……MVP!」
MVP。
それは主にスポーツにおける最優秀選手へ送られる称号。
すなわち、“あなたは大活躍しました”という栄冠である。
それは我にこそ相応しい――と高笑いしたのは、仮面を被ったこの男だった。
「フハハハハ! それならば議論するまでもない! MVPはこのロビンマスクをおいて他にいないだろう!」
自信たっぷりに言うロビンを前に、ブロッケンJrとジェロニモのふたりがごくりと息を呑む。
「た……たしかにロビンはテリー・ザ・キッドとのコンビ“ジ・アドレナリンズ”として、前チャンピオンの“ザ・マシンガンズ”を倒した……」
「戦績の面で見てもセミファイナリスト。オラたち20世紀の正義超人の中では、最終目標だったトロフィー球根に最も近づいた超人と言える……」
ブロッケンとジェロニモの反応に、ロビンは勝ち誇ったような笑みを見せる。
それを憎々しく思いながら、吐き捨てるようにキン肉マンが言った。
「でも万太郎とカオスに負けたじゃん」
「な、なにぃ~~っ!」
ライバルからの鋭い指摘に、ロビンは立ち上がり憤った。
釣られてキン肉マンも立ち上がり、皆よりも高い位置から言い争いを始める。
「トロフィーを手に入れたわけでもなく、悪行・時間超人に一太刀入れたわけでもない! おまえなんぞ自分勝手に好き放題暴れただけじゃろうが~~っ!」
「こいつ! なんたる言い草だ! 私にはセコンドとして“
ロビンをMVPとは認めたくないキン肉マンvs私こそMVPだと主張して退かないロビンマスク。
そんなおとなげないやり取りを見て、彼らより年齢が若いブロッケンJrは言う。
「思うんだが……普通にネプチューンマンとウォーズマンがMVPじゃダメなのか?」
伝説超人における最大の功労者は誰なのか――それを考える上で、覇者であるふたりの存在は無視できないだろう。
なにせ悪行・時間超人を倒したのも、トーナメントを優勝しトロフィー球根をゲットしたのも、同じ伝説超人……ネプチューンマン&ウォーズマンの“新星・ネオ・イクスパンションズ”なのだから。
しかし、キン肉マンとロビンマスクは声を荒げる。
「ダメに決まっとるだろう! この時代のあいつらは今死んでるんだから!」
「私たちは今この場にいるメンバー内での話をしているんだ!」
「そ、そうか」
あまりの迫力に引き下がるブロッケンだったが、彼にはキン肉マンとロビンが“そのふたりには絶対に勝てないから無視だ無視!”と言っているように思えてならなかった。
バッファローマンもまたブロッケンと同じように感じ、ため息をこぼしてから発言する。
「21世紀から来たおっさんネプチューンマンとおっさんウォーズマンを認められないキン肉マンとロビンマスクの気持ちもわかるが……そういうことならもうひとり、この場にはいないが無視できないやつがいるだろう」
「誰じゃいそりゃ」
聞き返すキン肉マンに、バッファローマンは答える。
「アシュラマンだよ」
アシュラマン――それは“究極の超人タッグ戦”に電撃参戦を果たした、悪魔超人の現首領格だ。
正義超人でない彼はこの反省会に参加こそしなかったが、ネプチューンマンやウォーズマンと違い紛れもなくこの時代を生きる超人。MVPの称号を賜る資格はあるだろう。
「オレたち世代で“世界五大厄”と直接対決をしたのはやつだけだ。敗れはしたが、やつは“伝説”破壊鐘の破壊に、ライトニングの真の姿を暴き……さらにはネプチューンマンたちにアクセレレイション対策の考察材料を与えた。功績という面において、やつ以上の仕事をした超人はいないと思うが?」
バッファローマンの展開する正論には、さすがのキン肉マンも口ごもった。
「し、しかし……アシュラマンは悪魔超人だし、ここにはいないしのう……」
悔しそうに食い下がるキン肉マンの腕を、隣のテリーが引き座らせる。
「どちらにせよキン肉マン。おまえにMVPの可能性はないぞ」
「グムム……」
キン肉マンが引き下がったのを確認し、ロビンマスクも腰を下ろした。
「ではやはり、MVPはこの正義超人軍リーダーであるロビンマスクということで……」
対抗馬がいなくなり今度こそ勝利を確信したロビンだったが、それに待ったをかける挙手がひとつだけあった。
「いえ、ボクはブロッケンJrを推します」
「ミ……ミート!?」
強面の男たちが集う場において最も小さな少年の掌が、軍服軍帽の超人に向けられる。
「オ、オレがぁ?」
ブロッケンJrはまさか自分の名が挙げられるとは思わず、素っ頓狂な声をあげる。
自分の絶対的味方であると信じて疑わなかったミートの言動を受け、キン肉マンは慌てて口を挟んだ。
「なにを言っとるんじゃミート~~ッ! 言っちゃ悪いがブロッケンは“究極の超人タッグ戦”には不参加……かといってジェロニモのように新世代超人のスパーリングパートナーを務めたわけでもない! せいぜいビール飲んでソーセージ食いながらわたしたちの試合を観戦していただけじゃろうが~~っ!」
「んなことやってねぇ!」
とんでもない風評被害を訂正しつつも、ブロッケンJrはミートが言わんとすることを理解した。
おそらく彼は知っているのだ。
自身がネプチューンマンから依頼されたあの裏仕事――悪魔超人ザ・ニンジャと協力し、完全無比の球根を狙う悪行超人コンビ“カーペット・ボミングス”を闇討ちしたという事実を。
だからこその推薦。アシュラマンが功労者であるならば、リザーバーであった彼が本戦に進むための道を用意したブロッケンJrの功績も大きいと言えよう。
「王子や皆さんは知らないかもしれませんが、ブロッケンJrは陰で多大なる尽力を――」
「待った、ミート」
しかしブロッケンJrは、発言を続けようとしたミートに待ったをかけた。
正義超人であの出来事を知るのは、仕事の依頼主であったネプチューンマン……それに、師弟のよしみで準決勝の際にそれを打ち明けたジェイドくらいだ。
それ以上は広めるべきではないし、称賛など論外。正義超人として決して褒められた仕事ではないのだから――という想いから、ブロッケンJrは言葉なくミートの推薦を拒否したのである。
「……いえ、そうですね。今の言葉は忘れてください。MVPは他の方に」
「な、なんだったんじゃい」
ミートもブロッケンの心中を察し、多くは語らず引き下がる。
話が振り出しに戻ると、
「フッ。となるとやはり、MVPはあのマシンガンズにも勝利したこの私が」
得意満面といった様子で調子づくロビンに、キン肉マンはカチンときた。
「いいや! 最後の決着はマッスル・ドッキングだったんだから、その生みの親であるわたしこそが相応しい!」
「なんだその飛躍した論理は! 優勝したのは私の弟子と終生のライバルだぞ!」
「だからどうした~~っ! おまえとはなんも関係ないじゃろうが~~っ!」
言い争いはエスカレートしていき、もはや取っ組み合いのケンカとなりそうな勢いだった。
数週間前には超人レスリング史に残る名勝負を繰り広げたふたりが、あまりにも醜い……。
論戦をしばらく静観していたラーメンマンは、声を張り上げる。
「いい加減にしろ!」
怒気を込めた一喝。
さすがのキン肉マンとロビンマスクもピタリと動きを止め、気まずそうな顔でラーメンマンに視線を注いだ。
「ミートの言うとおり、此度の闘い……我々正義超人軍には大いに反省すべき点がある。それなのにMVPの座を欲するなどおこがましいというものだ。この場でその資格がある者がいるとすればただひとり、彼を置いて他にはいないだろう」
そう言ってふたりを非難し、穏やかな視線を向けるのは――いずれ“間隙の救世主”と呼ばれる予定の若者だった。
「なあ、カオスよ」
ラーメンマンがニッと笑み、皆の注目がカオスに集まる。
ただでさえミートを除けば一番の若輩、周りは尊敬する先輩正義超人ばかり。
それゆえに最初からずっと緊張していたカオスは、ラーメンマンからの思わぬ推薦に戸惑った。
「な、なにを言うんだラーメンマン。ミートに呼ばれたから来たけど、そもそもワチキ……いや、オレは伝説超人じゃない。なのにMVPだなんて……」
自分のことなど初めから選択肢に入れていなかったカオスは、重すぎる冠だとこれを拒否しようとする。
そんな若者に対し、ラーメンマンはまた父のような穏やかな表情を向けてくるのだ。
「それを言うなら、現時点の我々とて伝説超人などと呼ばれるほどの器ではない。それは21世紀の未来に住まう人々から与えられる称号……要するに、これからだ」
そう、伝説超人という呼称はあくまでも21世紀の者たちが口にしていたもの。
後の未来において、正義超人は伝説と呼ばれるほどの功績を残す。
その枠組に入る条件は、なによりもこの20世紀の時代を生きることだ。
「おまえは正義超人としてこの時代で生きていくことを決めたのだ。我々と共に在れば、いずれはおまえもそう呼ばれるようになる……違うか?」
「ラ、ラーメンマン……」
ラーメンマンの意見に、カオスと比較的年齢の近いブロッケンJrとジェロニモが頷いてみせる。
「そうだな。バッファローマンにラーメンマン、ロビンマスク……そして実質キン肉マンとテリーマンも破ったと言える男だ。ラストでケビンマスクと交代こそしたが、実績的にもMVPを名乗るにゃ十分」
「ライトニングとサンダーの命を救い、さらにはニュージェネレーションたちが未来に帰るための
「ブロッケンJr……ジェロニモ……」
感激するカオスを見て、キン肉マンとロビンマスクは互いに視線を交わす。
「グムー……まあカオスなら」
「ムムム~~ッ。仕方あるまい」
己の行いを恥じ、押し黙ることで賛同の意を示した。
バッファローマンやミートも頷き、最後にテリーマンがカオスの肩にポンと手を置き言う。
「決まりだな、ニューヒーロー」
20世紀に残った正義超人のMVPは、満場一致でカオス・アヴェニールだ。
「み、みんな……っ」
憧れの大先輩たちに、あらためて正義超人として認めてもらう。
カオスは感動のあまり涙ぐみそうになったが、そんな恥ずかしい姿は見せられないとばかりに立ち上がった。
「よし! それなら後に伝説超人と呼ばれる者のMVPとして……みんなにぜひお願いしたいことがある!」
プロスポーツの世界においても、MVPを受賞した選手は賞金や賞品がもらえるものだ。
「なんだ?」
「握手か?」
「サインか?」
「写真撮影か?」
「養老乃瀧でよければすぐご用意できるが……」
先輩正義超人たちは可愛げのある後輩がなにを要求してくるか予想し、微笑ましく待つ。
カオスはすぐには答えを言わず、皆の注目を集めながら歩き出した。
向かう先は、すぐ隣に設置されていた練習用リング。
ロープを潜ってキャンバスの上に立ち、その中央まで進む。
そして――
「キン肉ハウス……憧れのヒーロー、キン肉マンが日々多くの汗を流した練習用リング。今からここで、オレとガチスパーをしてほしい。キン肉マン、テリーマン、ロビンマスク、ラーメンマン、ブロッケンJr、バッファローマン、ジェロニモ……7本勝負だ!」
勇ましい顔つきでミート以外の各人を見回し、そう要求したのである。
「ガ……ガチスパーだって~~っ!?」
後輩が求めてきたものは、まさかの挑戦状だった。
7人全員が度肝を抜かれたものの、拒否反応を示した者は誰ひとりいない。
真っ先に立ち上がり、ボキボキと手を鳴らしたのはバッファローマン、そして相方のラーメンマンである。
「おもしれぇ。“究極の超人タッグ戦”二回戦のリベンジができるってわけか」
「トロフィー球根のおかげでバッファローマンのロングホーンはもちろん、私の側頭部の傷も完治している……あのときのようにはいかんぞ」
2000万パワーズはカオスに黒星を突きつけられた身。ガチスパーを求められ断ったり手を抜く理由はない。
それは同じくカオスに煮え湯を飲まされたロビンマスク、それに未来に生まれてくる息子を痛めつけられたテリーマンも同様だった。
「リベンジというなら私こそだ。キッドの雪辱も揃えてお返ししてやるぜ」
「ミーも受けて立つ。そもそもマシンガンズは直接対決したわけでもないのに超えられたと思われているわけだしな。ここいらで一度、生意気なボーイに現実ってものをわからせてやろう」
リベンジに燃える超人がいれば、そもそも闘う機会すら得られなかった超人もいる。
ブロッケンJrとジェロニモの若手コンビもまた、闘争心をむき出しにしながら立ち上がった。
「若手のオレたちにできた貴重な後輩だ。将来胸を張って師匠と呼ばれるためにも、後進の指導ってやつを学ばせてもらうとするか」
「“宇宙超人タッグ・トーナメント”で負ったオラたちの傷だってすっかりよくなってる。ここは負けてらんねぇだ」
7人中、6人が早くもやる気満々だ。
残ったもうひとりは、しかし無言。
ひとり辞退するための言い訳でも考えているのかと思いきや、他の6人を制して我先にとリングに上がった。
「ミートよ。ジャッジを頼むぞ」
「王子」
ここはキン肉ハウス。ほかでもないキン肉マンのホームだ。
なればこそ、先陣を切るのがわたしの務め。
そう言わんばかりに、キン肉マンは早くも戦闘モードに入っていた。
「まずはわたしからだ。20世紀のスーパーヒーロー・キン肉マンが、今一度おまえに正義超人魂を叩き込んでやろう」
ガチスパー、望むところじゃないか。
それでこそグレートやマッスル・ブラザーズの名を継ぐ者、キン肉万太郎のタッグパートナーだ――と、キン肉マンは家に遊びに来た息子の友人を歓迎するような心持ちでファイティングポーズを取る。
「やはり親子だ。似ているな……」
キン肉マンの構えに、数十年後の未来でまた会おうと約束した親友の姿を重ね――カオスは戦士の顔つきとなる。
「いくぜ! 股間にイチモツ手にニモツ――っ!」
いずれ伝説超人と呼ばれるような、誇らしい存在になるために。
未来の友たちに、胸を張って再会できるように。
カオスは大先輩たちの胸を借りるのだった。
おわり